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08-06 通信実験

「一旦、考えをまとめてみましょう」


 ゴローが提案した。

 科学的な通信、魔法技術による念話、ごちゃまぜに考えているとわけがわからなくなりそうだったからだ。


「ええと、俺の『謎知識』によりますと、『火花』が飛んだ時には『電波』というものも、目に見えませんが出ています。それを何とかして受け取ることで通信が成立します」

「ふん、まあ原理はわかるよ。でも受け取るのが難しそうだね」

「そうですね。この未完成な『無線通信機』を見ても、難しいということはわかります」


 ここでゴローが提案を行う。


「原理は『無線通信』を参考にして、それを魔法で再現できないか、考えてみませんか?」

「やっぱりそれだろうねえ」

「あのロケットエンジンもそうなんでしょう? でしたらゴローさんの意見に賛成です」


 ハカセもアーレンも賛成してくれたので、ゴローはおさらいの意味で、通信についてもう一度説明を行うことにした。

 アーレンは知らないだろうから、彼への説明も兼ねている。


「まず、音声です」


 ゴローは、音波がどのようにして発生し、伝播し、聞こえるか、を簡単に説明した。

 電波は電磁波の一種であるが、同じく電磁波の一種である光波よりも音波に近い一面もあるので(主に直進性が低い点で)例としたのである。


「受信……『聞く』ためには、耳の中の『鼓膜こまく』が振動して、それを音として感じ取っています」

「うんうん」

「はあ……そうだったんですね。なんとなく感じていたことがはっきりしました」


「で、電波も同じように空間を伝わっていくわけですが、音よりも速いですし、空気がなくても伝わります」

「不思議だねえ。……とりあえずそう思っていればいいんだよね」

「わかりました」


 ハカセもアーレン・ブルーも探究者ではあるが、科学者ではないので、こうした原理的な追究には拘りがない。


「受信も、やっぱり『共振』に近いものがありますが……」


 難しいのは『増幅』である、とゴローは説明する。


「距離が離れるほど電波は弱くなりますが、音と違って自然界には存在しないので、判別は可能なんです」


 例外は雷が鳴っている時くらい、とゴローは説明した。


「で、遠く離れて微弱になった信号を受信した場合、それを『増幅』しないと人が判別できないんですよね。そのための部品が手に入らないんです」

「……なるほどねえ」

「……結局、ゴローさんの説明は、『なぜ実現できないか』の理由ですね」


 ハカセは素直に理解してくれたし、アーレンはアーレンでゴローの意図を汲んでくれた。


「さて、そこで俺からの提案です」


 仕切り直すゴロー。


「ハカセ、『念話』だけを通信で使うことってできませんか?」

「うーん……なるほど……」


 通常の念話は魔導士同士で行われるものであるが、ゴローは『装置』として作れないか、と言ったわけだ。

 こうしてゴローから順を追って説明された今、ハカセとしてもなんとなくできそうな気になっていた。


「ええと、ハカセ、僕にも説明してくれませんか?」


 魔法については3人のうちで最も初心者なのがアーレン・ブルーである。

 そこでハカセは、彼にもわかるように説明することにした。そして、往々にしてこうした説明は理解を深めることにつながり、新たな発見をもたらしてくれたりもするのである。


「念話は、一言でいうと『考えを口に出さずに遠く離れた相手に伝える』ことさね」

「なんとなく想像がつきます」

「これの難しい所は、『相手を選ぶ』というところだね」

「相手を選ぶ……ですか?」

「うん。誰とでも……というわけにはいかないねえ」

「はあ……」

「相性がいい相手とは簡単に通じるんだけどねえ」


 ここでハカセは、アーレンに1つ打ち明けることにした。


「ゴローとサナは念話で話ができるんだよ」

「えっ、そうだったんですか!」

「といっても10キル(km)くらいの距離までだけどねえ」

「それでも凄いですね」


 ハカセの説明に、アーレンもなんとなく『念話』を理解できたようだ。


「で、ハカセ、念話を使えるようになる条件は?」

「……よくわかってないんだよ」

「え?」

「でも、俺とサナは……」

「ああ、なんとなくの条件はわかってる。『魔力的に相性のいい相手』で、『保有魔力が一定以上』だとできるようになるみたいだねえ」

「随分ふわっとしてますね」

「だろう?」

「……でも、ヒントはありますね」

「ゴロー、それは?」

