07-11 帰宅
ゴロー、サナ、ハカセを乗せた『レイブン』は、屋敷上空へ移動。ゆっくりと降下に入る。
道中は真っ暗だったが、王都は僅かながら街灯や家々の窓の明かりもあるので、多少操縦が楽だった。
「大丈夫だとは思うけど……」
「なにか心配なのかい?」
「ええ。『屋敷妖精』のマリーは屋敷全体に結界を張って、侵入者を防いでくれているんです」
「そりゃ凄いねえ」
と、その時、ゴローの目の前にマリーが現れ、ゴローにしがみついた。
「ゴロー様! サナ様! ご無事だったんですね!!」
「あ、ああ。悪かったな、帰りが遅くなって」
「いえ、帰ってきてくださっただけで、今は……」
「そうか」
ゴローはそのまま『レイブン』を中庭に着陸させた。
すぐにティルダが駆け寄ってくる。ルナールも庭に出てきていた。
そして……。
「サナちん、酷いじゃないの!」
『木の精』のフロロも、サナに飛びついてきた。
「ごめんね」
そこにハカセが言葉を挟む。
「あー、済まないねえ。ゴローとサナの帰りが遅くなったのはあたしのせいでもあるんだよ」
「……誰?」
「あんたは?」
「あたしはリリシア・ダングローブ・エリーセン・ゴブロス。ゴローとサナの親みたいなものさね」
「ええとマリー、ハカセはこう言っているけど、居残ったのは俺の意思だからな? 決して強制されたわけじゃないから」
「うん、フロロ、そういうこと、だから」
マリーはその辺を心得ており、きちんとハカセに挨拶をした。
「わかっております。……リリシア・ダングローブ・エリーセン・ゴブロス様、ようこそいらっしゃいました」
「あ、ああ。マリー、だっけ? よろしく頼むよ。それからあたしのことは『ハカセ』って呼んでおくれ」
「わかりました、ハカセ」
そしてフロロもまた、渋々ながら挨拶をする。
「……フロロよ。サナの親、なら歓迎するわ」
「ありがとうねえ、フロロちゃん」
ティルダはティルダで、ゴローとサナ2人に抱きついて泣いていた。
「おかえりなさい、なのです……心配、したのですよ……」
「ごめん、ティルダ」
「ごめんね」
ゴローはティルダの頭を撫で、サナは背中をさすった。
そして皆が落ち着いた頃、居残り組最後の1人、ルナールが口を開く。
「ゴロー様、サナ様、お帰りなさいませ。そして『ハカセ』、ようこそいらっしゃいました」
仕草も様になっており、マリーの教育が実を結んだことが見て取れた。
そしてティルダは、ゴローたちが乗ってきた『レイブン』に興味を惹かれた。
「ゴローさん、もしかして、空から降りてきたんです?」
マリーに教えられ、外に飛び出してきたときには、『レイブン』は着陸寸前だったのだ。
「ああ、そうだよ」
「え……やっぱり? いったいどうやって……なのです?」
「あー……一旦中に入ろうか? いつまでも庭で話すってのもな……」
「そ、そうでした。中で聞かせてほしいのです」
* * *
そんなわけで、庭に出ていた全員が、居間に集まった。
ルナールが全員分のお茶を用意する。
それを見たゴローは、有能な使用人になったなあ、と感心したのである。
「さて、何から話すかな……」
お茶を一口飲み、まずゴローが口を開いた。
「えっと、俺とサナは北上してカーン村を目指した。それで……」
途中でのことを簡潔に説明するゴロー。
「で、テーブル台地にあるハカセの研究所を訪れたわけだ」
竹とんぼを見せたところ、空を飛ぶ『飛行機』を作りたくなって、『亜竜』を研究しようと生息地へ向かった、と話すと、ティルダは目を丸くして驚いていた。
「そして運よく、と言えばいいのか、亜竜同士で大喧嘩して、2頭分の素材を手に入れたんだ」
それからというもの、毎日『飛行機』の研究をしていたら雪の季節になり、動けなくなってしまい、こうして春になるまで帰ってこられなかった、とゴローは説明した。
「そうだったのですね。……心配だったので、3度も手紙を書いたのですよ」
「ああ、それは読んだ。ジメハーストのディアラさん宛に出したんだよな?」
「はいなのです。読んでくれたのですか?」
