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07-13 アオキ

「さあゴロー、その車を見せてもらおうじゃないか!」

「あ、はい、どうぞ」


 ゴローは乗ってきた『足漕ぎ自動車』をハカセに明け渡した。

 ハカセはまず外見から、そして運転席を見、果ては車の下に潜り込んで解析していった。

 そして。


「いやあ、なかなか興味深い構造だったねえ」


 顔と服を油で汚しながら、ハカセは車の下から這い出てきた。


「ハカセ、顔を拭いて……いや、洗ってください」

「ん? まだいいよ。それよりゴロー、これってあんたの発想かい?」

「ええと、大半は」

「ふんふん、そうかいそうかい。なかなか面白いものを作ったものだねえ。……これに『エンジン』を付ければ、足で漕がなくてもよくなるんじゃないかねえ?」

「そう思います。でも、こいつを開発した当時は『エンジン』なんて影も形もなかったんです」

「まあそうだろうねえ。……で、『エンジン』を付けないのかい?」

「いや、付けてもいいんですが」


 言い淀むゴローを見て、ハカセは、何か理由があるのだろうと察する。


「こいつは『ブルー工房』のアーレン・ブルーとの共同開発なので……」

「ああ、なるほど。ゴローの気持ちはわかったよ」

「それに、こっちには今のところ『エンジン』を作れるだけの材料がないんですよ」

「ああ、それもそうか」


 ハカセは納得してくれたようだ。


「じゃあその『ブルー工房』へ行ってみようかい」

「え?」

「確かそこは『アオキ』が作った工房なんだろう?」

「そうです」

「じゃあ、なおさら行ってみたいねえ。あいつがどんな工房を遺したのか知りたいしねえ」

「……わかりました。その前にお昼にしましょう」

「ああ、もうそんな時間だったかね」


*   *   *


 お昼はサナのリクエストでホットケーキ。もちろんハチミツをたっぷり掛けて、だ。


「ああ、甘くて美味しいねえ。……『木の精(ドリュアス)』がピクシーを使って花の蜜を集めてくれているんだって? いいねいいね」

「ハカセ、メープルシロップも美味しい」

「うん、確かにね。どっちも美味しいねえ」

「私はジャムも好きなのです」


 賑やかな昼食であった。


「……ところで」


 昼食後、お茶を飲みながらハカセが口を開いた。


「そこで給仕をしてくれている彼は、どういう人なんだい?」


 ルナールのことである。


「あれ? 説明しませんでしたっけ?」

「覚えてないねえ」

「そうですか……」


 多分、説明を右から左に聞き流したんだろうな……と思いつつ、ゴローはルナールのことをハカセに説明した。


「なるほど、『犯した罪の清算』をするために『ジャンガル王国』から出向して修業しているわけかい」

「そういうことです。『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーは教育係としても優秀なので」

「みたいだねえ」


 時々姿を現しては世話を焼いてくれるマリーに、私生活はズボラなハカセはすっかり感心してしまっていたのであった。


「さて、それじゃあ『ブルー工房』へ行こうかね」

「わかりました」

「さあ行こう、ゴロー!」


 あっという間に『足漕ぎ自動車』のシートに座ったハカセはゴローを急かすのだった……。


*   *   *


「ふむ、速度調整と緊急停止、それに運搬能力が重要だね」


 『ブルー工房』までの道中、ハカセは『足漕ぎ自動車』の解析を行い、独自の結論を出していた。


 そして辿り着いた『ブルー工房』。


「おほう、ここがそうかね。……ああ、あいつのサインも書かれてるよ」


 看板を見て懐かしそうに呟くハカセ。サイン、というのは『青木』という漢字部分のようだ。

 主だった作品には、そうしたサインを入れていたのだという。


「あ、ゴローさん、いらっしゃい。……ええと、その人は?」

「この人は……」

「あたしはリリシア・ダングローブ・エリーセン・ゴブロス。アオキの古い知り合いさね」

「え、えええええええええ!!!」


 工房玄関にアーレンの絶叫が響き渡った。


*   *   *


「……取り乱してしまいました」


 通された応接室で、アーレン・ブルーは頭を下げた。


「気にしなくていいよ。ちょっとびっくりしたけどね」


 それ以上にアーレンが驚いたであろうことは、想像にかたくない。


「ええと、それで、その、あなたは、初代様のお知り合いなんですか?」

「そうだよ。知り合いというか、友人でライバル……かねえ」

「そ、そうなんですか」

「……ほら、あたしはエルフとドワーフの血を引いてるからさ、長生きなんだよね。今年で……358歳かな」

