08-26 対空武器と新素材
空を飛ぶ魔物対策のための対抗法を検討するゴローたち。
「……物理的な武器はやめて、魔法なら?」
ゴローが言い出すと、すぐにハカセが応じた。
「そうなると、『速い』方がいいよねえ?」
「ですね」
「なら『雷属性』だろうね。……『雷矢』とかさ」
『雷矢』は雷撃……電撃を放つ魔法である。麻痺させるには至らないが、痺れさせて相手の行動を阻害する。
「いいですね。ただ、『亜竜』に効くかどうかはわからないので、もっと強いのはありますか?」
「そうだね、それなら『稲妻槍』かねえ」
『稲妻槍』は対人用ではなく対魔物用だという。
「弱いものと強いもの、使い分ければいいのではないでしょうか」
「そうだね、アーレンの言うとおりだ」
「ついでに、範囲魔法も放てるといい、と思う」
「だったら『雷網』かねえ」
こちらは範囲魔法で、広範囲に雷を展開する魔法である。
「それはいいかもですね」
こうして、『雷属性魔法』を打ち出す『杖』を装備することになった。
が、やはり物理的な武器も装備しておきたいとゴローが言い出す。
「弓矢でいいかい?」
「はい。……うーん、せっかくだからクロスボウにしましょう」
「さっきも言ってたね。それも『謎知識』かい?」
「はい」
クロスボウはボーガン、または弩(あるいは石弓)とほぼ同じものである。
『ボルト』と呼ばれる太く短い矢を発射する。
和弓に比べ、コンパクトな割に強力だ。
殺傷力が高いため、現代日本では所持が禁止された。
「なるほど、鉄製の矢を放つのかい。それなら『亜竜』にも効きそうだね」
ハカセは早速作ってみたくなったようだ。
「あ、それと『煙幕』なんてどうでしょう?」
これはアーレン・ブルーだ。
「煙幕かい。それもよさそうだね。追いかけられた時に使えば撒けるよねえ」
とはいえ、煙を出す魔法はハカセも心当たりがなかった。
「普通に何か燃やせばいい」
とはサナの言。
「それを風魔法で後ろへ流す」
「わざわざ風魔法を使わずとも推進機があるじゃないか」
「あ、それいい」
「なら、燃やすものだけど」
「煙を出すだけなら生木だけど……」
「積んでおいて使わなかったら乾いてきて生木じゃなくなるだろうねえ」
「質の悪い油なら煙が出る」
いろいろと意見が出たのだが結局はゴローの、
「いっそゴムを燃やしたらどうかな?」
という意見に決まった。
農村では、冬場の霜害を防ぐため、『人工雲』を作り出すために煙を出す。
最近は環境汚染のため使われなくなったが、古タイヤを燃やした煙はよく使われていた。
「目潰しもいいかもですね」
「え?」
ゴローが思いつきを口にする。
「辛子の粉みたいなものをぶちまけるんですよ」
「ゴロー、エグいことを考えるね……でも、いいかもねえ」
「風向きに注意しないといけませんけどね」
唐辛子や石灰、ハンミョウ(昆虫)の粉などを混ぜ合わせた目潰しは江戸時代の日本でも使われていたようである。
「唐辛子は高いよねえ」
「もったいない」
「でも、『亜竜』に追いかけられることを考えたら……」
「うーん、そうだねえ」
「まあ、1回分くらい用意しておきましょうよ」
「それくらいならいいかねえ……」
そういうわけで『目潰し』も搭載することになったのである。
* * *
「さて、すっかり脱線しちゃったねえ」
「うん、仕方ない。『亜竜』対策は大事」
そしていよいよ機体の製作だが、材料をどうするかということになった。
「チタンを使いませんか?」
とゴローが言い出したからだ。
「チタン? 前にもちょこっとだけ聞いた気がするねえ……」
「アルミよりは重いんですが、強度はより高いんです。結果的により軽くできるはずです」
「それはいいんだけど、鉱石はあるのかねえ?」
コランダムに鉄・チタンが微量添加されたものは青く発色し、サファイアと呼ばれる。
サファイアがあるのだから、チタンもあるはずだ、とゴロー。