「ついこの前だけどな。その時、返事も書いたんだが、まだ読んでないのか?」
「ゴロー、手紙を届けてくれるのは、普通の人、だから」
「わかってるよ」
サナに言われて気がつくゴロー。
ゴローが出した返事が王都に届く前に、『レイブン』で帰ってきてしまったのだ。
おそらく明日か明後日には手紙が届くであろうと思われた。
「ええと、もっと話をしたいけど、ハカセも疲れているだろうから、続きはまた明日にしないか?」
「あ、はい、なのです。それでいいのですよ」
「仕方ないわね」
「お部屋は整え終えました」
フロロは渋々頷き、マリーは既に部屋掃除を済ませていた。
「それじゃあ……」
寝よう、とゴローが言い掛けたところに、サナが、
「……ハカセ、軽食くらい、食べたほうがいい」
と言い出した。
「うーん、そうかい? それじゃあ何か軽食を用意してもらおうかな……」
「はい、お任せください。……ルナール、厨房へ行きましょう」
「はい」
マリーの言葉に素直に頷いて、ルナールは厨房へと向かった。
そして、トレイに何かを山盛りに載せて戻ってきた。
「ラスクを作り置きしてあるんです」
とはマリーの説明。ルナールは無言を貫いている。
「おお、これは美味そうだ」
カリッと焼かれており、甘さも丁度いい。
サナは早速手を出し、カリカリと音を立てて食べていく。
ゴローも食べてみたが、なかなか美味しかった。
「ううん、これは美味しいねえ」
ハカセにも好評なようであった。
お茶を飲み、ラスクを食べている間に客間の準備がなされたようで、
「お客様、お部屋はこちらでございます」
「ああ、ありがとうねえ」
ハカセはルナールに案内され、客間へと向かう。
ゴローとサナもまた、睡眠を取るべく自室へと引き上げたのである。
* * *
ゴローとサナは、それそれの寝室で横になりながら『念話』で話をしていた。
〈ゴロー、明日は石を届けに行く?〉
〈そのつもりだ〉
〈なら、私も一緒に、行く〉
〈それは商会から帰ってきてからにしよう。サナはハカセに付いていてくれ〉
〈うん、それでいい。あと、何か素材を買ってこないと、ハカセが退屈しそう〉〈ああ、そうかもな〉
何もせずじっとしているというのが嫌いで苦手なハカセ。
幸い、ここ王都は物流が盛んなので、金額はともかく、欲しいものを見つけるのは楽そうだ、とゴローとサナは思ったのだった。
* * *
そして翌日。
「ああ、よく寝たよ。あの『畳』ってやつはいいねえ。気にいったよ」
「それはよかったですね。ジャンガル王国からもらったんですよ」
「ああ、そんなことを言っていたね。ジャンガル王国にもいずれ行きたいねえ」
「『レイブン』があれば、きっと行けますよ」
「そうだねえ」
その真っ黒な『レイブン』は屋敷の裏に移動させ、布を被せておくことにした。
いずれ格納庫を作るつもりだ。
そして朝食。
久しぶりに厨房に立ったゴローは、とっておきの『米』を使って『朝粥』を作った。
付け合せは焼いた塩ジャケ。
もちろん味噌汁も作った。具はシジミだ。
「ああ、これは美味しいねえ」
ハカセもお米と味噌汁の味を気に入ってくれたようで、嬉しく思うゴローであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は都合により3月31日(火)14:00の予定です。
20210325 修正
(誤)屋敷』上空へ移動
(正)屋敷上空へ移動
(誤)金額はともかく、欲しいものを見つけるのは楽そうだ、と仁と礼子は思ったのだった。
(正)金額はともかく、欲しいものを見つけるのは楽そうだ、とゴローとサナは思ったのだった。
ヽ(`Д´)ノ
20240825 修正
(旧)
〈なら、私も一緒に、行く〉
〈そうか、頼む〉
〈素材を買ってこないと、ハカセが退屈しそう〉
(新)
〈なら、私も一緒に、行く〉
〈それは商会から帰ってきてからにしよう。サナはハカセに付いていてくれ〉
〈うん、それでいい。あと、何か素材を買ってこないと、ハカセが退屈しそう〉