08-35 素材採取へ
『研究所』での3日目。
ハカセがやる気を漲らせながら宣言する。
「さあて、こっちもだいぶ整ったから、いよいよ『亜竜』素材を集めに行こうかねえ」
「はい」
「うん」
「お手伝いします」
「え?」
「わ、亜竜!?」
「ど、どうして!?」
「ええええ!?」
驚いていないのはゴロー、サナ、フランク。
驚いているのはアーレン、ラーナ、ルナール、ティルダである。
「ええとねえ、『亜竜』の素材はすごく有用でねえ」
「いや、そういうことじゃなくてですね……」
ハカセが説明を始めると、アーレンがそれを遮るように口を挟んだ。
だがハカセはそんなアーレンをさらに遮り、説明を続ける。
「あのね、言っておくけど、『亜竜狩り』に行くんじゃないからね? 亜竜の死骸を探して、そこから素材を集めるのさ」
「え……あ、そうなんですか」
「そうさ。亜竜狩りなんてやらかしたら、下手をしたら群で襲ってくるかもしれないしねえ」
「ですよね……」
「で、一番有用なのが翼膜さね」
ハカセは、『亜竜の翼膜』に特定の魔力を流すと浮力が発生するのだ、と説明した。
「え……ああ、『レイブン』はそうやって飛んでいるんでしたっけ」
「そうさ」
アーレンには、『レイブン』に乗せた時に簡単に原理を説明してあったのである。
「?」
「??」
「???」
「あのな……」
わかっていそうにないティルダとラーナとルナールにはゴローが説明してやった。
「な、なるほど……?」
「そういうものなのです……?」
「そう……なんですか?」
「どうしてそうなるのかはよくわかっていない。だから、『そういうもの』だと思っておいてくれ」
こうして、混乱は静まった。
「さて、それじゃあ、行くメンバーを選定するよ」
使うのは当然『雷鳴』ということになる。『レイブン』より速く、機動性もいい上、一応対空武器も積んでいるからだ。また、積載量も多い。
『レイブン』はいざというときの予備として取っておく。
「あたし、ゴロー、サナ、フランク……で行ってくるよ。あとの者は留守番だね」
全員が乗ったら素材を積んで帰ってこられなくなるので、このくらいの人数になってしまうのだ。
「とりあえず日帰りで様子を見てくるよ」
「わかりました、お気をつけて」
ルナールは素直に言うことを聞いたが、
「あたしも連れて行ってくれないかしら?」
と『木の精』のフロロ(の分体)が言い出した。
「亜竜って見たことがないから、見てみたいのよね」
「ハカセ、フロロは重さがないから大丈夫」
「うん、サナに言われなくてもわかってるさね。いいよ、フロロちゃん、一緒に行こう」
「決まりね!」
連れて行ってもらえるとなったので、フロロは1つの仕掛けを用意した。
と言っても、花瓶に挿してある『本体の枝』を少しだけ折り取ってサナに預けただけだが。
「サナちん、これを持っていてくれる? これが一緒なら、あたしもそれなりに力を振るえると思う」
「力?」
「うん。主に周囲の警戒ね。できると便利でしょ?」
「ああ、それは素晴らしいねえ!」
ハカセが嬉しそうに言った。
「亜竜の接近がわかれば、撤収もスムーズにできるしね」
「それは任せて。サナちんと一緒にいれば、3キルくらいの範囲ならきっと大丈夫」
「おお、それはすごいねえ。助かるよ」
亜竜の接近を3キル先から察知できるなら、相当余裕を持って撤収できるだろうと思われた。
「……あとはお弁当と、飲み物」
「うん、それは大丈夫。あとは素材を縛るロープも積もう」
ゴローとサナは必需品の積み込みを行った。
* * *
「それじゃあ、行ってくるね。留守番、頼んだよ」
「ハカセ、ゴローさん、サナさん、フランク、行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃいなのです」
「お気をつけて」
