07-20 試作2号車改
遅れました m(_ _ )m
『試作2号車』が完成した翌日。
「量産試作を作ろうと思います」
とアーレン・ブルーが言い出した。
量産試作は、機能試作と量産機との中間に存在する。
試作機を量産化するには、構造の簡略化や一部部品の共通化などを行って生産性を上げ、コストを下げる必要があるのだが、量産試作はそのための検討用というわけだ。
「ああ、いいんじゃないかねえ」
少しだけ気の抜けた声でハカセが応じた。
ハカセにしてみれば、『量産品』はそれほど開発欲をくすぐらないのである。
とはいえ、世話になった『ブルー工房』に利益を上げさせなければならないことも承知しているので、断るようなことはしない。
また、この後も何か別の機械の開発の協力を頼むだろうことはわかりきっているので、どのみち断るという選択肢はないのだ。
「さあて、検討に入ろうかね」
『試作2号機』はひたすら性能を追求した面もあるので、一般向けとしてみたらオーバースペックな部分もある。
また、少々使いづらい点もあったりするので、そういったところを改善していくわけだ。
「フレームはもう少し軽く作れそうだね」
「そうですね。今の4分の3くらいでいけるんじゃないでしょうか」
「この部分の断面をH型にして強度を上げ、ここは肉抜きしましょう」
「ほうほう、なるほどね」
「シートはこう、少し座りがいいように真ん中を凹ませて……」
「ふんふん、身体の位置が決まれば、ペダル類との位置関係も決まるしね」
「あ、それじゃあ、多少シートの位置を調整できるようにしましょう」
「確かに、いろんな体格の人間がいるからねえ」
「エンジンはこのままでいいでしょう」
「むしろもう少し力が欲しい気がするけどね」
「それだと『オド』の消費量が増えてしまいます」
「ああ、それもそうか」
「ボディは多少、角を取るようにしましょう」
「あまりごついのも一般受けしないかねえ」
『試作2号機』はいわゆるフォードT型に近いデザインである。
これは主にボディ……板金の加工技術による。
今の技術では、3次元的なプレス整形は量産には不向きなのだ。
せいぜいがビード加工……『紐状』の凹凸を付ける……くらいである。
であるから、曲面を多用したボディなど作れるはずもない。
「方向指示器も付けましょう」
「曲がる方向を示すんだね。面白いねえ。『謎知識』様々だね」
点滅式のウインカーではなく、最初期のクラシックカーで採用された、腕木が横に飛び出すタイプである。
「クラクション……警笛も付けましょうか」
「ああ、どいてもらうんだね」
……と、こんなやり取りをし、『量産試作』の仕様が決まった。
「これは、工房の職人に作らせましょう」
アーレン・ブルーはそう言った。
『ブルー工房』はこの王都でも一、二を争う大工房である。働く職人も20人を超える。
まあ、逆にいえばだからこそ工房主のアーレン・ブルーが自分の研究に没頭していられるわけだが。
そして、だからこそ『自動車』をブルー工房のオリジナル製品とし、これからも問題なく研究に没頭できる環境づくりが不可欠なのである。
「研究がこうして儲け話に繋がるなら、他の職人たちも文句を言えないだろうしな」
そして誰よりも秘書のラーナにも納得してもらいたかったのだ。
* * *
アーレン・ブルーが職人たちに量産試作の説明をしている間、ゴローとハカセはさらなる改良を検討していた。
こちらは量産とは正反対の方向性。
いわば一品生産で性能を極める方向性だ。
今は、量産試作の検討で出てきた改良点……シート形状の変更やウインカー、クラクションなどの追加を行っている。
「試作機が量産機に負けるのって、なんとなく嫌ですから」
「うむ、わかるよ、ゴロー。ついでにエンジンの出力もアップさせようか」
「あ、それでしたらブレーキももう少し強力にしましょう」
「そうだねえ。フレームも肉抜きできるところは行って、軽量化を目指そうか」
