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08-12 それぞれの役目

 ローザンヌ王女から『2重反転式ヘリコプター製作』のゴーサインが出た翌日。

 ハカセとサナはマグネシウムの鉱石である『滑石かっせき』を買い付けに、南へ向け旅立った。


 南には『ラジャイル王国』という小国があり、王都で使われる滑石はそこで採れたものなのだ。


 この『ラジャイル王国』は『ルーペス王国』の属国で、ルーペス王国民が購入する際の関税は5パーセントに過ぎない。

 逆の場合は20パーセントという関税がかかるのだ。

 不公平だが、属国というものはそういうものである。

 ルーペス王国からは『お目付け』として侯爵クラスの貴族が出向し、政治の監視を行っていた。

 そのため、2国間の関係は少なくとも表面上は良好である。


 そこで、買付ならということで『マッツァ商会』に相談したら、馬車を格安でハカセたちに貸し出してくれた。おまけに御者も斡旋してくれたのである。

 もちろんこれまでにハカセやゴローたちがマッツァ商会に莫大な利益をもたらしたからだ。

 商会長オズワルドとしては、この機会に少しでもその恩を返し、同時に次の商談にも繋げたいという思いがあったのであろう。


 そんなことを知ってか知らずか、当のハカセとサナはのんびりしたものだ。


「サナと2人きりで旅というのも珍しいね」

「うん」


 2人は悠然と馬車に揺られていた。

 帰りにはマグネシウムと滑石を大量に積んでくる予定なので、2頭引きの大型馬車だ。

 王都からの距離はおよそ40キル(km)、馬車で1日の距離にある。

 街道は整備され、10キル(km)ごとにラジャイル王国の兵士詰め所があって、盗賊行為を取り締まっていた。

 ゆえに平和な道行きである。


 この時間を利用して、ハカセはいろいろと考えをまとめていた。

 サナはといえば、ゴローに作ってもらった『純糖』の粒を少しずつかじっている。

 静かな乗客を乗せ、馬車は南へ南へと進んでいくのだった。


*   *   *


 一方、ゴローとアーレン・ブルーは『円盤式エンジン』を作っていた。

 想定している回転数は1000rpm。

 かなり遅い。

 その分、トルクを大きくするべく、円盤の直径は60セル(cm)にしている。厚みは3セル(cm)

 以前作ったものが円盤径30セル(cm)、厚み2セル(cm)で2000rpmだったので、直径を倍、厚みを1.5倍にし、回転数を半分にしたわけだ。


 直径を大きくしたので駆動極も増やし、12箇所としたため、予想されるトルクはトータルで3倍近いものになるはずであった。


「あとは『スラスト軸受』ですね」

「うん。これはアーレンの精密加工技術が頼みだ」

「任せておいてください」


 今回は円筒ころで荷重を受けることにしていた。

 つまり、『スラスト円筒ころ軸受』にするつもりなのだ。

 いろいろ検討した結果、ボールよりも円筒ころの方が耐荷重性に優れるからである。

 回転数は低めなので、耐荷重に重点を置いたわけだ。


 およそ2トム(トン)の荷重が掛かってもびくともしないものがほしいとゴローが言い、アーレンはそれに応えるべく、加工にいそしんだのである。


「どうです、ゴローさん?」

「すごいなあ。これならバッチリだぞ」


 その日の夕方、完成した『スラスト円筒ころ軸受』を見て、ゴローは感心していた。


「よかった。苦労した甲斐がありましたよ」

「これでエンジンの目処はついたな」

「はい。明日はエンジンを完成させてしまいましょう」

「そうだな」


 往復に2日、購入で半日、精錬に半日として、ハカセとサナがマグネシウムを積んで戻ってくるのは早くても明後日だろうと予想している。

 それまでにエンジン部分を完成させておきたかったのだ。


 その日はそれで帰ったゴローだったが、実はあと1つ解決しなければいけない問題があった。

 家へ向かって歩きながら考えを巡らす。


 それは、ローターのピッチ(ひねり角)である。

 実は、ヘリコプターのローターの回転数はほぼ一定に保たれている。

 上昇・下降はローターのピッチを変更して行われているのだ。


 これを機械的に行うのは、スラストベアリングがある今なら可能。

 だが機構的に弱点になるので、魔法的に行えないかとゴローは考えているのであった。


「ひねるだけだから、ゴーレムやガーゴイルや自動人形(オートマトン)の手首構造でいけそうな気がする」


 と思いついたところで家に到着したのであった。


*   *   *


 同じ頃、ハカセとサナも『ラジャイル王国』に到着していた。

 周囲を囲む人工の城壁はわずかで、大半が天然の岩山に囲まれた国である。

 

