01-10 マネキン
遅れました m(_ _)m
一方、サナはというと。
「うおっ!?」
「ねえねえおねえちゃん、つぎこれきてみて?」
ライナの着せ替え人形になっていた。
「女の子、恐るべし……」
ゴローの口から呟きが漏れた。
* * *
結局、ゴローとサナは春夏物1着、夏物1着を買った。
荷物がまた増えたが、2人の力なら全く問題はない。
「……で、あんたは何やってんだい?」
ライナの祖母、ディアラがゴローに尋ねた。
ゴローは店の裏に積まれていた薪を運んできて、例のナイフで削っていたのである。
削る対象が木なので、特に違和感なくサクサク削れている。
「マネキンを作ってます」
「まねきん? ってなんだい?」
「まあ、見ててくださいよ」
「ふうん、いいけどね……」
そしてライナは、サナを連れて町中のお散歩に出掛けている。どうやらまだこのジメハーストの町を出ることはなさそうだ。
* * *
「一丁上がり、です」
「へえ?」
ゴローが作り上げたのは、関節が稼働するマネキン人形。構想的には『ポーズ人形』に近いだろうか。
関節部はゴム紐で引っ張って止めている。そう、ちゃんとゴムは存在している。下着のウエストなどに使われているようだ。
「これをどうするんだい?」
「服を着せて立てておくんですよ。つまり、『こういう組み合わせの服を選んだらどうでしょう?』という見本ですかね」
「ははあ、なるほどね」
服を着せるために関節を可動にしたのである。
実際には腕や脚を取り外せるようにしていけばよかったのだが、なんとなく拘ったのだ。
「服の組み合わせによって、多少ポーズも変えるんですよ」
スポーティーな格好なら、走り出そうとしているようなポーズ。
落ち着いた格好なら、ポケットに手を入れ、少し腰をひねったような……と、ゴローは説明していった。
直立不動のマネキンにはない利点がある。
「なるほどねえ。いいかもしれないね」
「ということで、あと3体くらい作っちゃいますから」
ゴローは再び木を削り始めたのである。
* * *
結局、午前中でゴローは男性型マネキン2体、女性型を2体作ってしまった。
(自動人形作りを手伝った経験が生きたな)
とゴローは思っているが、実際は彼の前世の経験と知識によるところが大きいようだ。
「おお、こりゃいいね」
4体のマネキンに、服を着せてみるとなかなか格好よかった。
「これを店の外近く、よく見えるところに立てておきましょう」
足の裏には穴を空けてあり、土台に打ち込んだダボ(木材同士の接合の際、ずれないため、また強度を増すために使われる部材。多くは円柱状の木製)にはめ込むことで自立する。
土台は薪と同じ場所に転がっていた切り株だ。
それを置いた頃、ライナとサナが帰ってきた。なぜかライナはサナに肩車されている。
「ただいまー、おばあちゃん」
「……ただいま」
「ああ、お帰り。サナちゃん、孫の面倒見てくれてありがとうね」
「いえ」
そしてディアラはライナの口の周りに汚れが付いているのに気が付いた。
「……ライナ、何か買ってもらったね?」
そう言いながらライナの口元を指先で拭う。
「ははあ、焼き鳥食べたんだね」
汚れは焼き鳥のタレであった。
「う、うん」
「サナちゃん、散財させちゃって、ごめんねえ」
「いえ、美味しかったですから」
その答えを聞いてゴローは、サナも焼き鳥を食べたな、と察した。それもおそらく、何本も。
お昼は焼いたパンだった。硬いパンが乾燥してさらに硬くなっているので、焼くことで食べやすくなるのだ。
ここでゴローは、荷物から砂糖蜜を取り出した。単に砂糖を煮詰めてドロドロにしたものだ。
「これを掛けて食べると美味しいぞ」
「……ふわぁっ! あまい! おいしい!! おにいちゃん、ありがとう!!!」
「どういたしまして」
ライナちゃんはもの凄く喜んでくれた。
「こりゃ美味しいね。いいのかい? 砂糖は高いだろうに」
ディアラさんもちょっとだけ付けて食べている。
「いえいえ、お世話になったお礼ですよ」
「お礼なら『まねきん』を作ってくれただろうに」
「あれはこちらにあった材料で作っただけですし」
そしてサナはと見れば、パンから垂れそうなくらいに砂糖蜜を掛けてただ黙々と食べていた。
* * *
「……で、この板に足を付ければ衝立に使えますし」
午後。
ゴローは『試着室』を作っていた。
「おにいちゃん、きようだね」
「うん。ゴロー、がんばれ」
なぜかサナはライナと一緒に見物している……。
一応2人分の試着室ならぬ試着スペースをこしらえたゴロー。
「姿見があるとなおいいんですけどね」
「すがたみ?」
ディアラが聞き返した。
「あ、ええと、全身が映せる鏡です。そうすれば、自分で似合っているかどうか判断できるでしょう?」
「はあ、なるほどね。そうすると最低でも150セルくらいないとだめだねえ」
「あ、いえ、全身映すだけなら、身長の半分あれば大丈夫ですよ」
「へえ? そうなのかい?」
「そういうもの、と思っていてください。実物を見てもらえば納得するでしょうから」
(光学的に説明するのは難しい……って、またこれか……)
「そのくらいの鏡なら、買ってきてもいいかもねえ」
「あ、じゃああたし、いってくる! サナおねえちゃん、いこう!」
〈サナ、頼むよ〉
ゴローは密かに念話でサナに頼んだ。
「……はい」
「あ、じゃあサナちゃん、これお金ね」
ディアラはサナに銀貨を5枚、つまり5000シクロを預けた。
「はい、預かりました」
そういうわけで、サナとライナは再び買い物をしに出ていった。
* * *
「……ゴロー、あんたは何者なんだい?」
サナとライナが出掛けた後、ディアラが真剣な顔でゴローに尋ねた。
「何者って……行商人見習いですが」
「行商人見習いがそんな博識なのかい?」
「ええと、物を売るには広い知識が要求されるもので……」
「それにしたって限度というものがあるさ。ちょっと一緒にいただけだけどわかるよ。あんたの知識は学生……いや、学者並みだよ」
「そ、それがわかるディアラさんだって凄いじゃないですか!」
自分だけじゃない、というつもりだったのだが、
「あたしは昔学生やってたからねえ」
というセリフが飛び出した。
「ええ?」
「だからなんとなくわかるよ。ゴロー君、あんたはちょっと変わっているけど、学者並みの知識を持っているみたいだ、ってね」
「そ、そうですか」
ゴローは、このディアラという人物は見かけによらず聡明で鋭い勘をしている、ただ者じゃなさそうだ、と再評価したのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月30日(火)14:00の予定です。
20190728 修正
(誤)削る対称が木なので、特に違和感なくサクサク削れている。
(正)削る対象が木なので、特に違和感なくサクサク削れている。
20230904 修正
(誤)「……で、この板の足を付ければ衝立に使えますし」
(正)「……で、この板に足を付ければ衝立に使えますし」