留守番組に見送られ、『雷鳴』は発進した。
名前の由来になった轟音を立てて飛翔する『雷鳴』。
「この音はちょっと気になるねえ」
「亜竜に察知されますもんね」
「ああ、翼膜がたくさん欲しいよ」
「同じものを作れないもんですかね……」
「それなんだけどね。いろいろ研究して実験も少ししてみたけど、今のところ無理みたいだねえ」
ハカセをして『無理』と言わしめる『亜竜の翼膜』の人工的な再現。
おそらくは魔力を使って空間に干渉してるんだろうなあ、とゴローは推測するが、検証はできないし、干渉してどうなっているのかもまるでわからない。
やはり、『亜竜の翼膜』を集めるしかないのである。
「そういえばハカセ、翼膜って腐ったり傷んだりしないんですか?」
死骸から集めるにしても骨のように残っていればいいが、腐ってなくなってしまってるのでは手に入るかどうかわからない。
前回はたまたま、亜竜同士の諍いで、漁夫の利を得られたわけだが……。
「そうだねえ。普通の皮膚よりは保つと思うけど、骨よりは保たないだろうねえ」
「じゃあ、運が悪ければ骨しか手に入らないかもしれないですね」
「まあね。でも、骨だってすごく使いみちがあるからね」
「それはそうですね」
『魔力庫』用の素材として、『亜竜の骨』は優秀な素材なのである。
そんな会話をしながら、『雷鳴』は亜竜の棲息地へと飛んでいく……。
* * *
『雷鳴』は、前回野営した川原に着陸。
棲息地までは10キルほどある。
これ以上近付くと、『雷鳴』の音で気付かれる可能性が高かった。
「『レイブン』っていう選択肢もあったんだけどねえ」
「2機で来る、という手も」
「いや、サナ、それは万が一のことを考えると危険だ」
ティルダ、アーレン、ラーナ、ルナールらが孤立してしまう可能性があるからだ。
抜け道もあるが、ハカセが一緒でないとまず通れないだろう。
「今になってそんな議論しても仕方ないさね。さ、行くよ」
「はい、ハカセ」
「はい」
ハカセはフランクに背負われて、ゴローとサナは徒歩で。
フランクはパワーアップしているので、前回の倍以上のスピードが出せる。
が、背負われているハカセのことを考えるとあまり無茶はできない。
とはいえ、徒歩での数倍の速度が出せるのは大きい。
だいたい時速12キルくらいは出せているので、1時間もしないうちに亜竜の縄張りに入った一行である。
「さあ、ここからは慎重に行くよ」
「はい」
「……フロロ、近くに亜竜の気配は?」
「ないわね。周囲3キル以内に亜竜はいないわ」
「それがわかれば、少し急げるね」
フロロがレーダー代わりになってくれたので、進行速度はあまり落とさずに済んだ。
川を遡り、奥へ、奥へ。
「前回はこのあたりで亜竜の翼膜を手に入れたんだっけ」
「そうですね、ゴロー様」
段差を乗り越え、さらに上流へ。
そこからは、ハカセもフランクの背から下りて歩く。その方が素材を見つけやすいからだ。
今のところ、亜竜の姿はない。索敵はフロロに任せ、一行は少しずつ上流へ。
そして……。
「おや、これは骨じゃないかねえ?」
ハカセが亜竜の骨らしきものを見つけたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月14日(日)14:00の予定です。
20211111 修正
(誤)驚いていないのはゴロ、サナ、フランク。
(正)驚いていないのはゴロー、サナ、フランク。
(誤)わかっていそうにないティルダとラーナろルナールにはゴローが説明してやった。
(正)わかっていそうにないティルダとラーナとルナールにはゴローが説明してやった。
(誤)と言っても、花瓶に差してある『本体の枝』を少しだけ折り取ってサナに預けただけだが。
(正)と言っても、花瓶に挿してある『本体の枝』を少しだけ折り取ってサナに預けただけだが。