 ゴローが見たらその『謎知識』で『カルデラ?』と言ったかもしれない。

 実際、『ラジャイル王国』は『ジャンガル王国』同様古い火山あとのカルデラに建国された国であった。

 ただし、山の上ではなく平野部にある。

 イメージ的には阿蘇のカルデラが山の上ではなく平地にそびえているようなものだ。


 王都フラーはその中心部であり、ハカセとサナが訪れたのは最も北にある玄関口とも言える町。その名をボレー。


「聞いた話だと、ここで滑石が買えるはずだよ」

「ハカセ、泊まるところを決めないと」


 サナはいいとしても、ハカセと御者は生身である。


「ああ、そうだねえ」

「それでしたら、行きつけの宿がありますぜ」

「それじゃあ、そこへやっておくれ」


 幸い、この町には買い付けの商人たちが頻繁に訪れるので宿屋も多く、その1つを御者がよく知っていた。

 この御者は例の『マッツァ商会』が斡旋してくれたので信用できる。


 御者は『銀の花亭』という宿屋へ馬車を進めた。

 ここは商人御用達の宿なので、馬車を格安で預かってくれるのだという。もちろん馬に飼い葉もやって世話をしてくれる。当然別料金だが。


「ああ、ここでいいねえ」

「今夜はここに泊まって、明日、買い付けに行けばいいでしょう」

「そうだねえ。明日、案内を頼むよ」

「はい、お任せくだせえ」


 御者は滑石の卸業者も知っており(だからこそマッツァ商会が斡旋してくれた)、ハカセとサナにとっては心強かった。

 その夜は、少しいつもと違った夕食に舌鼓を打ち、早めに就寝。

 といっても寝たのはハカセだけで、サナは横になっただけ。

 ゴローがいないので、ハカセを守るのは自分の役目だと認識し、周囲の気配を探っているのだ。やる時はやる子なのである。


 だが、どうやらこの町は平和で、怪しい気配が近づいてくることもなく一夜が明けたのであった。


*   *   *


 翌朝、朝食を済ませたハカセとサナは、御者の案内で滑石卸業者のところへ行く。


「滑石を200キム(kg)欲しいんだけどねえ」


 滑石は水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる鉱物で、体積パーセントで20.7〜26.9パーセントくらいのマグネシウムを含有している。

 滑石の比重はおよそ2.7、マグネシウムの比重は1.74。

 つまりざっと計算して滑石1キム(kg)から200グム(グラム)くらいのマグネシウムが得られることになる。

 ジュラルミンを1トム(トン)作ろうとしたら、必要なマグネシウムは8キム(kg)

 超ジュラルミンを作る場合でも20キム(kg)あれば足りる。

 つまり滑石が100キム(kg)あれば事足りるわけだ。

 それに対し、ハカセは倍量を買い込んでおこうと考えたのである。


「に、200キム(kg)ですか!?」

「そうさ。ここでなら買えると聞いたんだけどねえ」

「そ、そりゃあ、在庫はトム(トン)単位でありますけどね……」


 いっぺんにそんな大量に買おうというお客さんは初めてだ、と目を丸くした卸問屋主人であった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月22日(日)14:00の予定です。


 20210819 修正

(旧)RPM

(新)rpm


 20210820 修正

(誤)「ひねるだけだから、ゴーレムやガーゴイルや自動人形(オートマタ)の手首構造でいけそうな気がする」

(正)「ひねるだけだから、ゴーレムやガーゴイルや自動人形(オートマトン)の手首構造でいけそうな気がする」

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― 新着の感想 ―
[一言] >王都からの距離はおよそ40キル、馬車で1日の距離にある。 近っ!王都から40キロで隣国って隣町に行く感覚なんだなぁ。でもなんで王都を隣国と隣接したんだろう? >「ひねるだけだから、ゴー…
[一言] >>ラジャイル 56「そんな開発手法があったような・・・」 >>馬車に揺られていた 37「でも時々お尻に衝撃が」 56「改良型が出回るまでは仕方ない」 >>盗賊行為を取り締まっていた 5…
[一言] 更新お疲れ様です。 ……今更ですが、最初はヘリコより機構が簡単で、ピッチも一定で済む『オートジャイロ』でも良かったのでは?
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