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08-21 試験結果

 一度作っているので、機体の製作はサクサクと進んだ。

 それと並行してローターを作っているのだが……。


「今回は2枚羽じゃなく4枚羽にしてみないかい?」


 ハカセからの提案。

 これにより、1枚あたりの長さが短くできるため、先端の速度が音速を超える心配が減る。

 さらに1枚あたりの重さが軽くなるので、遠心力に耐えるための付け根部分の強度に余裕ができる。


「その方がローターの直径を小さくできそうですものね」

「いいと思いますが、それのピッチ(ひねり角)をうまく変化させられますかね?」


 デメリットは4枚のバランスが取りにくくなることか。

 ピッチ(ひねり角)はできる限り揃っていた方がいいわけで、2枚を揃えるよりも4枚を揃える方が難易度が高いわけだ。

 が、それは作る側の技術次第である。


「それは大丈夫だよ。あたしに任せておきな」

「ハカセがそう言うのなら……」


 ゴーレムの手首をひねる要領でローターブレードをひねる、とハカセは言っている。

 強度も全く問題ないというのだ。

 ハカセができる、と言うのだからできるのだろうとゴローもアーレンも任せることにした。


*   *   *


 計3日で『新型2重反転ヘリコプター』は組み上がった。

 その間、一番大変だったことは……。


「見物客というか野次馬が増えたことだな」

「ですね」


 あの『飛行機械』がブルー工房の製作だということはどこかから漏れたらしく(アーレン・ブルーが乗っていた時点でばれるも何もないのだが)、連日ブルー工房に野次馬が殺到しているのだ。

 それをモーガンに伝えたところ、王女殿下の命により、新型機の製作を邪魔させないよう近衛騎士と兵士が派遣され、警備に当たっていたりする。

 近衛騎士に警備させるというのは贅沢なようだが、王族が乗る飛行機械を作っているのだからある意味当然ともいえる。悪戯や妨害をされたら一大事だからだ。


 とにかく、静かな環境で新型機を製作できていることはありがたい、とゴローたち全員が思っていた。


「さて、とにかく試験飛行をしてみないとねえ」

「音で絶対にばれますね」

「そこはしょうがないでしょう」

「うん」


 ハカセ、ゴロー、アーレン、サナ。

 ハカセを除く3人で新型機を中庭へと運んでいく。

 いろいろ見直しをした結果、機能追加をしたにもかかわらず、前作より30キム(kg)程軽く仕上がったのである。


「おそらく、飛ぶことは間違いないだろうね。問題はその先だよ」

「わかってます、ハカセ」


 『可変ピッチ機構』が追加になっており、これを操作した際にどんな挙動をするか、が不明なのだ。

 そしてもう1つ。

 『オートローテーション』が間違いなく働くか、である。


「とにかく、十分すぎる高度を取って試してみます」

「ああ、それしかないねえ」


 レシプロエンジンやジェットエンジンとは違い、魔法で駆動しているため、一旦停止させて『オートローテーション』を試し、再び起動させてまた上昇する、などということはお手のもの。

