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08-08 向こうとこちらとあちら

 その夜、予定どおり報告会が開かれた。


「ふむふむ、ゴローたちは、機体の形状をほぼ決定できたんだねえ」

「はい。ハカセの方はどうですか?」

「あたしの方も『(ヴェントゥス)』の魔法に改善点を見つけて修正した結果、出力が2割増しになったよ」

「それは凄いですね」

「で、制御の方は変わらないから、まずまずの推進機になったんじゃないかねえ」

「そうですね、さすがハカセです」


 ここで、サナが発言。


「……で、速度計は考えたの?」

「ああ、それがあったねえ」

「……ハカセ、『空気の(アエル・)(パリエス)』を使えない?」

「え?」

「は?」


 サナの発言に面食らうゴローとアーレンだったが、ハカセはすぐにその意図を察した。


「ああ、そういうことかい。……問題は、どう数値化するか、だねえ」

「ええと、サナが言うのは、『空気の(アエル・)(パリエス)』にぶつかる風……というか、負荷を数値化して速度計に使えないかということか」

「うん」

「サナさんすごい! それも検討するべき項目ですね!」


 とはいえ、すぐに結論が出せるものでもない。

 これもまた、『チーム』での課題となるのであった。


*   *   *


 そして翌日は、いよいよ『試作2号機』を作ることになった。

 アルミニウムの原料はフランクが集めておいてくれたので潤沢にある。

 ジュラルミンを作るための銅とマグネシウムも十分だ。


 ハカセとフランクでジュラルミン・超ジュラルミンを精製していき、ゴローとサナ、アーレンの3人で機体を作っていくことになる。

 機体のように大型のモノを作る時は、やはり人手が多いほうがいい。

 それを知っているのでサナも手伝ってくれるわけだ。


 基本形状は試作1号機とほぼ同じなので、図面も新規作成ではなく手直ししただけで済んだ。

 それを参考に、まずはジュラルミンで骨組みを作っていく。

 魔法を使ったアーレンの加工技術は超一流。

 午前中に骨組みが完成してしまった。


 午後は『魔導ロケットエンジン』を作って、ここに取り付ける作業だ。

 これはハカセとアーレンが主導で進められる。


「ちょっと噴射口の形状が違いますね?」

「前回の反省からさね」


 ハカセはハカセで改善点を把握しており、今回の試作に生かしていくのであった。


*   *   *


「……できたねえ……」

「できましたね」

「できたにはできましたけど……」


 結局この日には、外板を張るところまでは行かなかったのである。


「今夜は王都に帰らなきゃならないというのが悔しいねえ。あと半日あればテスト飛行に漕ぎ着けられたのに」

「ですね」

「でもこれも、自分たちで決めたことですから」


 そういうわけで、夕食を食べた後、午後7時に『レイヴン改』は研究所を飛び立ったのである。


「今夜はあまり寒くないですね」

「そうだねえ」


 この夜は冷え込みが緩んでいたので、王都に着いた時のハカセとアーレン・ブルーは寒そうな顔をしていなかった。

 そこで到着してすぐ、ゴローはアーレンを『ブルー工房』へと送っていったのである。もちろん自動車で。


 工房前ではラーナがアーレンの帰りを待っていた。


「お帰りなさいませ、工房長」

「あ、た、ただいま」


 その様子を見たゴローは、そっとUターンして家に帰ったのだった。


*   *   *


「おかえりなさいです、ゴローさん」

「お帰りなさいませ、ゴロー様」

「ティルダ、マリー、ただいま」


 アーレン・ブルーを送っていったゴローを、ティルダとマリーが出迎えてくれた。


「皆様、居間でお待ちです」

「うん」


 今は午後9時を少し回ったところ。

 軽く打ち合わせをしてから寝よう、というわけだ。

 というよりハカセは多分興奮してすぐには寝付けないんだろうな、と推測したゴローである。


「おかえり、ゴロー。お疲れ様」

「おかえり、ゴロー」

「お帰りなさいませ、ゴロー様」


 ゴローが入ってきたのを見たサナが声を掛けてくれた。ハカセも同様である。

 そしてルナールもきちんとした態度と言葉遣いでゴローを迎えたのであった。


