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01-15 ジャム

 ティルダによると、ドワーフという種族は総じて手が器用なので物作りの職人になる者が多いという。

 これを聞いたゴローは、

(そのあたりは定番だな)

 と思い、直後に、

(定番ってどういうことだ?)

 と自問自答していたりする。

(ドワーフについて、先入観がある? ……わからん)

 この謎知識だけは、いつまで経っても謎のままであった。


「それにしては、アクセサリーが1つもない」

 サナがストレートに店を評した。

「そ、それは、全部借金のカタに持って行かれてしまって……これから作るのです!」

「……」

 思った以上にギリギリの状態だったようだ、とゴローは少し呆れた。

「それでよく、鉱石や素材を買うお金があったな……」

「……なのです」

「え?」

「そのお金も借金なのです」

「ええー……」

 借金のカタに店の商品を洗いざらい持って行かれて、商品を作るためにまた借金を……。

「それでいいのか?」

「よくないのです。でも、そうしないともっと悪いのです」

「まあそうだよな……」


 そうしていてもらちがあかないので、ゴローはそろそろおいとますることにした。

 と、その時。

 開けたままだった入口から、1人の中年男が入ってきた。小太りで、だいぶ薄くなった茶色の髪、灰色の目をしている。

 ゴローは一目見て虫が好かないな、と思った。

 それで店を出て行くのを思いとどまり、その場で様子をうかがうことにする。


「おお、帰ってきていたな、ティルダ」

「あ、シャロッコさん……」

 ティルダは、露骨に嫌な顔をした。

「まだ、期限までは10日あるはずですが」

 余程嫌な相手なのか、いつもの『です口調』が出ていないな、とゴローは思った。

「それはそうだが、あと10日で返してもらえるのかな?」

「うう、頑張ります……」

「頑張ってどうにかなるものじゃないと思うがなあ……」

「うう……」

「なあ、だから私のめかけになれば、そんな苦労もしなくて済むんだから」

「それは最初にお断りしたはずです……」

「……ふん、まあいい。それじゃあ、せいぜい稼ぐんだな」

「はい……」

 そして中年男は身を翻して店を出て行ったのだった。


「……」

 なんとなくゴローは事情が飲み込めた気がした。

 その上で、どうしようかと考え……。

「!?」

 ティルダがうずくまって泣いていることに気が付いた。

「う……ぐすっ」

 その様子を見たゴローは、思わず彼女の頭を撫でていた。

「ゴロー……さん?」

「あ、ごめん」

「うー……ありがとう、です」

 ティルダは涙を拳でぐい、と拭いて立ち上がった。


「……ゴロー、どうするの?」

 それまで無言だったサナが、ゴローに声を掛けた。

 念話ではなかったので、サナとしては町を見に行かないのか、くらいのつもりで掛けた言葉だったのかも知れない。

 が、ゴローには『力を貸してあげないのか』というかの如く聞こえた。

 さらに何か言ってやろうとゴローが口を開き掛けた、そのとき。

 『くぅ』という小さな音が聞こえた。

「あ、あわわ」

 慌てるティルダ。そしてサナは、

「……ゴロー、おなかすいた」

 と囁くように言った。

 サナは『お腹は空かない』はずなので、多分ティルダに気を使ったんだろうと、ゴローはその誘いに乗ることにした。

「わかったよ。俺も腹減ったな……ティルダ、食材はあるのか?」

「え、ええと、買い置きはなくなっちゃいましたのです」

「そうか。……買いに行くのも面倒だから……台所借りていいかい?」

 ゴローは手持ちの食材で何か作ろうと考えた。

「あ、はい、こっちなのです」

 ティルダはゴローを案内して、店の奥から台所へと案内していった。

「ふうん……」

 一般的な台所を初めて見たゴローは、『ハカセ』のところがいかに進んでいたのかを実感した。

 まず、コンロはかまどで、薪を燃やすものだったし、流しはあるが水道は引かれておらず、水瓶に水を汲み置いてそこから適宜てきぎ柄杓ひしゃくで汲んで使うようになっていた。