 その際、高度が低いと検証が終わらないうちに接地してしまうだろうから、十分な高空で、というわけである。


 ゴローはいつもどおりに自身に対し強化(ホプリゾーン)を行い、新型機に乗り込んだ。

 そしておもむろにエンジンを起動する。

 2重反転ローターが回り出す。

 まずはピッチ固定で出力を上げていく。機体がふわりと浮いた。


〈うん、まずは成功、ピッチ固定なら前作とほとんど変わらない〉


 ゴローは念話でサナに伝えた。


〈このまま高度を取る〉

〈ゴロー、気を付けて〉

〈了解〉


 ゴローは200メル()ほど上昇し、テスト開始だ。

 まずはピッチ(ひねり角)をゆっくりと増やしてみる。


「お?」


 エンジンの負担が増したので回転が少し落ちた。ゆえに高度はほとんど変わらない。


「ああ、なるほど、エンジンの特性によるのか」


 ピッチが増えるとローターの上昇力も増えるが、同時に空気抵抗も増えるのでエンジンの回転数が落ち、結果として上昇も下降もしない……ということらしい。


「だが、これでエンジンの出力を増すと……おっ」


 ぐん、とGが掛かり、機体は勢いよく上昇していく。


「なるほど、エンジン出力に余裕があるならピッチを増やせば上昇速度も上がるわけだな」


 これを利用し、現在のエンジンにちょうどいいピッチを選択することもできそうだ、とゴローは考える。

 いろいろ試した結果、それはおよそ12度くらいであった。


 そしていよいよ『オートローテーション』の試験に取り掛かる。

 ローターのピッチは少なめにして抵抗を減らしておく。

 空気抵抗が強すぎると回転が止まってしまうからだ。

 また、回転は速いほうがローターが止まりにくいだろうという考えもある。


〈よし、やるぞ〉

〈ゴロー、くれぐれも気を付けて〉


 念話を使い、サナに一言伝え、ゴローはエンジンを停止させた。

 フリーホイルが働き、ローターは回り続ける。

 そして機体はゆっくりと下降を始めた。


「お、いい感じだな」


 高度200メル()から100メル()まで、ゴローは下降するに任せた。


「時速20キル(km)くらいかな?」


 ここでエンジン再起動。

 『新型2重反転ヘリコプター』は再び上昇する。

 高度200メル()でまた停止。


「もう1度だ」


 今度はピッチをもう少し大きくしてエンジンを切る。

 同様に高度100メル()まで下降したときの速度は時速15キル(km)くらいであった。


「お、さっきよりいいな」


 ……と、こうした実験を繰り返した結果、2回めに設定したピッチが最も有効であることがわかった。

 それよりピッチが大きくても小さくても、機体の降下速度は大きくなってしまったのである。


〈……と、いうわけだ〉

〈うん、わかった〉


 念話でサナに報告を入れておくゴローであった。


 その後もいろいろと試験を行っていく。

 エンジンを2系統4基にしたため、回転がより滑らかになったようだ、とゴローは感じていた。

 そしてローター径が小さくなったので旋回半径も少し小さくなった。


 元々『ヘリコプター』は『ジャイロ効果』のために安定性がよく、その分姿勢変更が難しいのだが、推進用の2基の小型プロペラは力強く、姿勢制御もうまくできている。

 これならローザンヌ王女も満足してくれるだろう、とゴローは判断し、ゆっくり降下。


 新たに設けた『下窓』から真下の様子を確認しつつ降下できるのはなかなかいい、とゴローは思った。

 離陸したのはブルー工房の庭。

 塀の向こうから歓声が聞こえてくる。

 さすがに敷地内には入ってこないが、周囲の住民は耳ざとく……まあかなり大きな音を立てるので仕方ないが……『新型2重反転ヘリコプター』を一目見ようと集まってきていたのである。


「大人気だな……」


 苦笑しつつもゴローは危なげなく『新型2重反転ヘリコプター』を着陸させたのであった。


「ゴローさん、お疲れさまです!」


 着陸し、ローターが停止するとアーレン・ブルーが駆け寄ってきた。


「どうでした?」

「うん、『オートローテーション』は有効だ。とはいえ、安全に着陸できるとは言わないが、大事故は防げると思う」

「そうですか、よかった。……性能は?」

「うん、前の機体より安定感は増した。小回りも利くな」

「成功ですね」

「うん。……まあ中に入って詳細な結果報告をするよ」

「はい!」


 こうして、『新型2重反転ヘリコプター』は完成一歩手前までこぎつけたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月26日(日)14:00の予定です。


 20210923 修正

(誤)ゴウ

(正)ゴロー

 2箇所修正。

(誤)新たに設けた『下窓』から真下の様子を確認しつつ降下できるのはなかなかいい、とゴローは思った

(正)新たに設けた『下窓』から真下の様子を確認しつつ降下できるのはなかなかいい、とゴローは思った。


 20210924 修正

(旧)計3日で『新型2重反転ヘリコプター』は完成した。

(新)計3日で『新型2重反転ヘリコプター』は組み上がった。

(旧)〈ゴロー、気をつけて〉

(新)〈ゴロー、くれぐれも気を付けて〉

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― 新着の感想 ―
[一言] >「見物客というか野次馬が増えたことだな」 ハカセの姿が人目に触れないようにするのでさらに余計な苦労をする羽目になったのかな。 >計3日で『新型2重反転ヘリコプター』は完成した。 >こう…
[一言] > ゴーレムの手首をひねる要領でローターブレードをひねる、とハカセは言っている。 ……何かっつーとハカセから手首を捻られることに怯えるフランクの姿が浮かんできたのh フ「気のせいです(呆」そ…
[一言] そう言えば…《静音》の魔法ってありませんでしたっけ? ヘリの音が煩いならローター下にそんな魔法をかけておくというのはどうでしょう? あまり消し過ぎると隠密能力が高過ぎて怖い(電気自動車の静音…
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