08-38 帰還、そして早速
翌日。
寝ていられなくなったハカセが、外が薄明るくなると起き出したのでゴローとサナもすぐに起きた。
それに気付いてルナールも起きた。
フランクは元々眠っていないので、これで全員が起きてしまったことになる。
「ハカセ、早いですね」
「ゴロー、悪いと思ったけど寝ていられなくてねえ」
「わかりますよ」
「すまないねえ」
「俺も朝食の準備を手伝ってきます」
というわけで、ゴローがルナールを手伝ったので、すぐに支度ができる。
冷や飯をお湯で温め直したお粥に、味噌を入れておじや風にする。おかずとしては焼いたベーコン。
「すみません、食材が少なくて」
謝るルナールだが、ゴローは首を横に振った。
「気にするな。研究所の方の食料だって残しておかなければいけなかったんだから」
昨夜は急いでいたし、とゴローは言った。
「それでも、もう少し何か持ってくればよかったと思います」
「それに、幕営する前提の食材を持ってきていなかったからな」
これが一番大きいだろう、とゴロー。
今回の『亜竜素材調査行』だって日帰りのつもりだったのだから。
それでもなんとかかんとか朝食を済ませると、早速素材を回収に行くことになる。
「ハカセはルナールとここで待っていてください。俺とサナが巣穴へ行って抜け殻を回収してきます」
「うん、わかったよ。頼んだよ、ゴロー、サナ」
明るくなったので、昨夜よりは速度を出せるだろうとゴローは言った。
「フランクには、途中で見つけた骨を回収しに行ってもらいたいんだ」
「はい」
「それから、前回来た時に持ち帰りきれずに土に埋めた分も」
「ああ、それもあったねえ」
「こっちは、私とゴローで3往復もすれば、卵の殻も回収できる、と思う」
「そうしたら、俺がハカセとルナールと、積めるだけの荷物を乗せて研究所に戻ります」
「なるほど。こっちはフランクに番をしていてもらうんだね」
「はい」
「それでゴローは『雷鳴』でこっちへ戻ってきて、残った抜け殻やサナやフランクを積んで研究所へ、というわけだねえ」
「そうなりますね」
「わかった。さっそくやろうじゃないか」
ハカセも手順について納得してくれたので、早速行動に移すことになった。
* * *
特に問題なく、順調にこなしていくゴローたち。
大型動物がいないことが幸いし、襲われたり邪魔されたりすることもなく、『亜竜の抜け殻』と『卵の殻』を運び終えることができたのだった。
その頃にはフランクも『亜竜の骨』を運び終えており、ゴローはハカセとルナール、それに卵の殻を乗せて研究所目指し飛び立ったのである。
「なあルナール、この『レイブン』でいいから、操縦を覚えてくれないか?」
研究所までの飛行中、ゴローは思いつきをルナールに聞いてみることにした。
「え……? 私が、ですか?」
「そうだ。反射神経がいいほうが有利だからな」
「できるなら、してみたいです……」
「よし。……いいですよね、ハカセ?」
「ああ、いいともさ。確かに、操縦できる者がもう1人いると助かるよねえ」
ハカセも賛成だったので、この一件が片付いたらルナールに操縦を教えてみることになった。
* * *
「お帰りなさい、ハカセ! ゴローさん、お疲れさまです! ルナールさん、ご苦労さま!」
「お帰りなさい、なのです」
「お帰りなさいませ、ご無事での帰還、お慶び申し上げます」
アーレン・ブルー、ティルダ、ラーナである。
ゴローはハカセとルナールに『レイブン』の荷物を下ろしてもらうことにし、自分は『雷鳴』に乗り換える。
大音響を響かせて飛翔する『雷鳴』は、半分の時間でサナたちの待つ幕営地に着いた。
天幕も既に片付いている。
「さあ、運んでしまおう」
「うん」
ゴロー、サナ、フランクの3人がかりで積み込めば、すぐ作業は完了。
「色々あったけど、収穫も大きかったな」
「うん」
「さあ、行こう。フランク、積み残しはないな?」
「はい、大丈夫です」
「よし」
『雷鳴』は轟音と共に空へ舞い上がった。
「そうか……フランクだって操縦はできるよな?」
「はい、可能です」
「なら操縦士が3人……これなら相当、移動の幅が広がるぞ」
「うん」
「……で、サナ、フロロの『分体』は?」
「疲れて、休んでる。早く研究所に帰ってあげたほうがよさそう」
