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08-05 通信

 ゴローは『魔導ロケットエンジン改』の調子を確かめるように、『試作機改』を飛ばし続け、着陸したのは夕闇が迫る頃であった。

 着陸したゴローのもとへ、ハカセが駆け寄ってくる。


「ゴロー、今度はよさそうだね!」

「はい。これなら十分に実用的です」

「うんうん、よかったよ」


 そこへアーレン・ブルーもやって来た。


「ゴローさん、機体の方はどうですか?」

「うん、今度はなかなかいいぞ。強度もまずまずだ」

「よかったです」


 今夜一旦帰るので、心残りがなくなったのはいいことです、と言ってアーレンは微笑んだ。


「そうだったねえ……あたしは残ろうかねえ……」

「え? ハカセ……」

「だって、今夜帰って、明日の夜戻ってくるのも面倒くさいしねえ。それなら残って研究しているよ」


 向こうでやることも特にないし、とハカセは言った。


「それもそうですね……じゃあそうしますか?」

「うん」


 こちらにはフランクもいるし、今夜帰って明日の夜また来るなら、ハカセが残ることに何の問題もないわけだ。


「でもやっぱり、『通信』ができるといいですね」


 こういう時に、王都の屋敷と話ができればいいのに、とゴローは思ったのである。


「通信かい……難しそうだよねえ」


 ハカセにも、通信の原理は説明してある。

 が、魔力で電波的なことを再現するのは、ハカセといえど難しいようで、未だに再現できていないのだった。


 しかし、飛行機が実用化されたなら、通信も必要になってくるであろう。

 ゴローとハカセは、なんとか実用化しようと考えていたのだが……。


「つうしん、って何ですか?」


 アーレン・ブルーがここで食いついてきた。


「ええと、『通信』っていうのは、遠く離れた2地点間で会話できるような装置のことだ。会話すること自体も通信というが」

「それって……『無線』というものと違うんですか?」

「え?」

「アーレン、知っているのか?」


 アーレン・ブルーの口から『無線』という単語が出てきたことにゴローはびっくりした。


「ええ。『電気』というものを使って、『電波』を飛ばして、2つの装置で話ができるものです。初代が試作機を作っていました」

「青木が、かい……」

「はい」

「初めて聞いたよ」

「晩年の作品らしいですから。それに、完成していないので、他人には話すな、ということでしたし」

「あたしらにはいいのかい?」

「ええ。……理解できる人になら話してもいい、ということですし、むしろ何とかして完成させてくれ、という言葉が遺っていますから」


 どうやらブルー工房の創設者である青木氏は、あと一歩で無線通信が可能になるところまで辿り着いていたらしい。


「うーん、気が変わったよ。あたしも今夜帰る。そして、アーレンのところで青木が遺したという無線とやらを見せてもらおうじゃないか。いいだろう?」

「ええ、ハカセさんなら大歓迎ですよ」


 こうしてこの夜、夕食後に『レイヴン改』を使い、ハカセ、ゴロー、サナ、アーレンらは一旦王都に戻ったのである。


*   *   *


 翌朝、朝食もそこそこに、ハカセはゴローと共に『ブルー工房』を訪れた。


「お待ちしてました」


 アーレン・ブルーも心得たもので、早めに朝食を済ませ、2人を待っていたのである。


「もう用意してありますよ」


 アーレンは自分専用の工房へと2人を案内した。

 部屋の中央に置かれた作業台の上に、2つの箱が載っている。

 大きさは10キロ入りのみかん箱くらいだ。


「これが無線通信機かい……」

「そうです。これが設計図になります」

「どれどれ」


 ハカセとゴローは設計図を見てみる。

 それは、三角法という製図方法で描かれた部品図と組立図、それに回路図からなっていた。


 興味深いのは回路図である。

 この世界では半導体素子が手に入らないため、様々な工夫がなされていた。


 無線通信の原理としては、高電圧を掛けて生じさせた火花が電波も出しており、離れた場所にあるアンテナ的な受信器で同時に火花が飛ぶ、というようなものだった。

 初期の通信では、会話などは行えず、オンとオフの組み合わせで行うモールス信号が使われていた。


 この通信機はまさにそれである。

 強力な電波を出すために高電圧を発生させる『昇圧トランス』がメインで、それを使って電波を飛ばす。

 受信側は『コヒーラ』(=接触する)というものを使う。

 詳細はここでは省略するが、これはかつて地球でマルコーニが無線通信を実現した時のものとよく似ていた。


(青木さん、自分で発明したのか、それともマルコーニを知っていたのか……それはわからないな)


