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08-16 試作ヘリコプター

 翌朝から始まった本体組み立ては順調であった。

 ゴローとサナが部材を運び、所定の場所で支えているところを、ハカセとアーレンが接合していく。

 これが効率よく進み、午前中にはほぼ形が見えてきたのである。


「大分できてきたねえ」

「楽しみですね」


 昼食時間を挟んでの作業は順調だ。

 風防用の水晶も取り付けが済み、残るはローターブレードのみ。


「これを取り付けたら飛行試験をやりたいねえ」

「そうですね。でも運べませんよ」

「ああ、そうか……」


 組み立て後のローター直径はおよそ5メル()

 右回転左回転それぞれ2枚のブレードを持つので計4枚となる。

 その状態では、工房の外へ運び出せなくなりそうであった。


「着脱可能にするかい?」

「それじゃあ、多分ブレードの根本ねもとが強度不足になると思います」

「そうだねえ……」


 ではどうしようか、とゴローたちは悩んでしまった。


「外で組み立てて、そのまま飛行テストを行いましょうか?」


 ゴローが提案すると、


「うーん、それしかないかね」

「それがよさそうですね」


 と、ハカセとアーレンも賛成した。

 そしてサナはというと、


「今後、飛行機は町の外で組む必要がありそう」


 と言い出した。


「ああ、そうかもねえ」

「でもまあ、今はどうしようもないけどな」


 とにかく、最終組立は王都の外で行うことになった。

 そこで、せっかく組み立てたが、推進用のエンジンとプロペラだけは取り外す。

 運搬中にぶつけたくないからだ。

 つまり、『ブレード4枚』『本体1台』『推進用エンジン2基』に分けて運ぼうというわけである。


 これでも本体の運搬が最も大変で、荷馬車2台をうまく繋げてようやく運べるようになった。


「それじゃあ、行こうかね」

「はい」


 目指すは王都の北西部。そのかど部にはゴローたちの住む屋敷があるからという理由からだ。


*   *   *


 2時間ほども掛け、ようやく目的地に到着。

 いよいよ最終組立である。


「さあ、やるよ」

「はい!」


 運搬の疲れも何のその、いよいよ完成ということで、全員精力的に働き、1時間後には『二重反転式ローター』を持つヘリコプターが完成したのである。


 時刻は午後3時。


「さあ、これで完成だよ!」


 各部チェックを念入りに行なったハカセが完成宣言を行った。


「それじゃあ、試運転を行いましょうか」


 テストパイロットはもちろんゴローだ。


「ゴロー、気を付けておくれよ」

「ゴローさん、気を付けてくださいね」

「任せてくれ」

〈ゴロー、気を付けて〉

〈うん、行ってくる〉


 ハカセとアーレンからの言葉と、サナからの念話に見送られ、ゴローは試作ヘリコプターに乗り込んだ。

 もちろん、いざというときのため、自らに『強化(ホプリゾーン)』も掛けている。


 乗り込んだゴローは扉を締め、エンジンを始動した。

 ゆっくりとローターが回り始め、それは次第に速度を増していく。


「こ、これはうるさいねえ……」

「思った以上に風切り音って大きいんですね」

「ん、うるさい」


 風切り音はかなりうるさい。それは半ば宿命のようなものである。

 静音性の高いローターを作るには、まだまだ技術不足であった。


 それはさておき、耳を塞ぐハカセたちが見ている前で、試作ヘリコプターはふわりと浮き上がった。


「浮いた! 浮いたよ!」

「浮きましたね!!」

〈ゴロー、浮いた〉

〈ああ、だがこれからだ!〉


 そのままゴローは安定性を試すように、地上3メル()ほどの高さをキープ。

 機体は多少揺れているが、左右どちらかに回転を始めるということはない。二重反転ローターの効果だ。


〈よし、推進機起動〉


 念話でサナに伝えたゴローは、推進機のスイッチを入れた。

 機体後部左右に付けられたプロペラが回り始める。

 と同時に、試作ヘリコプターはゆっくりと進み始めた。


「お、進み始めたね」

「安定してますね」


 試作ヘリコプターは次第に速くなっていく。

