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08-37 往復

 ゴローは夕闇迫る川原を駆けていた。


「あと少し……見えた!」


 『二重反転ローター式ヘリコプター』の『雷鳴(ドンナー)』だ。

 乗り込んだゴローはエンジンを起動する。

 ローターが回り出し、『雷鳴(ドンナー)』の名に恥じぬ轟音が響く。

 『雷鳴(ドンナー)』は夕暮れの空にゆっくりと浮かび上がった。


「急いで帰るぞ」


 ゴロー1人なので機体は軽い、来た時の3割増し以上の速度で研究所を目指す。

 1時間足らずで研究所に帰投。まだ空には薄明かりが残っていた。


「お帰りなさい……あれ、他の人たちは?」


 出迎えたアーレン・ブルーが顔色を変える。何かあったなと察したのだ。


「ああ、実は……」


 簡単に事情を説明するゴロー。

 その頃にはティルダやルナールも出てきており、ゴローの話を聞くとルナールは、


「それじゃあ、お腹が空いているでしょう。ゴロー様、急いでおにぎりを作りますから、お待ち下さい」


 と奥へ駆け込んでいったのである。


「そんなわけだから、向こうで1泊することになると思う」


 ゴローは幕営用の天幕や寝袋を『レイブン』に積み込みながら言った。

 『レイブン』1機では、見つけた『亜竜(ワイバーン)』の素材と人員を一度に運んでこられないからだ。

 見つけた素材とハカセたちは『レイブン』で野営地に運び、明るくなってから改めて『雷鳴(ドンナー)』を取りに行き、それに積んで戻ってくるのがベターだろうと思われた。


「ゴロー様、焼きおにぎりにしました。こっちはお茶です」

「お、ありがとう」

「それで、私もお連れください」

「え?」

「天幕の支度とか、朝食の用意とかできますので」

「うーん、そうか」


 どの道、『レイブン』では全員乗って帰れないため、再び研究所に戻ってきて『雷鳴(ドンナー)』に乗り換える必要があるわけだ。

 ならばルナールを連れて行っても問題はない。『レイブン』で研究所に戻る時に乗せてくればいいのだから。


「わかった、一緒に行こう。……だけど、こっちは大丈夫か?」

「ゴローさん、大丈夫なのです。私だってラーナさんだっているのです。食事の支度くらいへっちゃらなのです」


 ティルダが胸を叩いた。


「そうか、わかった」


 そういうわけで、ゴローはルナールも乗せて川原へ戻ることにしたのである。


「では、これが私の分の荷物です」


 既に自分の分の寝袋や食料も用意してあり、ルナールもすっかり馴染んだな……と思いつつ、ゴローはそれも積み込み、ルナールとともに『レイブン』に乗り込んだ。


「もう暗いですから、気を付けてください!」

「うん。じゃあ、行ってくる」

「お気をつけて!」


 ティルダ、アーレン、ラーナに見送られ、『レイブン』はほとんど無音で薄暮の空に舞い上がった。そのくらいの明るさがあれば、今のゴローには昼間と同じ。

 障害物のない高空に上がり、時速150キル(km)で飛んでいく。

 『雷鳴(ドンナー)』では時速300キル(km)を出せたので、倍の時間が掛かってしまうのは致し方ない。


*   *   *


 野営予定地に一旦着陸。

 ここで天幕、寝袋、食料などを下ろす。

 ルナールも下り、幕営の準備をして待つわけだ。


「それじゃあ、あとを頼む」

「はい、お任せください」

「行ってくる」


 ゴローは再び『レイブン』に乗り込み、ゆっくりと夜の闇の中、浮き上がった。

 ここから先は谷の中、一つ間違えたら左右どちらかの崖に接触である。

 まあそうなっても、魔力で浮いている『レイブン』は墜落することはないのだが。


 僅かな星明かりを頼りに『レイブン』を駆るゴロー。速度は時速20キル(km)ほど。

 谷筋には曲がっている箇所もあり、ぶつかったら墜落まではいかずとも、『レイブン』が損傷するかもしれない。

 そうなったらハカセたちを乗せて帰れるかわからないので慎重にならざるを得ないのだ。


 それでも30分ほどで、ついにゴローの乗る『レイブン』は『亜竜(ワイバーン)の巣』にたどり着いたのである。


「おっ」


 崖の上に明かりが灯った。

 『灯火(フォス)』の魔法だ。これは空中に明かりを灯すもの。灯っている時間は術者の魔力次第。無限の魔力供給ができるサナなら、一晩中でも灯していられるだろう。


〈ゴロー、おかえり〉


 サナからの念話が届いた。


〈サナ、みんな無事か?〉

〈うん、大丈夫〉

〈よし〉


 サナが灯してくれた『灯火(フォス)』の光があれば、ゴローには十分である。

 ゆっくりとハカセたちのいる巣穴に『レイブン』を寄せていく。