 ゴローは感心すると共に、青木氏にも興味を惹かれたのだった。


「ですがこれでは、せいぜい部屋の端から端までくらいしか届かないんですよ」


 しかも声が届くわけではなく、送信側のスイッチのオンオフが伝わるだけだとアーレンは言った。


「難しいもんだねえ」


 ハカセは考え込んでしまったが、ゴローは別のことに驚いていた。


「青木さん……電池の代わりに巨大なキャパシタを使っているんですねえ」


 キャパシタとは、少し前まではコンデンサとも呼ばれていた(今も一部では呼ばれている)。

 電気を蓄え放電できる蓄電装置のことだ。

 電気を電気のまま蓄えられるのが最大の特徴である(一般的な電池は化学エネルギーに変換して蓄えている)。


「そうか、キャパシタなら雷魔法で充電できるんだ……」


 正に目から鱗の利用法であった。

 巨大なキャパシタを作り、そこに充電された電気を利用する方法なら、『(トニトゥルス)(サギタ)』のような雷属性魔法を使って電気エネルギーを利用可能である。


*   *   *


 とはいえ、今は『無線通信』の実用化が先である。


「うーん、魔力に置き換えてなんとかできないかねえ……」


 ハカセは考え続けていた。

 青木氏はあくまでも『電気』を使っての通信にこだわっていたようだが、ハカセにはそんな縛りはない。

 この世界における電気エネルギーの利用という方向性は一旦置いておいて、ゴローはハカセと共に考えることにした。


「ハカセ、光属性魔法で色を変えられますか?」

「うん? 赤とか青とかに、かい? ……できるよ」

「それじゃあ、赤をもっと極端に、ってできますか?」

「どういう意味だい?」

「えっと、光というのは『電磁波』の一種で、波としての性質を持っていまして……」


 ゴローは簡単に可視光、赤外線、電波について説明した。


「なるほどねえ、その『波長』? もしくは『周波数』? を変えれば『光』が『電波』になるんだね」

「そうなんですが、受信側が問題ですね」


 波長を変えた光属性魔法で発信はなんとかできそうだったが、受信が問題である。

 さすがの『謎知識』も、魔法がある世界での受信機について適切なアドバイスはしてくれなかった。


「……待ちなよ」


 何やらハカセは思いついたようだ。


「念話って……どうやっているんだろうねえ」

「あ」


 ゴローとサナは『念話』を使い、10キル(km)くらいの距離であれば脳内で会話が可能だ。

 この原理を解明し、装置化できれば、魔法世界での通信機ができるのではないか、とハカセは希望を持ったのであった。


 そこで、アーレン・ブルーにも考えてもらうべく、『念話』について説明するハカセ。


「へえ、『念話』っていう魔法があるんですね!」


 興味津々なアーレン・ブルー。


 魔法通信機の開発は始まったばかりである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月25日(日)14:00の予定です。


 20210813 修正

(誤)それともマルコーニを知っていのか……それはわからないな)

(正)それともマルコーニを知っていたのか……それはわからないな)

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法がある世界だと、下手すると装置作るより先に、脳内会話が開発されるからなぁ まぁ世界によって魔法も違うから、一概には言えないけど ジ「モールス的なもんだと、専門職になっちゃうんだよな」軍…
[一言] >「だって、今夜帰って、明日の夜戻ってくるのも面倒くさいしねえ。それなら残って研究しているよ」 つーか帰るもなにも、ハカセんちってこっちだよね? ハ「ゴローとサナが居るところがあたしの家だよ…
[一言] 科学と魔法 どちらからアプローチするのが近道になるんでしょうねー
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