「うーん、あたしの鉱石倉庫にあるかねえ?」
「もしなかったとしても、将来的なことも考えて、探してみるのもいいかもしれません」
アルミニウム合金は応力腐食割れを起こしたり、耐食性が悪かったりするので、もしチタンを使えるなら使いたいとゴローの『謎知識』が訴えかけていた。
* * *
「あ、あ……あった!」
「え?」
ゴローが見つけたのは水晶。
といってもただの水晶ではない。『針入り水晶』と呼ばれる、水晶の中に針状のルチルの結晶が入り込んだものだ。
「これがあるんだから、ルチルの鉱石もきっとあるはずですよ」
「ああ、そういうことかい。ちょっとお待ち。……ゴロー、この水晶の中に入っている針みたいな鉱物を探せばいいんだね?」
「はい」
「よっしゃ。……『土調べる……ルチル』」
『土調べる***』は土属性レベル5の魔法で、土の中から***を探し出せる。
もちろん土の中だけでなく、鉱石の山の中から探し出すこともできるのだ。
「……おんや、あったよ」
気の抜けたようなハカセの声。まさかこんな簡単に見つかるとは思わなかったのだろう。
「……これかい?」
ハカセが拾い上げたのは、赤黒っぽい色をした鉱石。
「多分、それです」
「なるほど、これがそうかい……やってみようかね。……『石金属分離』」
鉱石から金属を分離する、レベル7の土属性魔法である。
「なんか銀灰色の金属が出てきたよ」
「それがチタンですよ!」
「これがかい」
ゴローたちはついにチタンを手に入れた。
後は、どれくらいの量を精錬できるかである。
「この鉱石はどこから採ってきたものだったかねえ……フランク、わかるかい?」
「はい、ハカセ。第5番坑道です」
「ああ、あそこか。あまりきれいな石が採れないので放置している場所だね」
「そうです」
「よし、それじゃあ採掘用ガーゴイルを起動して採掘させておいておくれ」
「わかりました」
ガーゴイルは意思を持たず、命じられたことのみを行う魔導人形である。単純作業に向いている。
ハカセは、まる1日採掘させれば、当面使うくらいのチタンを手に入れられるだろうと推測したのである。
「あとはバナジウムですね」
「なんでだい?」
「チタンにアルミニウムとバナジウムを混ぜると、強靭な合金になるんですよ」
「ほう」
アルミニウムは既にある。
そしてバナジウムは鉄の鉱石である磁鉄鉱にコンマ数パーセント含まれているという。
「ほうほう、そうすると磁鉄鉱から鉄を取り出した鉱滓を調べてみればいいねえ」
そうした鉱滓はすべて廃坑に廃棄されていたので、そこを探してみる。
「これだね」
幸い、ハカセは(というよりフランクが)そうした鉱滓を分類して廃棄していたので、すぐに磁鉄鉱の鉱滓は見つかった。
それは文字どおり山のようにあり、そこから必要なバナジウムを手に入れることができたのである。
「なにごとも取っておくものだねえ」
とはハカセの言葉。
これで64チタン合金を作るために必要な金属は揃ったのである。
* * *
「さて、それじゃあまず、エンジンを作ろうかね」
「そうですね」
機体の骨組みはぜひともチタンで作りたいとゴローは思っているので、まずはチタンを使わないエンジンから始めよう、というわけだ。
構想はもうできているし、タングステンも鉱石は揃っているので、後は作るだけである。
その日は2基のメインエンジン(左回転用/右回転用)と、推進機用エンジン4基を作って終了となったのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月14日(木)14:00の予定です。
20211010 修正
(誤)『ラピス金属分離』
(正)『石金属分離』
20220703 修正
(旧)クロスボウはボーガン、または弩とほぼ同じものである。
(新)クロスボウはボーガン、または弩(あるいは石弓)とほぼ同じものである。