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08-32 新たな仲間

 翌日、ゴローとサナはエサソンのミューが一時的に棲めるような『プランター』を用意することにした。

 入れ物は素焼きの植木鉢。直径は30セル(cm)、深さは15セル(cm)くらいの浅鉢に分類されるもの。

 そこに庭の隅で採取した腐植質たっぷりの土を詰め、ミューの希望にのっとり、落ち葉を載せて朽木を埋め、ヤブコウジを植えた。

 そして『木の精(ドリュアス)』のフロロに頼んで小枝を3本分けてもらい、丸い鉢の縁近くに、正三角形をなすように挿し込んで完成だ。

 もちろん、ミューが嫌うような虫はいない。


「うん、割といい感じじゃない?」


 とフロロも太鼓判を押してくれたので、ゴローとサナは庭の隅へ行き、ミューを呼んだ。


「はい、お呼びですか?」

「ああ、うん。ほら、臨時の……家? ができたんで見てもらおうと思ってな」


 ゴローは手にしていた鉢植えを地面に置いた。

 そのままでは身長10セル(cm)のエサソンには中が見えないので、サナが手のひらに乗せて持ち上げてやる。


「わあ、すてきです」

「気に入ってくれたかい?」

「はい。これでしたら一時的に棲むことができます」

「どれくらいの期間なら大丈夫だ?」

「ヤブコウジが枯れなければ1ヵ月くらいは平気です」

「お、そうか。……向こうにも庭を作ったら?」

「そのお庭にもよります……」

「まあそうだわな」


 とにかく、これでエサソンのミューも『研究所』ヘ連れていけることになったわけだ。


*   *   *


 食料や砂糖の買い込みや、寝具、いくつかの生活用品を揃えたゴローたち。

 『研究所』へ行く準備は万端整った……と思っていたら。


「……すみません」

「お邪魔します」


 アーレン・ブルーが、ドワーフで秘書のラーナと一緒にやって来たのだ。


「どうしても一緒に行くと言って聞かないんです……」

「あちしはアーレン様の秘書です、なのでアーレン様に付いていきます」

「それなら、我々の『秘密』は守ってもらえるのか?」

「もちろんです! ドワーフの誇りにかけて誓います!」

「……まあ、いいんじゃないかねえ」


 『ドワーフの誇りにかけて』と宣言されたためか、ハカセも折れ、ラーナを連れていくことにした。

 秘密を守ってもらえるなら『研究所』へ連れて行くのはやぶさかではない。

 資材や食料には余裕をもたせたし、ラーナ自身も荷物を持ってきたので問題はないだろうと思われた。

 ただ。


「それはいいけど、工房の方はいいのか?」

「大丈夫です」


 間髪をいれずにラーナは答えた。


「事務仕事は全部終わらせてきましたし、これからの分は後輩に頼んであります」

「そ、そうか」


 『ブルー工房』の経営がちょっと心配になったゴローであるが、『組織』というものはトップがいなくても回るものだと思い直す。


「それじゃあ、荷物を積んでくれ」


 ゴローたちの分はもう積んであるので、後はアーレンとラーナの分だけだ。

 基本は6人乗りなので、1人分定員オーバーだが、余裕を持った作りなので十分飛べるだろうと思われた。

 ただ席がないため、あぶれた1人は少々居心地が悪いだろうが……。


「押しかけたんですから、あちし、そのくらい我慢します!」


 と言うラーナだが、そういうわけにもいかないので、毛布を重ねてクッション代わりとした。

 普通の椅子を持ち込むという案もあったが、加減速時に動いてしまい、危険そうなのでやめたのだ。


 やや過積載気味ではあるが、サナ、ティルダ、ラーナ、ハカセは一般成人の平均よりも(多分)軽いのでなんとかなるだろうと思われた。

 それだけの『ゆとり』を持たせて作られているのだ、『雷鳴(ドンナー)』は。


*   *   *


 午後4時、『雷鳴(ドンナー)』は王都を飛び立った。

 乗っているのは、ゴロー、サナ、ハカセ、ティルダ、ルナール、アーレン、そしてラーナ。

 加えて、マリーの『分体(クローン)』を宿したレンガとそれを納めるための神棚、フロロの『分体(ブランチ)』である小枝を挿した花瓶、そしてミューのいる『プランター』。