 鍋は鉄製。まな板はカビが生えていた。

「……うーむ」

 この状態から手っ取り早く作れそうなものを考えるゴロー。

 手持ちの食材は乾燥させた硬いパン、乾燥野菜、途中で見つけた木イチゴがそこそこ、干し肉が少し、小麦粉が少し、塩が少し。それに砂糖がたくさん。

「……よし」

 ゴローは鉄鍋の中が綺麗なのを確認したあと、

「『(アクア)』『しずく(グッタ)』」

 魔法で水を出し、鍋を洗う。

「魔法の水は洗い物には便利だな」

 時間が経つと魔力が霧散して水も消えてしまうので、洗い物には水分が残らなくて便利だ。『洗った』という結果だけが残る。

「服の洗濯にもいいかもな」

 乾かす手間いらずである。

 そんなことを考えながらゴローは、荷物の中から木イチゴを出した。

 こちらはしまう前に洗ってヘタ取りもしてある。乾燥させてドライフルーツにしようと思っていたのだ。

「鍋に入れて潰して、と」

 直径20セル(cm)、深さ10セル(cm)くらいの鍋に3分の1くらいにはなった。

 それを火に掛けるのだが、薪がなかったので、さらに荷物から携帯コンロを出して鍋を載せた。

 じっくり加熱していると木イチゴから水分が出てきてドロドロになる。

 それを木のヘラで時々かき回し、水分を飛ばしていくゴロー。

 30分ほど煮たところで砂糖を投入。

 そう、ゴローは『ジャム』を作っていたのだ。

 砂糖を入れると焦げ付きやすくなるので、頻繁にかき回さなければならないが、人ならぬゴローには苦にならない。


 保存を重視するならじっくり煮詰めるのだが、量も少ないし、風味を生かす意図もあるので、トータル1時間ほどで火を止めた。

「……甘い匂いが、する」

 いつの間にかサナがやって来ていた。

「あ、サナか。パンを焼いてくれ」

 硬くなったパンも、焼くことでもろくなって食べやすくなるのだ。

 で、サナは、『焼き物』はうまい。

 もういいか、もういいか、と、頻繁にひっくり返して様子を見るので、焦がすことが少ないのだ。

 ただし、魚の場合はあまり頻繁にひっくり返すと身が崩れるので要注意だ。

 実際のところは、魚はほとんどが干し魚なので身が崩れることが少ないのだった。


 閑話休題。

「ふわああ、お、美味しいのです! お昼までごちそうになって、ありがとうございます」

「ゴロー、これ美味しい。……もっと木イチゴ取ってきたら、作ってくれる?」

 ティルダもサナも、木イチゴジャムを気に入ってくれたようだ。

「ああ、いいぞ」

 鍋を『(アクア)』『しずく(グッタ)』で洗いながらゴローは答えた。


「あ、あの、ゴローさん、鉱石……を見せていただきたいのです」

「あ、そうか」

 自分が持っている鉱石を、売ってほしいという話だったことを思い出すゴロー。

「じゃあ、工房へ行こうか」

 汚れ物を洗い終えたゴローがそう言うとティルダは、

「はいなのです!」

 と言い、たたたっと工房へ走っていった。

 ゴローもその後に続く。サナもそのすぐ後ろを付いてきた。

〈場合によっては、売ってもいいよな?〉

〈うん、構わない〉

 念話でそんな確認をし、

「じゃあ、見てくれ」

 ゴローはハカセからもらった鉱石と素材を工房のテーブルに広げて見せたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月11日(日)14:00の予定です。


 20190808 修正

(誤)そんなことを考えながらアキラは、荷物の中から木イチゴを出した。

(正)そんなことを考えながらゴローは、荷物の中から木イチゴを出した。

 混ぜるな危険 orz

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― 新着の感想 ―
[気になる点] たぶん謎知識、現実の技術的知識とファンタジー作品の空想観念が混ざっているよね(状況や関連する部分が無作為でないにしても表出してる?)
[一言] 餅は子供に焼かせろ、魚は大名に焼かせろだっけ。 秋ぎつねさんのゆっくりした空気感好き。
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