「うわあ……。初代様のご友人……ああ、お会いできて光栄です!」


 舞い上がるアーレン・ブルーを、ハカセはたしなめる。


「まあ、話が進まないから、そういった話題はまた別の機会にしようじゃないかね」

「あ、はい」

「……で、ゴローからちょっと聞いたけど、『力強く回る魔導具』はできたのかい?」


 以前、初めてゴローが『ブルー工房』を訪れた際にアーレンが悩んでいた内容だ。

 それについてゴローは『大きな水車』というようなヒントを出していたのだった。


「あ、い、いえ、考えているところですが」

「結局まだ実用化していないということだね?」

「う……そうなんですが」


 項垂うなだれるアーレン・ブルーであった。

 そこにハカセが追加の質問を行う。


「ねえ、アーレンと言ったね。アーレン、そういう魔導具を作ったとして、魔力の補給はどうするつもりだい?」


 目下のところ、これがハカセにとっても解決すべき問題なのである。

 今の段階ではゴローやサナの『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』に頼らざるを得ないのだ。


 だが、それは思わぬ解決を見ることになる。


「ああ、それは『魔力庫(マギタンク)』を使うことでなんとかなります」

「それって、『蓄魔石』みたいなものですか?」


 ゴローからの質問だ。

 『蓄魔石』は『マナ(外魔素)』を蓄えておける人造石で、ジャンガル王国に送り込まれた巨大ゴーレムの動力源だった。


「あ、『蓄魔石』をご存知ですか? いえ、あれよりももっと効率のよい動力源です」

「へえ?」

「2代目ブルーが開発したものです。『蓄魔石』の5倍くらい効率はいいですよ」

「そりゃ素晴らしい」


 あのゴーレムの『蓄魔石』は人間の頭くらいあったな、とゴローは思い出した。


「もしかして『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』かい?」

「あ、いえいえ、そんな伝説上の石じゃないです」


 だが、詳しく聞いてみると、2代目ブルーが目指していたのは『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』だったようだ。

 その劣化版、あるいは失敗作が『魔力庫(マギタンク)』らしい。


「かなり高くついちゃうんですけどね」


 そう言ってアーレン・ブルーは自嘲の笑いを浮かべるが、ゴローとハカセはそうではなかった。

 高いとはいっても『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』を作るよりはマシなレベルらしい。


「ふうん……それじゃあさ、その『魔力庫(マギタンク)』を見せてくれるかい?」

「ええ、いいですよ。一般の方には普通はお見せしないんですが、初代のご友人でしたら問題ありません」


 そう言ってアーレン・ブルーは一旦部屋を出て、数分後に戻ってきた。

 何やら短い茶筒のようなものを持って……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月4日(日)14:00の予定です。


 20210401 修正

(旧)「かなり高いものについちゃうんですけどね」

(新)「かなり高くついちゃうんですけどね」


 20210404 修正

(誤)そう言ってアーレン・ブルーは一旦部屋を出て、数分度に戻ってきた。

(正)そう言ってアーレン・ブルーは一旦部屋を出て、数分後に戻ってきた。


 20211107 修正

(誤)「なるほど、『犯した罪の精算』をするために『ジャンガル王国』から出向して修業しているわけかい」

(正)「なるほど、『犯した罪の清算』をするために『ジャンガル王国』から出向して修業しているわけかい」


 20220702 修正

(誤)その劣化版、あるいは失敗作が『蓄魔石』らしい。

(正)その劣化版、あるいは失敗作が『魔力庫(マギタンク)』らしい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >そう言ってアーレン・ブルーは一旦部屋を出て、数分度に戻ってきた。 数分度(ごと)にでも読めるけど、本当にそう書きたかったのかな? 数分後に戻ってきたでは? 数分度なら出入りを繰り返…
[気になる点] アオキさんホイホイ信じすぎじゃない?ゴローとの信頼関係もあるんだろうけどいい人過ぎる( ˘ω˘ ) [一言] ↓自分もこの感想見るまで茶封筒だと思ってた。
[気になる点]  茶筒が茶封筒に見えてしまった。
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