 あとは食料と寝具、生活用品など。


 その名に恥じない轟音を立てて、『雷鳴(ドンナー)』は飛んでいく。北を目指して……。

 高度1500メル()、速度は時速200キル(km)。過剰積載気味なので致し方ない。

 途中にある町や村は何か聞き慣れない音がするな、程度で済ませてしまう程度の音しか聞こえなかったであろう。


 暖房があるので、騒音以外は快適な道中であった。


 およそ2時間ほどで『雷鳴(ドンナー)』は研究所のあるテーブル台地に到着した。


「わ、ここが目的地ですか!?」

「ここが……ゴロー様たちの研究所……」


 ラーナとルナールは珍しい風景に目を奪われている。


 古いカルデラが風化して平らになったと思われるテーブル台地。

 麓との高度差は約1000メル()あり、台地の標高は2000メル()

 周囲は低い外輪山に囲まれており、ところどころに突起状の岩山が突き出ている。

 風化しにくい、硬い岩石でできた部分だ。

 その1つ、台地の北西部にある岩山の基部を穿うがち、研究所は作られている。


「ハカセ、お帰りなさいませ」


 『自動人形(オートマトン)』のフランクが出迎えてくれた。

 ハカセはラーナとルナールにフランクを紹介する。


「この子はあたしとゴロー、サナで作った自動人形(オートマトン)のフランクだよ。研究所の留守をまかせているのさね」

「お、自動人形(オートマトン)……ですか!?」

「す、すごいです……」


 固まるルナールとラーナ。


「さあさあ、中へお入りよ」


 夕方の風は冷たい。ハカセはルナールとラーナの背を叩き、研究所へと招き入れた。


 内部はいくつもの部屋に分かれていて、まだ使っていない部屋も幾つかある。

 そうした部屋に寝具を持ち込み、臨時の客間とした。

 足りないものは順次揃えていく予定である。

 王都まで戻らずとも、カーン村やジメハーストの町で手に入れられるからだ。

 駄目なものは作ってしまうこともできる。

 なにしろここの住民は世界最高レベルのモノづくり集団と言っても過言ではないのだから。


*   *   *


 ハカセがフランクに命じて部屋を整えている間、ゴローとサナはまずマリー用の神棚を設置した。

 場所は台所である。

 そこでいいのかとゴローが何度も確認したが、マリー(の分体(クローン))はここがいいのだと言って譲らなかったので、北側の壁に棚を吊ってそこに神棚を安置したのだった。


 次はミューのいるプランター。

 静かな場所に置いてほしいというので、使っていない倉庫を見せると、ここがいい、と言ったので仮の置き場とする。


 そしてフロロの分体(ブランチ)だが、花瓶に挿してあるのでまだ数日は大丈夫とのことだった。


 フロロとミューについては、翌日以降『庭』を整備することになる。


*   *   *


 その夜は、持ってきた食料を使ってささやかな宴会となった。

 マリーの『分体(クローン)』はまだ小さいので大したことはできなかったが、ルナールがフランクと協力していろいろやってくれたのだ。


「本当に、あの頃の自分をぶん殴ってやりたいですよ……」


 ゴローとサナと一緒に暮らせば暮らすほど、自分の愚かさが身にしみる、と言ってはばからないルナールなのだった……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は11月4日(木)14:00の予定です。


 20211031 修正

(誤)正三角形をなすように差し込んで完成だ。

(正)正三角形をなすように挿し込んで完成だ。

(誤)フロロの『分体(ブランチ)』である小枝を差した花瓶

(正)フロロの『分体(ブランチ)』である小枝を挿した花瓶

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― 新着の感想 ―
[一言] >駄目なものは作ってしまうこともできる。 こたつは、駄目な人間を作って、仕舞うこともできる。 ドンナーに困難で挫けそうでも信じる事さ 必ず最後に愛は勝つ♪
[一言] 「あちしはアーレン様の秘書です、なのでアーレン様に付いていきます」 ↑ 一人称『あちし』だったんですね(´・ω・`)
[一言] おおー、どんどん仲間が増えていきますねー ルナールは屋敷で働いているからわかりますがラーナさんまでとは思い切りましたね にしても研究所に連れてこられるくらいには信用できるようになったんだな…
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