「さて、向こうも気になるけど、サナが言うように、こっちでも考えてみるかね」


 ハチミツ入りのホットミルクを飲みながらハカセが切り出した。


「あ、それなんですけど、皆さんがお留守の間に、お城から使いが見えたのです」

「へえ?」


 ティルダが教えてくれる。


「なんでも、お城での開発が難航しているので、助言が欲しいそうです」


 マリーも補足してくれた。


「今夜お帰りになる予定だと返答しておきましたので、明日、またお見えになるのではないかと思われます」

「そっか」

「そっちはゴローとサナに任せるよ。あたしは一般公開できそうな飛行機の構想を考えているからさ」

「……はい」


 今のところ、ハカセが表舞台に立つのは避けなくてはならないので、仕方なくゴローは頷いたのである。


*   *   *


 翌日、午前9時。

 城からの遣いがやって来た。4人乗りの中型の馬車である。

 自動車ではなかったので、ローザンヌ王女ではなさそうだ、とゴローが思っていると……。


「ゴロー、いるか?」

「あ、モーガンさん」


 今日の遣いはモーガンだった。


「留守にしていて、すみません」

「おう。まあ昨日来たのは私じゃないから気にするな」

「はあ」

「それで、伝言は見たか?」

「あ、はい」

「よし。それじゃあ、来てくれ。……あ、サナちゃんも一緒でいいぞ」

「はい」


 王家の呼び出しは要請ではなく命令に等しい。

 不在ならともかく、在宅なのだから断るわけには行かなかった。

 というか、こういう事態になることは予想していたので、ゴローもサナも礼服を着込んでいたのだ。


 モーガンが乗ってきた馬車は4人乗りなので、ゆったりと乗っていける。


「どんな状況なんですか?」


 道中、開発の様子をモーガンに尋ねるゴロー。


「うーん、私はああいうものに詳しくないから、うまく説明できないのだが、なかなか浮かび上がらないと言っていたなあ」

「そうですか……」


 少し前に、『エンジン』についての助言をしたのだから、出力が足りないわけじゃないだろう……とゴローは想像する。

 が、やはり情報不足。

 実際に王城で試作飛行機を見てみないとなんともいえないな。と思うゴローであった。


*   *   *


「おお、ゴロー、サナ、わざわざ済まないな」

「いえ、とんでもございません、殿下」


 王城に着いたゴローとサナを出迎えたのはローザンヌ王女であった。


「情けないが、どうにも開発が行き詰まっているようでな。ゴローの『天啓』の力を借りたいと思っているのだ」

「そうなんですね。できるかどうかわかりませんが、微力を尽くしましょう」

「うむ。ではさっそくで悪いが、工房へ行くぞ」

「はい」


 なんとローザンヌ王女が先に立ってゴローとサナを案内し始めた。

 モーガンは苦笑いを浮かべため息を1つくと、早足で王女に追いつき、護衛としてその横に並んで歩き出すのだった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月5日(木)14:00の予定です。


 20210801 修正

(誤)サナの発言に面食らうゴローとアーレンだったが、ハカセはすぐのその意図を察した。

(正)サナの発言に面食らうゴローとアーレンだったが、ハカセはすぐにその意図を察した。


 20220722 修正

(誤)空気の(アエル) (パリエス)

(正)空気の(アエル・)(パリエス)

 2箇所修正。

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― 新着の感想 ―
[一言] 考えてみたら、ジンとこもこっちも競合相手がいませんよね 競合相手がいると、違う発想で同じ機械を作ったりして進歩が進むんですが フ「あっちはよ、おめージンと競える相手がいないべよ」無茶言うな…
[一言] 国の上層と近しいとこうなっちゃいますよねー 困り事の度に呼び出されたらとか考えるとハカセが厭う気持ちもわかっちゃいますねえ
[一言] >08-08 向こうとこちらとあちら とそちらとどちらさm 凹rz ゴ「ゴローだ」ややこしくしない# > 魔法を使ったアーレンの加工技術は超一流。 あー、アーレンも魔法使えたんだ? ア「い…
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