「『魔力的な相性』、これはきっと『同調』ですよ。それから『一定以上の保有魔力』。これは『発信するための強度』じゃないかと」

「なるほど、ゴローの言うとおりかもねえ」

「きっとそうですよ、ハカセ、ゴローさん」


 アーレン・ブルーも賛成した。


「それじゃあ、そういう仮説をもとに、発展させていきましょう」

「うんうん。つまり、『2つで1組になるような』『魔力的な何か』……まあ、ゴーレムの『制御核』みたいなものだろうねえ」


 おそらく、同じ材料で並行して作った2体の自動人形(オートマトン)なら、互いに念話ができるようになるだろう、とハカセは言った。


自動人形(オートマトン)ではなく、『念話』に必要な要素だけを取り出せばうまくいきそうな気がします」

「ゴローさんの意見に賛成ですね」

「そうだねえ。魔力の強度の方は、後からなんとでもなるだろうから、まずは実験だねえ」


 これについては、アーレンが供出した『魔晶石』で実験をすることになった。

 魔晶石とは、『制御核』をはじめとする魔法技術学で使われる結晶である。魔法を刻み込むことが容易にできるが、希少なため高価である。


「今度研究所に戻ったら倍にして返すからね」

「は、はあ……」


 研究所には、ごろごろ……とまではいかないが、ブルー工房の在庫の数倍はある魔晶石が保管されているのであった。


 その魔晶石を使い、実験が行われた。

 1つの魔晶石を2つに割り、同じ魔法を刻み込んでみる……というような実験だ。


「耳と口でやってみようかね」


 刻む魔法の候補は『話す(レゲイン)』と『聞く(アクゥオ)』である。どちらも、ゴーレムや自動人形(オートマトン)の声帯や耳に使われるものだ。


 実験には、『聞く(アクゥオ)』で聞き取った音声を『話す(レゲイン)』で再生する、という使いかたをすることにした。

 魔法を刻み込んだ魔晶石を別々の部屋に置き、ゴローが膨大なオド(内魔素)を流し込みつつ魔晶石に話し掛けてみる。


「こちら、ゴロー」


 ゴロー側では、この『こちら、ゴロー』という言葉が『聞く(アクゥオ)』側に入力され、間髪入れずに『話す(レゲイン)』側で再生された。

 ここまでは想定どおり。

 が。


「ゴロー、聞こえた! 聞こえたよ!!」


 隣の部屋からハカセが駆け寄ってきた。

 離れた部屋にあった魔晶石からもゴローの声がしたというのである。

 どうやら、1回目の実験はうまくいったらしい。


*   *   *


「つまり、『聞く(アクゥオ)』を刻んだ魔晶石がマイク、『話す(レゲイン)』を刻み込んだ魔晶石がスピーカーの役目を果たすようですね」


 実験を終え、ゴローたちは結果をまとめていく。


「あとは、効率のよい構成と、どのくらい遠くまで有効か、だねえ」

「でも、希望が見えてきましたよ。やっぱりハカセとゴローさんはすごい!」

「いや、アーレンがいてくれなければ、実用化には漕ぎ着けられないだろうからね? 協力頼むよ?」

「はい、微力を尽くします」


 こうして、魔力による遠距離通信方法が産声を上げたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月29日(木)14:00の予定です。


 20210725 修正

(誤)互いに念話ができるようんあるだろう、とハカセは言った。

(正)互いに念話ができるようになるだろう、とハカセは言った。

(誤)「でも、希望が見えてきあましたよ。

(正)「でも、希望が見えてきましたよ。


 20220724 修正

(誤)「で、遠く離れて微弱になった信号を受信したばあい、それを『増幅』しないと

(正)「で、遠く離れて微弱になった信号を受信した場合、それを『増幅』しないと

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― 新着の感想 ―
[一言]  ハカセもアーレン・ブルーも探究者ではあるが、科学者ではないので、こうした原理的な追究には拘りがない。 ↑ 基礎物理学ならぬ基礎魔法学の研究として、魔法をイチから究明していけば凄い事になりそ…
[気になる点] >「で、電波も同じように空間を伝わっていくわけですが、音よりも速いですし、空気がなくても伝わります」 >「不思議だねえ。……とりあえずそう思っていればいいんだよね」 あれ……そー言えば…
[一言] 相手を選ぶ、ですかこれも共振の一種なんですかねー となるとゴローとサナが念話が出来るのはホムンクルスだからなのか『哲学者の石』が核だからなのかどっちなのやら 魂も含めると材料なんかは結構違い…
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