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08-25 構想開始

 翌朝、朝食を済ませばさっそく『オリジナルヘリコプター』の製作だ。

 とはいえ、まずは設計から始めることになる。

 その第一段階は仕様の決定。つまり目標とする大きさや性能を決める作業だ。


「あまり大きくはしたくないけど、ティルダちゃんやルナールも乗せてあげられないとねえ」


 おおよそ、最大で6人乗りプラスアルファ、と仮に決めた。


「ここと王都の間くらいなら短時間で行き来できますから、それほど広いスペースは必要ないと思います」

「うん、まあ、1時間くらい座っててもらえばいいからね」

「それくらいなら、観劇、とか、講演会、みたいな場では普通」

「サナのいうとおりだね。それに基づいて大きさを決めようかねえ」


 ……というわけで、操縦席を含む機内の広さは、長さ3メル()、幅2メル()、高さ2メル()程度とする。

 これはワンボックスカーよりも少し広いくらいである。特に高さが。


「エンジンはもうおなじみだからねえ」

「ですね」


 4枚羽+4枚羽の2重反転プロペラを使うことになるので、やや回転数の上限を増やす方向でエンジンの仕様を決めていく。


「前作より劣るのは嫌だからねえ」

「ハカセ、円盤部分の厚みを増やして直径を減らしましょう」


 これによりトルクを変えずに回転数を上げることを目指す。結果として出力……馬力がアップすることになる。

 トルク×回転数=出力だからだ。


「円盤の強度も上げたいねえ」

「可能ですね。……タングステンを使えるなら、重くて硬いので厚みを薄くできますが」

「タングステンかい? あったかねえ……」


 タングステンの比重は19.3。鉄は7.9。同じ大きさなら3倍近く重いわけだ。

 強度も高い。タングステンの引張強度は1667ニュートン/平方ミリメートル。ステンレス鋼だと700ニュートン/平方ミリメートルくらい(単位は現代日本準拠)。

 その分固くて脆いので使い方に注意が必要だ。


 主な鉱石は『鉄重石』『灰重石』『マンガン重石』『鉄マンガン重石』など。

 いずれもタングステンを含むため重く、『重石じゅうせき』と末尾に付けられている。


「重い鉱石かい。そういえばあったねえ」


 やはりハカセの鉱石倉庫にはタングステンの鉱石もあったようだ。

 ゴローはハカセと一緒に倉庫へ行き……。


「うわあ」


 山のような灰重石を見つけたのである。

 なぜ灰重石とわかったかというと、特徴的な外見とその重さに加え、『蛍光』を放ったからである。


 灰重石の成分はタングステン酸カルシウム(CaWO4)。名前のとおり灰色で地味な印象だ。

 比重は6.1で、黄鉄鉱の比重5.0よりも重い。

 さすがに鉛の鉱石である方鉛鉱の比重7.6よりは軽いが、方鉛鉱のモース硬度は2.5と爪と同じくらいである。

 灰重石はモース硬度5と硬い。


 そして、紫外線を当てると青い蛍光を放つ物が多い。

 ここの灰重石も、ゴローが『(ルクス)』『灯す(ルミナ)』+『膨大なオド(内魔素)』を使い、紫外線を出したことで青い蛍光を発したのである。


 ちなみに『(ルクス)』『灯す(ルミナ)』に『膨大なオド(内魔素)』を注ぎ込むことで、発生する光の波長を短くすることができるのだ。

 ゴローが無尽蔵なオド(内魔素)を注ぎ込むことで紫外線を発することもできるのである。

 蛇足ながらゴローは、ハカセの目に直接紫外線が入らないよう、ちゃんと気を使っている。


「ハカセ、この鉱石からタングステンを精錬してください」

「ああ、この重い石はそのタングステンとやらの鉱石だったのかい。よしよし、任せておきな。……『(ラピス)』『金属(メタルム)』『分離(アフェレシス)』」


 鉱石から金属を抽出する土属性魔法。レベルは7。ハカセならではの高度な魔法である。

 抽出されたタングステンが大きめのバケツ3杯ほどになった頃、アーレンとサナもやって来た。


「すごい、もうこんなに」


 タングステンの小塊しょうかいが入ったバケツを持とうとしたアーレンに、ゴローは忠告する。


「重いぞ」

「え? ……ふんぬっ……ほんとだ、重いや……」


 10リル(リットル)ほど入るバケツに入ったタングステン。充填率は低いので体積としては4リル(リットル)くらいだろうが、それでも80キム(kg)近い。

 バケツの取っ手がもげてしまうほどの重さである。


 兎にも角にもそうやってタングステンを手に入れたので、『円盤式エンジン』の小型化と性能アップの見通しが立ったのであった。


*   *   *


「ジュラルミンにも問題はないし、これで製作を始められるかねえ」

「そうですね」


 推進機は人に見られても問題ないよう、4基の小型プロペラ駆動とする。

