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08-04 新魔法

 ゴローたち『モノづくりチーム』が研究所にやって来て3日目。

 2、3泊と言って出てきたので、とりあえず今夜には帰らないといけない。

 そうしないとティルダたち留守番組が心配するだろうから。

 特にラーナの心労が想像できるので、ゴローは、


「とにかく今夜、一旦帰りますよ」


 とハカセに宣言したのであった。


「そうだねえ、一旦帰って、また来ればいいんだからねえ」


 ハカセも、アーレン・ブルーの事情を知っているだけに、渋々ながらも同意したのである。


(これは、できるだけ早く『通信』とかの遠距離連絡方法を作らないといけないな)


 『謎知識』にささやかれて、ひっそり決意したゴローなのであった。


*   *   *


「さて、それじゃあ『魔導ロケットエンジン』の制御方法について見直すとしようかね」


 昨日、ゴローが起動したらいきなりすっ飛んでいってしまった現象は、まだはっきりと解明されていない。


「あれって、1つにはロケットエンジンの動作原理に問題があるんじゃないかねえ」

「確かに……」


 ゴローも同意する。


「使っている魔法は、風属性の……」

「『強風(フルトゥーナ)』だね」

「やっぱり、それですね」

「……みたいだね」


 『強風(フルトゥーナ)』は文字どおり『強風』を起こす魔法である。その性質上、『微風』は起こせないのだ。

 つまり、最弱でもかなり強い風が生じる。

 そのため、起動するといきなり強い推進力が生まれ、すっとんだ……と、ハカセとゴローは分析したのである。


「だとしたら、より適正な魔法を使えばいいですね」


 アーレンが言うが、事はそう簡単ではない。


「うーん……そんな都合のいい魔法は思いつかないよ」


 こういうことである。


 風力0が停止だとして、『強風(フルトゥーナ)』の場合最弱でも風力5くらいからスタートすることになる。

 もっと弱い風魔法『(ヴェント)』なら微風からスタートできるが、今度は最大風力でも2くらいまでしか出せない。それでは速度が上がらないわけだ。

 となると2つを組み合わせて……という手が考えられるが、それでも風力2と5の間にギャップができ、滑らかな加速は得られないということになる。


「悩ましいねえ」

「ですねえ……」

「うーん……」


 ハカセ、ゴロー、アーレンらは唸りながら考え込んだ。

 そこへサナがやってくる。


「考え方を変えたら、どう?」

「考え方を?」

「うん。魔法を使わずに、推進力を弱める方法って、ないの?」

「なるほど、そっちから考えてみるのも手だねえ……」

「……まてよ? ……ああっ!」


 ゴローが大声を上げ、ハカセとアーレンはびっくりしてゴローの方を見る。


「ゴロー、何か思いついたのかい?」

「はい。ノズルです!」

「ノズル? 噴射口のことかい?」

「はい。噴射口の径を可変式にするんですよ」

「……ああ、そうか。ゴローさん、冴えてますね!」

「なるほどねえ。やっぱり頼りになるねえ」

「いやあ、サナのヒントのおかげですよ」


 ロケットエンジン……というよりも、噴射式推進機全般にいえることであるが、同じ圧力で比較した場合、噴射口……ノズルの径が細いほど噴射速度は上がり、逆に太いと噴射速度は下がる。

