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08-22 納品再び

 ゴローは『新型2重反転ヘリコプター』についてハカセとアーレンに報告を行った。


「ふんふん、エンジンの特性がゴローの『謎知識』とは異なるので『可変ピッチ』はそれほど有効ではないんだね」

「はい」

「『オートローテーション』を使うには15度くらいがいいのかい?」

「そうなりますね」


「うーん、それじゃあ最終的には固定ピッチでいいのかねえ」

「そうですね。操作はできる限り単純な方がいいでしょう」

「そうだねえ……」


 結局、今回の『新型』には可変ピッチは採用しないこととなった。

 固定ピッチへの改造はすぐに終わる。

 強度も増すので一石二鳥だ。


「あの、推進用の小型プロペラを、真下に向けられるようにしたらどうでしょうか」


 ここで、アーレン・ブルーが思いつきを口にした。


「お、それいいかも」

「そうだねえ。いっそ今の2基から4基に増やして、速度アップも図ろうかねえ」


 可変ピッチ機構を取り除くことで十数キロ軽くできたから、とハカセは言った。


「その分、推進機を増やせるしね」

「いいかもしれませんね」


 今の『新型2重反転ヘリコプター』の外観イメージは、『繭』型、つまり球体を前後に引き伸ばしたような形で、天辺に『2重反転ローター』が付いている。

 そして尾部にあたる部分に2基の推進機が付いている。

 下部は車輪ではなく、そりである。


 この推進機を4基に増やし、不時着時の浮力に使えるようにしようというわけだ。


「そうすると、取り付け部分をどうするかだねえ」

「多少推進効率が悪くなるかもしれないけど、前後にバランスよく付けるしかないでしょう」


 浮力としても使うなら、バランスが悪いと機体が傾いてしまうおそれがある。


「それはそうだねえ」

「うまくやれば上昇と下降の補助にも使えますね」

「あ、アーレン、賢い」


 水平に固定だった推進機を、上下にも向けられるようにすれば、上昇と下降の助けになる。

 さらには180度向きを変えられるようにすることで、回転を逆にしなくても後退できるようになる。


「これはいいねえ」


 さっそく『新型2重反転ヘリコプター』を改造しながら、ハカセは上機嫌でつぶやいた。


「あ、そうだ」


 一緒に作業していたゴローも、何かを思いついたようである。


「ハカセ、この着陸用のそりですが、不時着時に衝撃を吸収できるようにしませんか?」

「え? ああ、そういうことかい」


 通常の荷重では全く問題ないが、3倍から5倍の荷重が掛かったときにやんわりと壊れ、衝撃を吸収してくれるようなそりを付けよう、というのである。

 これは、機体重量の4倍まで耐える強度に設定することでクリアした。


*   *   *


「さて、やれることはやったねえ」

「はい、ハカセ」

「落ちないなら、それに越したことはないんですけどね」

「そのとおりだねえ。だからエンジンもローターも、精一杯のことをしたつもりさ」

「うん、みんな頑張った」


 サナまで加わり、完成した『新型2重反転ヘリコプター』を見つめていた。


*   *   *


「これを納品したら、しばらく研究所に行こうかねえ」


 そろそろハカセもヘリコプター以外の飛行機械を作ってみたくなったようだ。


「そうですね。姫様にもそう断って、休暇みたいな扱いで王都を離れましょう」

「うんうん」

「それで、向こうで『2重反転ヘリコプター』を作るんです」


 このゴローの提案に、ハカセは首を傾げた。

 

