08-40 ついに
フロロから『亜竜の翼膜』を反応させる方法について、その前段階の説明を受けたゴローたち。
はっきりいって、ゴローには半分もわからなかったが、ハカセは違ったらしい。
「……要するに魔法というわけかい?」
「9割正解ね」
「残り1割はなんだい?」
「汎用にはなりえないからね。媒体がないと発動しないし」
「つまり、『媒体魔法』に近いというわけかい」
「それでいいと思うわ」
媒体魔法は、エレメントを有する物体を介して発動させる魔法である。
例えば火属性の鉱物の結晶に魔法式を刻んで発熱する魔法石を作ることもそれである。
「亜竜の翼膜を媒体にして発動する魔法かい……」
「少しならあたしもアドバイスできると思うわ」
「是非お願いするよ」
「いいわよ。そのかわり、サナちんに一緒にいてもらわないとね」
「うん」
そういうわけで、フロロ、ハカセ、サナの3人(?)は工房に……。
「ハカセ、それは明日にしましょう」
「う、そ、そうだねえ」
放っておけば徹夜しそうなハカセを止めたゴローである。
「まずはこれをどうぞ」
ホットミルクを出すゴロー。
寝る前のホットミルクは神経を落ち着かせ、熟睡させる効果があると言われる。
逆の説もあるようだが、ハカセの場合はこれでよく眠れるようだとゴローは経験的に知っているのだ。
「ありがとうよ」
「アーレンも。……サナの分もあるぞ」
「うん」
サナのホットミルクは他のものより甘くしてあった。
「フロロも、夜は寝たほうがいいんだろう?」
「そうね、日光もないし」
そんなわけで、『亜竜の翼膜を媒体にして発動する魔法』は翌日の作業とし、その日は皆床に就いたのである。
分別作業をしていたので思った以上に疲れていたようで、ハカセもアーレンもぐっすり眠ったようであった。
* * *
翌日、ハカセは案の定早々と起き出した。
予想していたゴロー、サナ、アーレン、ラーナ、ティルダ、ルナールは早起きして朝食の支度を済ませていた。
慌ただしく朝食を済ませたハカセは、早速フロロとサナを伴って工房に籠もったのである。
「……頭を使った時は甘いものがいいかな」
参加しなかったゴローは、ハカセのためにハチミツ入りのホットミルクを用意した。
「……サナにも用意しておくか……」
そしてサナの分も。
「フロロは……水がいいのかな?」
『木の精』のフロロが何を好むのか見当がつかなかったので、きれいな水を用意しておくゴローであった。
「……ゴローさん、僕らはどうしましょうか」
「そうだなあ」
同じく蚊帳の外のアーレン、ラーナ、ルナール、ティルダ。
「この機会に、『レイブン』の操縦を教えよう」
低速でなら、ルナールだけではなくアーレンやラーナにも操縦できるだろうとゴローは思い、3人に『レイブン』の操縦を教えることにしたのである。
ティルダは流石に『無理なのです』と言って辞退していた。
* * *
「そう、ゆっくり操縦桿を少し倒してみろ」
「は、はい」
操縦席にはルナール。ゴローはその背後に立って指導だ。
浮上している高さは1メルもなく、速度に至っては時速2キルくらい。
これなら落ち着いて練習ができるだろうとゴローは考えたのだ。
「いいぞ。ゆっくり旋回してみようか」
「は、はい」
「そうだ。じゃあ、もう少しだけ速度を上げてみよう」
とはいっても時速4キル、やっと人間の歩く速度くらい。
「よし、右旋回」
「はい」
「左旋回」
「はい」
「いいぞいいぞ」
30分ほどの練習で、ルナールの硬さも取れ、スムーズな操縦ができるようになってきた。
そこでアーレンと交代だ。
ルナールと同じように高度1メル、速度は時速2キルから始める。
「わ、わわわ」
「落ち着け」
「は、はいい!」
それでも、30分も練習していると、ゆっくりならなんとか操縦できるようになってきたアーレンであった。
そしてラーナ。
「ひああああああああ!」
「……まだ浮かんでないぞ」
「ででででででも、あちし、こういうの苦手なんですううううううっ!」
「……やめておこう……」
最近は飛ぶことに慣れてきたアーレン・ブルーよりこういうことに向かないラーナであった。
* * *
さて、お昼時。
「ああ、温かいねえ、甘いねえ」
「美味しい」
「綺麗なお水と日光があれば幸せ」
ハカセもサナもフロロも満足してくれているようなのでゴローもルナールもほっとしている。
だが、まだハカセたちの苦労は終わっていないようで、昼食を食べると再び工房へ籠もってしまった。
「午後も訓練をしようか」
「あちしは遠慮するです……」
「うん、まあ、その方がいいかな」
人には向き不向きがあるしな、と、ラーナに『レイブン』の操縦を教えるのは断念するゴローであった。
だが。
「そうそう、うまいぞ」
「慣れてくると、このくらいならなんとかできますね!」
「随分上達したじゃないか」
「やっぱり空を飛ぶのって、気持ちのいいものですね」
ルナールとアーレンは、『レイブン』の操縦にかなり慣れ、高度10メル、時速20キルくらいまでは危なげなく飛ばせるようになったのである。
* * *
夕方。
「……できたよ……!」
工房からハカセが走り出してきてゴローたちに告げた。
「え? ハカセ?」
「やったんだよ! 『亜竜の翼膜』なら何でも使える魔法回路ができたんだよ!!」
「おめでとうございます!」
「ああ、これで、高性能な飛行機が作れるよ!」
小躍りして喜ぶハカセに、ゴローは、
「お疲れでしょう。お風呂が沸いてますからどうぞ」
と入浴を勧めた。
「ああ、そうかい。ありがとうよ、ゴロー」
上機嫌なハカセは、そのまま浴室へ向かった。
そこへ、フロロを伴ったサナもやって来る。
「お疲れ、サナ、フロロ」
「私は、大丈夫」
「あたしは疲れたわ……少し休む」
フロロ(の分体)はそう言って、研究所前の庭の北西に挿した枝へと消えていった。
「で、どんな感じなんだ?」
「うん。ええと、『亜竜の翼膜を媒体にして発動する浮遊魔法』と言えばいい、かな」
「おお」
その名称で、効果がよく分かるというもの。
「じゃあ、適当に組み合わせた翼膜でも飛べるわけだ」
「そういうこと」
「それは凄いな」
「うん。きっとハカセは明日からそっちをやると思う。でも今日はゆっくり休ませてあげて」
「わかってる」
だからこそ風呂の用意もしたし、夕食も消化のいいものを用意してある。
そして、ゴロー自身、『謎知識』を駆使し、作れそうな機体の構想を練っていたのである。
「明日が楽しみだ」
ゴローもまた、翌日を心待ちにしたのである。
研究所の上には、春の夕空が広がっていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月2日(木)14:00の予定です。
20220724 修正
(誤)予想していたゴロー、サナ、アーレン、ラーナ、ルナールは早起きして朝食の支度を済ませていた。
(正)予想していたゴロー、サナ、アーレン、ラーナ、ティルダ、ルナールは早起きして朝食の支度を済ませていた。
(誤)同じく蚊帳の外のアーレン、ラーナ、ルナール。
(正)同じく蚊帳の外のアーレン、ラーナ、ルナール、ティルダ。
(誤)・・・3人に『レイブン』の操縦を教えることにしたのである。
(正)・・・3人に『レイブン』の操縦を教えることにしたのである。
ティルダは流石に『無理なのです』と言って辞退していた。