 主翼がつかえてしまうので、どうしても巣穴と『レイブン』の間には1.5メル()ほどの隙間ができてしまう。

 ハカセ1人なら越えられない距離……だが。

 フランクもサナもいるので、ハカセを抱いて飛び越えるのはお手のもの。


「ゴロー、ありがとうよ」

「ハカセ、お待たせしました」


 まずはハカセを乗せて川原に着陸。

 そこにハカセを降ろし、『レイブン』は再び上昇。

 再び『レイブン』を巣穴に寄せ、ゴローはそのまま位置を保つ。

 サナが『レイブン』に乗り込み、フランクが巣穴から『抜け殻』を投げて寄越すのを受け取る。


 『抜け殻』はゴローを待つ間にきちんと分別され荷造りされていたので、単なる作業だ。


 さすがに全部の『抜け殻』は積み込めなかった。重さではなくかさばるせいで。

 それで、およそ3分の1の抜け殻を積み込んだ『レイブン』は一旦着陸し、『抜け殻』を川原に下ろす。

 そして再び巣穴まで上昇し、残りの『抜け殻』を積み込み、一杯になったらまた降下して川原に抜け殻を下ろす。


 これをもう1回行い、巣穴の中の『抜け殻』は全部運び出すことができたのである。


 ここで、まずハカセを野営地へ連れて行くことにする。

 抜け殻を少しとハカセを乗せ、『レイブン』は野営地へ……。


*   *   *


「ルナールも来てくれたのかい、助かるよ」

「ご無事で何よりです」


 ルナールは天幕を張り、火を焚いてゴローたちを待っていた。

 ハカセにはすぐに温かい飲み物と焼きおにぎりが出された。


「ああ、美味しいねえ。生き返るよ」

「ゆっくり食べてください……」


*   *   *


 ハカセを下ろしたゴローはとんぼ返り。

 『抜け殻』を積んで幕営地へ戻る。


「ゴロー様、お疲れさまです。休まなくて大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」


 フランクが気遣うが、ゴローは『人造生命(ホムンクルス)』。食事も睡眠も必要としない。

 なので平気な顔で2往復。

 最後の飛行で『抜け殻』少しとサナとフランクを乗せてきた。


「ゴロー、ほんとにご苦労さん」

「ハカセ、お休みになってください」

「なに、あんたらに働かせておいて自分だけ寝ていられるかい」


 そう言ってハカセは笑った。


 ゴローとサナもルナールが温めてくれた焼きおにぎりを食べ、熱いお茶を飲む。精神的に癒やされた。


「皆様、私が見張りをしていますのでお休みください」


 そしてフランクが歩哨に立ってくれたので、全員安心して寝袋に潜り込んだのである。


〈……大変な1日だったな〉

〈うん〉


 眠る必要のないゴローとサナは念話で話をしていた。


〈明日は卵の殻も回収したいな〉

〈うん。ハカセもそう言うと思う〉

〈だよなあ〉

〈あと、途中で見つけた骨も〉

〈ああ、そうだったな〉


〈だから、まずゴローと私とで巣穴に行く。フランクは歩いて骨を回収に行く〉

〈うん〉

〈その間にルナールには天幕を撤収しておいてもらう〉

〈そうだな〉

〈で、私とゴローとで卵の殻も回収して戻ってくる〉

〈うん。そしてハカセとルナールを乗せて研究所に戻ればいいな〉

〈そう、そして『雷鳴(ドンナー)』で戻ってくれば……〉

〈荷物は全部運べるわけだ〉

〈そういうこと〉


 そんなやり取りをしながら、夜は更けていくのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は都合により11月23日(火)14:00の予定です。


 20211118 修正

(誤)また空には薄明かりが残っていた。

(正)まだ空には薄明かりが残っていた。

(誤)ルナールは天幕を張り、火を焚いててゴローたちを待っていた。

(正)ルナールは天幕を張り、火を焚いてゴローたちを待っていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 6-21「採取行その10」で、 >まず骨と牙を物色し、必要最低限な分だけ荷造りをした。  次いで皮も同じように選定し、荷造り。  最後に翼膜を、ゴローの運搬力が許す限り……としたらかな…
[一言] 抜け殻に翼膜が付いているなら魔力を流せば浮かせて運べるんじゃないかな? ただ、こう↓なる可能性も微レ存 抜け殻飛んだ 屋根まで飛んだ お空に飛んで 壊れて消えた
[一言] 更新お疲れ様です! >フランクが気遣うが、ゴローは石仮面+エイジャの赤石で進化した『究極生命体』。食事も睡眠も必要としない。 なので平気な顔で2往復……どころか20往復も可能。  最後…
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