「それでしたらタイヤのホイールをアルミ合金にしましょうか」
「アルミ……ああ、あれかい。いいねえ」
今彼らがいる工房……『第3工房』にあるものは何でも使っていいとアーレン・ブルーから許可をもらっているのである。
ハカセとゴローは『試作2号機』に大きく手を加え、『試作2号機改』にマイナーバージョンアップしていくのであった。
* * *
「ゴローさん、ハカセさん、お待たせしました……って、これ!?」
アーレンが職人たちへの指示を出し終えて戻ってきて、変わり果てた(?)『試作2号車改』を見てびっくり仰天。
「……なんで僕が戻るまで待っていてくれなかったんですかああああああ!」
「あー、なんかごめん」
「いや、退屈だったからねえ、つい」
「……改造なら僕も参加したかった……」
「ごめん」
「はあ、もういいですよ。……でも、随分と改良しましたね」
『試作2号車改』をしげしげと眺めて、アーレンは感心するように呟いた。
「まあねえ。これでしばらく運用して、不具合があったら修正していきたいねえ」
「それ、いいですね。あ、『量産試作』の結果も反映させましょう」
「うんうん、いいねいいね。……で、そっちはいつ頃完成するんだい?」
「今手空きの職人が6人いたので、3人ずつで2台作らせてます。だいたい明後日には完成するかと」
「思ったより早いね」
「ええ、まあ。こうして1台作り上げましたから、僕としても指導は楽ですよ」
「それもそうか」
ハカセとアーレンの会話を聞きながら、ゴローの謎知識は、『2日で自動車を作れてしまうこの世界の職人凄い』と囁いていたりする。
「あと、ゴローさん、自動車について何か案はありますか?」
「案……というと?」
「いえ、これって一般的な馬車の代わりでしょう? 荷馬車の代わりになるものを作ったらどうか、と思っているんですよ」
「なるほど」
軽トラ、あるいは2トントラックくらいなら作れるかな、とゴローの『謎知識』は回答を用意してくれる。
それに加え、
「馬の代わりに馬車を引っ張る、牽引専用の自動車というのもいいかもしれない」
要するにトレーラーのイメージをこの世界に合わせたわけである。
「牽引用! それもいいですね」
「多分、重さを重くしないと力があっても引っ張れないと思う。それだけ気をつければいいんじゃないかな」
「なるほど、重さですか」
それはエンジンを大きくしたり、『魔力充填装置』を2基積むなどで対処できそうです、とアーレン・ブルーは言った。
「いいねえ。……これが増えてきたら、街道を行き来する乗合馬車……じゃなく乗合自動車も欲しくなるねえ」
「その場合は大型の自動車を作るんでしょうね。20人乗りくらいの」
「街道沿いに、いざというときの『魔力充填装置』を備えた休憩所があるといいですね」
「うんうん、夢が広がるねえ」
「とにかく、この『量産試作』ができたら、王家に報告しようと思います」
「まあそうなるか。……一つだけ言っとく。あたしゃ王家と関わるのはゴメンだからね。自動車はアーレンとゴローが開発したことにしといておくれ」
ハカセは心底嫌そうな顔をした。
「……いいんですか? 自動車の開発者としての名誉は……」
「全く構わないよ。あたしゃ名誉なんていらないからねえ。好きなものを好きなように研究していられたらそれでいいのさね」
いかにもハカセらしいな、と思ったゴローであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月29日(木)14:00の予定です。
20210425 修正
(誤)『謎知識様々だね』
(正)『謎知識』様々だね
(誤)『試作2号機改』にマーナーバージョンアップしていくのであった。
(正)『試作2号機改』にマイナーバージョンアップしていくのであった。
(誤)あたしゃお受けと関わるのはゴメンだからね。
(正)あたしゃ王家と関わるのはゴメンだからね。