 それに加え、補助用のロケットエンジンも4基搭載する。

 こちらも、万が一墜落した際に地面に向けて噴射し、落下速度を落とすためにも使う。


 これにより、最高速度の目標として時速150キル(km)から200キル(km)を目指すのだ。


「それに関して、ハカセ、提案が」

「なんだい、ゴロー? 『謎知識』のお告げかい?」

「はい」

「よしよし、聞かせておくれな」

「……ええと、速度が上がると、空気抵抗も増えます。だいたい速度の二乗に比例するので、機体の形状も工夫しましょう」

「ああ、『流線型』だね?」

「そうです」


 こうして機体には流線型を取り入れることとなった。

 横断面は居住性を考えて角の丸まった長方形とするが、機首と尾部は球形に近い形とすることで空気抵抗を減らす。


 その他に、飛行中の姿勢制御用に機体の前後に小さな水平翼を付けてみようかという話し合いをした。

 イメージとしては水平尾翼が前後に付いている感じだ(『尾』翼ではないが)。


「うーん、ローターの風を受けてしまうんじゃないかねえ」

「あ、そうですね」


 4枚羽にしてローター径が小さくなったとはいえ、機体の長さよりも長くなることは避けられない。

 今の構想では直径は6メル()から8メル()

 機体長は3メル()。確かに、翼を付けるとローターが起こす風を受けてしまうであろう。


 ゆえに小さな翼、というアイデアは没になった。


「あと、追加したい装備はあるかね?」

「あ、暖房をつけましょう」

「それは確かにねえ」

「ゴローさんの言うとおりですね。空の上は寒いですものねえ」


 ハカセもアーレンも大賛成であった。


 もちろん『オートローテーション』にするし、床窓も設ける。

 水平儀や外気温計は言わずもがな。


「あとはどうするかだね」


 ここでサナが発言。


「……もし、万が一、空を飛ぶ魔物と遭遇したら、どうするの?」

「武器、か」

「そうだねえ……こっちから積極的に攻撃はしたくないけど、防衛のため、何か考えないとだねえ」


 それを受けてゴローが発言。


「……やっぱり銃、でしょうか?」


 だが、アーレンはそれを否定した。


「いえ、銃の所持は、一般人はできないはずですので、万が一見つかったら大変なことになります」

「そうか……とすると弓矢かなあ」


 クロスボウのような、小型で強力な弓矢ならいけるのではないかと思うゴローであった。


「弓矢はいいと思うけど、高速で飛んでいたら風の影響を受けて、軌道が変わりそうだねえ」

「ですねえ……」


 ここが考えどころと、皆頭を悩ませるのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月10日(日)14:00の予定です。


 20211007 修正

(誤)水平儀や外気温系は言わずもがな。

(正)水平儀や外気温計は言わずもがな。

(誤)充填率は低いので体積としては4リル(リットル)くらいだろうが、それでも80キロ近い。

(正)充填率は低いので体積としては4リル(リットル)くらいだろうが、それでも80キム(kg)近い。

(誤)これにより、最高速度の目標として時速150キロから200キロを目指すのだ。

(正)これにより、最高速度の目標として時速150キル(km)から200キル(km)を目指すのだ。


(旧)ステンレス鋼だと700ニュートン/平方ミリメートルくらい。

(新)ステンレス鋼だと700ニュートン/平方ミリメートルくらい(単位は現代日本準拠)。


 20211030 修正

(誤)ここの灰重石も、ゴローが『『(ルクス)』『灯す(ルミナ)』+膨大なオド(内魔素)』を使い、

(正)ここの灰重石も、ゴローが『(ルクス)』『灯す(ルミナ)』+『膨大なオド(内魔素)』を使い、


 20211107 修正

(誤)よしよし、任せておきな。……『ラピス()』『金属(メタルム)』『分離(アフェレシス)』」

(正)よしよし、任せておきな。……『(ラピス)』『金属(メタルム)』『分離(アフェレシス)』」

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― 新着の感想 ―
[一言] 網とか?。(絡めて落とす)
[気になる点]  ついこの間までは自動車で、今はヘリコプター。まだまだ馬車業の隆盛な時期だろうし、その配慮とかもあって、自動車の方は産業革新にはつなげられそうにありませんから、丁度よかったのかも。しば…
[一言]  ちなみに『光ルクス』『灯すルミナ』に『膨大なオド内魔素』を注ぎ込むことで、発生する光の波長を短くすることができるのだ。 ↑ 『膨大な』Σ(゜Д゜) もっとオドを注ぎ込めばX線になったり逆に…
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