「そうか」
昨日、周囲を索敵してくれていたフロロ(の分体)だったが、『依代』となる枝が乾燥してきたため、力が出せなくなったようだ。
元は日帰りの予定だったので仕方ない。
「もう少しだからな」
「うん」
冒険小説ならこういう時に限って『亜竜』が襲ってきて苦戦するんだがな……などとゴローが埒もないことを考えているうちに、『雷鳴』は何事もなく研究所に到着した。
「お帰り、ゴロー、サナ! さあさあ、降ろしておくれ!」
「はい、ハカセ」
こうして、ついにゴローたちは十分すぎる量の『亜竜素材』を手に入れたのであった。
* * *
「ということで、分別だよ、分別」
「私はフロロの『分体』を『分体』本体のところへ持っていく」
「私は昼食の支度をしてきますね」
と、ちょっと役割分担をしたものの、ハカセ、ゴロー、アーレン、ラーナ、ティルダ、フランクらは『亜竜の抜け殻』を分解して分別する作業を開始した。
大小合わせて51枚の抜け殻である。
小さいのは子供の亜竜の物だろうと思われる。
亜竜が生涯に何回脱皮するのかはわからないが、爬虫類と同じように何度も脱皮して大きくなっていくことだけはわかった。
なので、51枚とはいっても何頭分かはわからない。
「そんなことは関係ない……と言いたいけど、同じ亜竜同士でないと魔力を流しても浮力が発生しないんだよねえ」
そう、翼膜に魔力を流すと浮力が発生するのだが、それは持ち主の『亜竜』と同じ種類の魔力を流した場合のみなのである。
「ハカセ、ここにはフロロがいますから、その謎を解き明かしてみませんか?」
「あ、ゴロー、いいこと言うね! そうだねえ、研究者として解き明かしたいテーマだねえ」
『木の精』のフロロは長く生きていることもあって、魔力について詳しい。
というわけで、ハカセは亜竜の翼膜がどうして自身の魔力でないと浮力を発生しないのか、研究することになったのだった。
* * *
とはいえ、今は『抜け殻』の解体が先だ。
急いで昼食を食べ、『翼膜』の他にも、『背側』『腹側』『脚』『尻尾』など、部位によって分別していくゴローたち。
それぞれの部位の抜け殻が山と積まれた。
「これなら10機以上作れそうだねえ」
嬉しそうにハカセが言う。
素材が使い放題というのは研究者にとって嬉しいことらしい。
「それに……これは子供の抜け殻だろうねえ」
「透明ですね」
人間の背丈くらいの抜け殻が5つほどあったのだが、いずれも透明で、向こうが透けて見えるのだ。
もしかしたら風防に使えるかもしれない、と期待するハカセである。
続いて卵の殻と骨も整理しておく。
それが終わったのは午後3時頃。
「お茶にしよう」
サナが声を掛けてきた。
お茶請けはゴローが作っておいたクッキーとラスクである。
「甘いものは疲れた頭にもいいらしいですよ」
「ほほう……それじゃあいただこうかねえ」
メープル風味のラスクを2枚3枚と食べていくハカセ。
「うーん、どうやろうかねえ……」
そして食べながらも何やら考えているのであった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月25日(木)14:00の予定です。
20211123 修正
(誤)「うん、わかったよ。頼んだよ、ゴロ、サナ」
(正)「うん、わかったよ。頼んだよ、ゴロー、サナ」
(旧)「私はフロロの『分体』を本体のところへ持っていく」
(新)「私はフロロの『分体』を『分体』本体のところへ持っていく」
20220724 修正
(誤)と、ちょっと役割分担をしたものの、ハカセ、ゴロー、アーレン、ラーナ、フランクらは
(正)と、ちょっと役割分担をしたものの、ハカセ、ゴロー、アーレン、ラーナ、ティルダ、フランクらは
20240825 修正
(旧)
「フランクには、途中で見つけた骨を回収しに行ってもらいたいんだ」
「はい」
「私とゴローで3往復もすれば、卵の殻も回収できる、と思う」
(新)
「フランクには、途中で見つけた骨を回収しに行ってもらいたいんだ」
「はい」
「それから、前回来た時に持ち帰りきれずに土に埋めた分も」
「ああ、それもあったねえ」
「こっちは、私とゴローで3往復もすれば、卵の殻も回収できる、と思う」