 大体時速10キル(km)くらいだ。高度は少し上がって5メル()ほど。


「いい感じだねえ」

「まずは成功ですね」


〈サナ、一旦戻る〉

〈うん〉


 そのまま200メル()ほど進んだゴローは、くるりと向きを変えて戻ってきた。

 そして着陸。

 ローターの回転が止むと、シーンとした静けさが戻ってくる。


「ゴロー、やったね! 成功だよ!」

「ゴローさん、大成功です!」


 駆け寄ってくるハカセとアーレン。

 だがゴローは、


「まだまだ全力にはほど遠いですよ」


 と答え、2人を驚かせたのである。


「まずはチェックをしましょう」

「うん、そうだねえ」


 チェックをしてみて異常がなければ、ゴローはもう一度飛び、もっとパワーを上げてみるつもりだった。


「うん、機体もエンジンも異常なし」

「ローターも大丈夫です」

「それじゃあ、もう一度飛びます。今度はもっと出力を上げてみますよ」


 そう言ってゴローは再びエンジンを起動した。

 そして前回よりも速いペースでローターの回転を上げていく。

 ふわりと浮き上がる試作ヘリコプター。


〈それじゃ、やってみる〉

〈ゴロー、気を付けて〉


 サナに念話でそう告げると、まずは高度を10メル()ほど取り、次いで推進機を起動する。


「お、今度は……速いねえ」

「凄いですね」


 ゴローの操縦する試作ヘリコプターは、時速50キル(km)ほどで北西へと飛んでいった。

 あっという間に『翡翠の森(ヤーデヴァルト)』の彼方に見えなくなる試作ヘリコプター。

 と思ったらすぐに同じスピードで戻ってきて着陸した。


「すごいよ、ゴロー! 大成功だね!」

「ゴローさん、やりましたね!」


 だがゴローはしれっと、


「もう1度チェックをしたら、全力飛行をしてみる」


 と答えた。

 今の飛行は7割程度の出力で行った、とも。


「ううん、そんなにかい。こりゃ、大成功以上だねえ」

「嬉しいですね、ハカセさん、ゴローさん」


 ハカセとアーレンは嬉々としながらチェックを行っていく。

 どこにも異常は見られなかった。

 そしてゴローは最終テストを行う。


「行きます!」


 轟音を立てて回転するローターは試作ヘリコプターをあっという間に高空へと持ち上げた。

 そして。


「お、あ、あ、速い!」


 全開にした推進機は、試作ヘリコプターをこれまで以上に加速する。


「凄い! 凄い! 凄い!!」


 語彙がなくなったようにアーレン・ブルーは同じ言葉を繰り返した。


 試作ヘリコプターは時速70キル(km)以上の速度で暮れ始めた空を疾駆していったのである。


*   *   *


「完全に成功だよ」


 あの後ゴローは試作ヘリコプターにハカセとアーレン、サナも乗せた荷重試験を行った。

 彼らの作り上げた試作ヘリコプターはそれにも見事合格。

 王家に納品するにふさわしい性能を発揮したのである。


「このまま、屋敷の庭に着陸させましょう」

「それがいいね」


 全員が乗った状態でゴローが言う。

 外に置きっぱなしの荷車は後で回収すればいい。


「明日が楽しみですね」


 そして翌日、最後の点検と整備を行ったら納品である。

 ローザンヌ王女の驚く顔が目に見えるようだ、とゴローは思ったのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月5日(日)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 音が小さい機体と言えば、某米軍のステルス型ブラックホークが有名ですね ローター径を大きくして回転を落とすのも、一応効果あるでしょうか ジ「イロコイやコブラシリーズも、最近のはローター数増え…
[一言] 試作ヘリコプター完成しちゃいましたねー ローザンヌ王女は操縦を我慢できるだろうか……
[一言] >「着脱可能にするかい?」 竹とんぼみたくローターだけ飛んで行っちゃうw ==|== 二枚二重で二枚重ねの5mになるのを |== |== 一枚四重にして四枚重ねの2.5mにする というの…
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