07-08 切実な問題
遅れました。すみません
どうにか『亜竜』の飛行原理を解明する、その糸口を掴んだハカセは、研究に没頭しようとして、ゴローに止められた。
「だめですよ、ハカセ。お昼ごはんはちゃんと食べてください」
「……わかったよ」
ゴローの言葉に渋々頷くハカセ。
「ゴロー、今日のお昼は何?」
「パンケーキだ」
「楽しみ」
「……あー……悪いけどサナの分はないぞ?」
「えっ」
この世の終わりのような顔をするサナ。
「ど、どう……して?」
「いや、もう食料が底を突きそうなんだよ」
こんなに長いこと滞在する予定がなかったため、買い込んでおいた食料がなくなってしまったのだ。
ゴロー、サナ、フランクは食べる必要がないので、残った食料は全部ハカセに回さなければならない。
「……わかった」
「わかってくれたか」
「買いに、行こう」
「いや、それはそうなんだが、もうちょっと雪が解けないと……な?」
「うう……」
雪解けの季節を迎えたとはいえ、所によっては2メル近い積雪がある。
ゴローとサナなら買い出しに行けないこともないだろうが、効率が悪すぎるのだ。
「食べなきゃいけないわけじゃないし、我慢してくれ」
「……何日くらい?」
「食材の在庫があと1週間分くらいだから、4日か5日後には買い出しに行かなきゃならない」
それまでには、今よりも雪解けが進むだろう、とゴローは言った。
そしてサナも、それで納得したのである。
「……仕方ない……」
だが、ここでハカセから助け船が出た。
「よし、そういうことなら飛行機を一刻も早く完成させようじゃないか。そうすれば積雪に関係なく買い出しに行けるよ」
「そ、それはそうですけど」
「なに、村の近くまで行ければ十分さね。だろう、ゴロー?」
「確かにそうです」
「よし、決まり! 今日のお昼は仕方ないけど、ゴロー、晩御飯はサナの分も作っておあげ。あたしは頑張って飛行機を作り上げるからさ」
「ハカセ、私も手伝う」
「もちろん俺も手伝いますよ」
「うんうん、サナ、そうしておくれ」
こういうわけで、食糧危機打破のため、一致団結して飛行機を完成させることになったのである。
* * *
「つまりは『反発力』だと思うんですよ」
「ふんふん、ゴローの言うことにも一理あるねえ」
昼食後、次の『試作4号機』を作るために、考えをまとめることにした。
「あたしは『足場』を作るイメージだったけど、『反発力』ねえ……」
「とにかく、その効果が及んでいるのは翼膜のすぐ下だけですよね」
「うん、それは確かだね」
飛んでいる『試作3号機』の真下にある雪が飛ばされていないことから、ハカセはそう結論した。
「とすると、浮遊力を上げるため、『複葉機』もできるでしょうか」
「『複葉機』?」
「ああ、こういう形です」
ゴローは簡単な絵を描いて見せた。
「なるほどなるほど、こういう形ねえ、うんうん、いいかも知れないねえ」
複葉機は、ほぼ同じ大きさの主翼が上下に配置されている形式である。
もしもこれがうまく行けば、理論上の積載量は倍になるわけだ。
「簡単な実証実験だけしてみようかねえ」
「はい」
ハカセは『試作3号機』に手を加えて実験を行うことにした。
浮き上がるだけでいいので、4つある『浮遊用円板』のうち対向する2つを外し、残る2つの上に、50セルほどの間隔を空けて平行に取り付ける。
「ゴロー、これでちょっと浮いてみておくれ」
「わかりました」
「安定が悪いと思うから、気を付けるんだよ」
「はい」
そしてゴローは操縦席に乗り込み、ゆっくりと『マナ』を『魔力変換器』に流し込んだ。
このあたりはもう慣れた感覚になっている。
そして『試作3号機』は浮き上がる……。
「どうだい? 何か変わった感じはするかい?」
もしも『2枚重ね』の効果がないなら、流し込む『マナ』は2倍必要になるはずだとハカセは考えていた。
そして、以前と同じなら……。
「ほぼ同じですね」
「そうかいそうかい! 大成功だね!!」
『複葉化』で積載量は倍にできるということだ。
つまり、機体が重くなっても飛べるということである。
また、『浮遊用円板』あるいは『浮遊用主翼』の面積が同じでも、二段重ねに配置することでよりコンパクトな機体にすることができるということになる。
この実験結果を踏まえて、『試作4号機』の設計を行うことになった。
* * *
「とりあえず、手持ちの金属素材は全部使って、丈夫な機体を作りましょう」
「そうだねえ。推進力はどうするね?」
「プロペラにしましょうよ」
「どうしてだい?」
「『浮く』方法と『進む』方法は分けて考えたほうがいろいろやりやすいと思うからです」
「なるほどね」
「それに、機体の強度を考えても」
「うんうん。ゴロー、あんたもなかなかいい技術者になってきたようだね」
ハカセは嬉しそうに笑った。
「『浮遊用円板』を可動式にして移動をする方式だと、どうしても接続部分が弱くなるから、重いものを持ち上げる時には不安があるからね」
「ですよね」
だが、この後……ハカセ、ゴロー、時々サナ……がいくら話し合っても、機体の全体像がどうしても見えてこないのである。
「ああ、イライラするねえ……。ゴールが見えているのに、なかなかそこへたどり着けない気分だよ」
さすがのハカセも苛立ちを隠せなかったようだ。
そんな時、サナが一言。
「……ハカセ、ゴールが2つあるから、じゃない?」
「え……?」
その言葉にハカセは一瞬きょとん、としたが、すぐに意味を悟った。
「あははは! そうだ、そうだよ。サナの言うとおりだねえ」
「……あ、そうか」
一拍遅れてゴローも気が付いた。
つまりは、こうである。
端的に言うと、『飛行機型』と『ドローン型』を両立させようとしていたので、なかなか結論を出せなかったのである。
速度重視が『飛行機型』、安定性と積載量重視が『ドローン型』と言っていいだろう。
開発途中なのにこの2つを満足する仕様を決めようとするから袋小路にはまり込むのだ、ということをサナの言葉でハカセは理解したのだった。
「まずは安定性と積載量重視だよ」
荷物を運べなければ意味がないわけであるし、研究所のあるテーブル台地から離着陸する必要もある。
また、速度を云々するなら、『試作2号機』系の飛行機でもいいわけだ。
この認識を持ってから、設計はトントン拍子に進んだのであった。
* * *
『浮遊用円板』の配置は『試作3号機』と同じにする。つまり前後左右だ。
『浮遊用円板』の大きさも同じ。ただし70セルほどの間隔を空けて上下に配置する。
これで、理論上は『試作3号機』の倍の積載量になるはずであった。
ただし、その分機体の補強を行うため、重量が増える。
『試作3号機』は全備重量が100キムほどであったが、『試作4号機』は150キムくらいになりそうである。
だが、ヘリコプターなどで言うところの『最大離陸重量』は500キムを超えると思われるので、機体重量と操縦者の体重などを引くと、積載量は250キムほどになりそうであった。
「うんうん、これならよさそうだね」
その夜から、ハカセは『試作4号機』の製作に取り掛かったのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月18日(木)14:00の予定です。
20210314 修正
(誤)50セルほどの感覚を空けて平行に取り付ける。
(正)50セルほどの間隔を空けて平行に取り付ける。
(誤)ただし70セルほどの感覚を空けて上下に配置する。
(正)ただし70セルほどの間隔を空けて上下に配置する。