「どうしてだい?」


 だが、すぐにその意図を察する。


「ああ、あたしたちがよそへ行ったり来たりするための乗り物だね?」

「そういうことです」

「たしかに必要か」

「試作も取られちゃいましたからね」


 本来なら、試作は納品せず、色々手を加えて自分たちの乗り物にするつもりだったのだ。


「今なら、納品する機体とほぼ同型にしておけば文句は出ないと思いますよ」


 納品時にローザンヌ王女に確認するつもりでいるゴローであった。


「そうだねえ……同じものを作るのは気がすすまないけどねえ……やるしかないか」

「でしたら、こっそり新機能を付けましょう」

「うん? それはなんだい? ゴロー、聞かせなよ!」


 ハカセが気乗りしないようだったので、ゴローがちょっと気を引くようなことを言う。

 案の定、ハカセは食い付いてきた。


「小さい翼を付けて、エルロンも付けるんです」

「ふむ。つまり前進中に機体を傾けようというわけだね」

「ええ。そうすれば傾いた方に旋回するはずです」

「なるほど、それは『飛行機』を作った経験がなければ気づかないねえ」


 今は推進用のプロペラで前進し、左右への方向転換も行っている。また、上下はローターの回転数で調整している。

 が、これに飛行機と同じやり方を加味することでより運動性をあげようというのである

 この提案により、ハカセのやる気に再び火が付いたようだ。

 早速、検討に入るハカセであった。


*   *   *


 納品のため、王城へ向かったのは翌日の朝。


 前日の夕方に『納品します』というふみをモーガン経由で依頼主のローザンヌ王女へ送ったところ、その返事が届いたのが夜半。

 『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーに起こされた執事見習いのルナールがそれを受け取っている。

 緊急性がないので翌朝になってゴローたちが知った、ということになる。


「午前9時に王城前の広場へ納品に来られたし、か」


 場所は前回と同じ。

 時刻は1時間遅い。

 王女が多少気を使ってくれたのだろうかと思ったが、多分そうじゃないな、と思い返すゴローである。

 おそらく他の重臣たちの都合であろう。


 そこで早めの朝食を済ませ、ブルー工房へ行く、ゴローとサナ。

 当然、アーレン・ブルーにも納品の時刻が通達されている。

 ちなみに、もちろんハカセは行かない。


 現在時刻は午前8時少し前。

 準備のための時間は十分にある。


 ゴローはアーレンと共に『新型2重反転ヘリコプター』の最終確認を行っていく。


「魔力充填、問題なし」

「エンジン問題なし」

「ローター問題なし」


 各部チェックは、一応『チェックリスト』を作って行われている。

 納品時にチェックリストも提出し、整備に役立ててもらおうと思っているのだ。


「異常、なし!」

「こっちも異常なしだ」


 チェックが終わった時刻は午前8時半。

 そろそろ向かおうかと、ゴローたちは考えた。

 ローザンヌ王女のことだから、うずうずして待っているに違いないからだ。


 それでゴロー、サナ、アーレンの順に『新型2重反転ヘリコプター』に乗り込み、それぞれの席に着く。

 ゴローは操縦席、サナとアーレンは後部座席。


「エンジン始動!」


 スイッチ1つで回転を始める2重反転ローター。

 4枚羽になったので、多少場所を取らなくなっている。


 回転数が上がり、ふわりと機体が浮いた。

 そのままゆっくりと上昇。

 音を聞きつけ、野次馬が集まってきたが時既に遅し。

 『新型2重反転ヘリコプター』は朝の空に飛び立っていた。


 野次馬たちの中には、行き先は王城南の広場だろうと見当をつけ、走り出す者もいた。

 そしてその予想どおり、『新型2重反転ヘリコプター』はまず南へ向かい、次いで東へ折れて、王城南の芝生広場を目指したのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月30日(木)14:00の予定です。


 20211223 修正

(誤)この推進機を4基に増やし、不時着時の浮力に使える方にしようというわけだ。

(正)この推進機を4基に増やし、不時着時の浮力に使えるようにしようというわけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  野次馬たちの中には、行き先は王城南の広場だろうと見当をつけ、走り出す者もいた。 ↑ 治安が良い区画だからそこそこイイトコの人達だろうから野次馬の為に自転車とか売れそうですね(´ω`)そのう…
[一言] >「ふんふん、エンジンの特性がゴローの『謎知識』とは異なるので『可変ピッチ』はそれほど有効ではないんだね」 >「はい」 >「『オートローテーション』を使うには15度くらいがいいのかい?」 >…
[一言] エルロンは流石に操縦性や空間把握、機体把握が出来ない状態で取り付けたら事故の元でしょうから納品物には、むしろ付けるべきではないでしょうね 所で以前、航空機の組み立て場所を郊外に作るみたいな…
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