 ゴムホースで水撒きをする際、ホースの先に指を当てて開口部を小さくすると遠くまで水が飛ぶのと同じである。


「噴射口の径を可変式にするんですね。……うーん、どうやろうかなあ」


 アーレン・ブルーはさっそく可変式ノズルの構造を考え始めた。

 ハカセとゴローも一緒になって考える。

 簡単なようで意外と難しい。

 ロケットエンジンの高い内圧に耐える構造でなければならないからだ。


「一番簡単なのは『スライドする蓋』ですね」

「うん、でもそれだと噴射口が丸くならないよねえ」

「なら、スライド部分の枚数を増やせば、円に近くできますよ」

「ゴロー、もっと詳しく」


 ゴローが提唱したのはわかりやすく言うと『カメラの絞り』である。

 6枚前後の『羽』を六角形に組み合わせ、羽の角度を制御すれば、六角形の面積が変わるわけである。


「なるほどねえ。第1候補にしておこう」

「袋の口を絞るようにできないものですかね……」

「アーレンの言うようなことは、魔法でできるかもしれないけどね、精密な制御はちょっと無理だねえ」

「そうですか……」


「魔法なんだけど」


 サナが口を開いた。


「ロケットって、エンジンの中に魔法で風を起こして、それを噴射し、反動で飛ぶ、でいい?」

「ああ、だいたいそんなところだ」

「実物は、どうなの?」

「実物?」

「うん。オリジナルのロケット。ゴローの『謎知識』ではどうなの、かな?」

「ええとな、燃料を燃焼させて燃焼ガスを膨張させているな」

「それって、魔法で再現できないの?」

「難しいかな……」


 ある意味『爆発』と言ってもいい勢いでの燃焼である。

 その場合、エンジンの強度や耐熱性も考慮する必要がでてくるわけで、実用化が遠のくだろうと思われた。


「じゃあ、『(ヴェント)』の見直しは? ハカセ」


 『(ヴェント)』なら、微風から強風一歩手前くらいまで調整可能なのである。


「うーん……なるほどね。『(ヴェント)』で起こす風の強さに上限があるわけは…………ああ、そうか、そうだったんだねえ!」

「ハカセ?」

「ありがとうよ、サナ。サナのおかげでなんとかなりそうだ」

「だったら、嬉しい」


 ハカセは紙に何やら魔法式を書き殴り始めた。


「うーん……ここの式は……ええと、構成がこうだから……ここをこうして……こうじゃなくてこうしたら……ああもう、難しいねえっ!」


 などと呟きながら10枚ほどの紙を無駄にした後、


「できたあっ!!」


 と、ハカセは快哉かいさいを叫んだのだった。


「サナのおかげで改良ができたよ。『(ヴェントゥス)』とでも名付けるかねえ」

「ハカセ、説明」

「わかってるよ」


 ハカセの説明によると、『(ヴェント)』で発生できる風の強さに上限があったのは、術者を守るためのリミッターだったようだ。

 通常の魔法は、オド(内魔素)そそげば注ぐほど強力になる。

 が、普通の人間はオド(内魔素)を使いすぎると頭痛を起こしたり、気絶するなどの欠乏症状が現れる。

 『(ヴェント)』はレベル1の魔法なので、それを防ぐための安全措置が魔法の構成要素に入っていたのだという。


「それを取っ払ったから、『(ヴェント)』でも『強風(フルトゥーナ)』並みの強風を起こせるよ」

「さすがハカセ!」

「凄いです、ハカセ!」


 そういうわけで、試作の魔導ロケットエンジンは、全てこの『(ヴェントゥス)』に書き換えられたのである。


*   *   *


「それじゃあ、今回の締めくくりとして、この『魔導ロケットエンジン改』を取り付け、主翼の強度を増やして、もう一度試作機を飛ばしてみよう」

「はい、ハカセ」


 昼食後、皆で頑張ったおかげで、午後3時には研究所外で再び飛行テストと相成ったのである。


 テストパイロットは言わずとしれたゴロー。

 ゴローは今回も『強化(ホプリゾーン)』を自分に掛け、試験飛行に臨んだ。


「行きます。『起動』」


 試作機はゆっくりと浮き上がる。

 ゴローは前回同様、高度3メル()ほどで一旦停止。

 いよいよ魔導ロケットエンジンが起動される。


「行きます。魔導ロケットエンジン、『起動』」


 そしてゴローは、魔導ロケットエンジンを起動、ゆっくり(・・・・)と出力を上げていく……。

 こんどはいきなり飛び出すこともなく、機体はゆっくりと前に進み始めた。


「やった!」

「やったね!」


 アーレンとハカセはその様子を見て喝采かっさいした。


 そのままゴローは試作機改を徐々に加速させていった。

 その様子は、前回に比べ、遥かに安定したものであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は都合により7月22日(木)14:00の予定です。m(_ _)m


 20210715 修正

(誤)ゴローは今回も『強化(ホプリゾーン)』を自分に掛け、視線飛行に望んだ。

(正)ゴローは今回も『強化(ホプリゾーン)』を自分に掛け、試験飛行に望んだ。


 20211125 修正

(誤)ゴローは今回も『強化(ホプリゾーン)』を自分に掛け、試験飛行に望んだ。

(正)ゴローは今回も『強化(ホプリゾーン)』を自分に掛け、試験飛行に臨んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法でロケット作ろうとすると、こんな弊害があるんですねぇ ジンもマギジェット作る時に、公式書き換えてましたっけ ジ「そういや、魔法式を改良したり新造したりでも進歩が作れるな」 礼「そろそろ…
[一言] いわゆるベルヌーイの定理による圧力と流速の変化ですね
[一言] >>ラーナの心労 ハ「心労のあまり角が生えてるかも」 >>通信 自重・常識「この世界にも生きる場は無いのか・・・」 >>思いつかないよ とか言っているのに >>改良ができたよ だからなぁ…
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