07-03 動力飛行
一応、土属性魔法『発射』を使ったエンジン(?)の目処は立った。
だが、ハカセはあまり満足していない。
「あたしの勘なんだけどね、なんとなく効率が悪い気がするんだよ」
つまり、加えた魔力に対し、取り出している回転力が小さい気がしている、というのだ。
「勘……ですか」
職人の勘というものは馬鹿にできないことをゴローの『謎知識』は教えてくれている。
「それじゃあ、どうすればいいんでしょう?」
「うーん、まずはこのエンジン(?)の欠点を洗い出してみようかね。意見を言っておくれ」
「そうですね……『力が少しもの足りない』『耐久性に不安がある』でしょうかね」
「ほう? 力はそのとおりだけど、耐久性、っていうのはどうしてそう思ったんだい、ゴロー?」
「ええと、この回転部分のスポークです」
スポークの先に付いた重りに力を加えて回転させる方式なので、そのスポークに大きな力が掛かるわけだ。
回転を上げたり下げたりした際に、折れる可能性がある、とゴローは懸念事項を説明した。
「ふうん、確かにね。あたしもそれは気になっていたんだよ。なにかいい補強方法はあるかねえ?」
「重りも針金みたいなもので連結したらどうでしょう?」
今は1個1個の重り、1本1本のスポークが独立しているので、スポークに『曲げ』の力が加わっている。
なので重りを連結してしまえば、その『曲げ』の力は分散されるというわけだ。
「いいねいいね」
だが、サナがもっと凄いことを言い出した。
「ならいっそ、『円盤』を回したら?」
「え?」
「重りを特定する必要はなくて、円盤の特定範囲に『発射』を使えばいい」
「なるほど……」
『発射』で岩を飛ばすこともできる。
その際、正確に岩全体を把握して魔法を掛けているわけではなく、『だいたい』このくらい、という指定で行っているのだ。
「そうしたら、連続で『発射』を掛けられるねえ」
連続した円盤なのでタイミングというものを考慮する必要がないわけだ。
「うんうん、パワーアップできそうだね」
「ハカセ、『発射』を掛ける部分を増やすこともできそうですよ」
「ああ、そうだね。対向した2箇所にしたらバランスがよさそうだね」
「4箇所にしたらもっと力が出そう」
「うんうん、面白い!」
さっそくハカセは模型を作り始めるのだった。
* * *
いろいろあって翌日の朝、朝食後に円盤式エンジン(?)の実験が行われた。
円盤の大きさは10セル。厚みは5ミル。材質は青銅だ。
『発射』を掛ける、いわゆる『駆動部』は対向した2箇所とした。
「それじゃあゴロー、頼むよ」
「はい。……『放出』!」
「お、おお、おおお!」
模型の円盤式エンジン(?)は、これまでになく力強い回り方を見せてくれたのだった。
「やったね、成功だよ」
「おめでとうございます」
「ただ、この方式だと回転を上げたり下げたり……のレスポンスが悪そうだね」
円盤自体の重さがけっこうあるので、急激な加減速には向かないのだ。
その反面、安定した回転が得られるというメリットもある。
「でもハカセ、飛行機に使うなら、そこまで急激な加減速は必要ないんじゃないでしょうか」
これが自動車なら、停止・発進・加速・減速・停止……というかなり頻繁な加減速を行うことになるだろうが、飛行機の場合はもう少し緩やかだろうとゴローは言ったのである。
「うーん、それもそうだねえ。よし、これを元に、最適解を求めて、いよいよ実機用エンジン(?)を作るとするかね」
* * *
結論から言うと、丸1日を費やし、『円盤式エンジン』は完成した(完成したので『(?)』はもう付けない)。
円盤の直径は30セル、厚みは2セル。
駆動部分は6箇所。
最高回転数はおおよそ毎分2000回転。パワーはおおよそ40馬力。
ちなみにゴローの『謎知識』はパワーをワットではなく馬力……仏馬力、PSで考えているようだ。(1kW=1.36PS)
これは、初期のパイパーカブ(軽飛行機の1つ)に匹敵する。
「まずはこれで行くとするかね」
材質も含めて実験を繰り返せば、もっと効率のいいエンジンも作れそうだけど、とハカセは言った。
「これをグライダーに取り付ければいいでしょうね」
その場合、スロットルに相当するものはない。
ゴローが放出する魔力で円盤式エンジンの回転をコントロールできるからだ。
「うーん、強力なエンジンを作るより先に、ゴローに頼らなくてもいいようにしないといけないねえ」
まだまだ課題は山積している……。
だが、とりあえずはプロペラの製作からだ。
これもまたいろいろ試行錯誤した結果、木製、直径1メートル、2枚ブレードのものを使うことになったのである。
* * *
『千里の道も一歩から』。
まずは飛行実験である。
補強した最終型グライダーに円盤式エンジンを積み込み、飛行試験である。
滑走路がないので、前と同じように滑り台式カタパルトから飛び立つことにする。
「ゴロー、頼んだよ」
「はい、ハカセ」
「ゴロー、気をつけて」
「おう」
「ゴロー様、お気をつけて」
「任しとけ」
翌日は晴天だったので、早速実験である。
エンジンを積み、補強した分、機体の重量は重くなったが、ゴローは問題なく滑り台の上まで担ぎ上げた。
〈それじゃあ、行くぞ〉
〈うん〉
念話を使い、サナにスタートを知らせたゴローは、機体を発進させた。
エンジンはまだ回さない。
スロープを下り、速度が上がる……。
そして発射台から飛び出した直後、エンジン始動。
最初はゆっくりだ。
「お、飛んでる感じがする」
明らかに滑空とは違う飛び方である。
〈ゴロー、『強化』を掛けたほうがいい〉
サナから念話でアドバイスが届く。
〈大丈夫だ、担ぎ上げた時からそのままだから〉
〈うん、ならいい〉
『強化』を掛けた状態は、力だけでなく反応速度も向上している。
つまり、不慮の事態への対処もしやすいのだ。
また、機体の各箇所の挙動も感知できる。
〈機体に異常はない。もう少しエンジン出力をあげてみる〉
〈うん〉
下で見上げているサナに念話で伝え、ゴローはエンジン出力を上げた。
「お、おお!?」
ぐん、と加速したかと思うと機首が持ち上がった。
が、『強化』状態のゴローは、瞬時に操縦桿を調整し、機体を水平に保つことに成功。
〈エンジン出力をあげると、機体は上昇しようとするみたいだ〉
ならば出力を下げれば、機首が下がって下降するんだろうなとゴローは推測した。
単純に速度が変わるだけではなさそうなのが少々厄介である。
〈今度は旋回してみる〉
ゴローは操縦桿を慎重に動かし、機体を右に傾けた。
〈お、曲がる曲がる〉
主翼に付いている補助翼を左右逆にひねることで機体が傾く。
傾いた機体は、傾いた側に横滑りをする。つまり横向きの力が発生する。
これにより機体は進行方向を変えるわけだ。
およそ、時速100キルで飛行する実験機は、大きな弧を描いて方向転換した。
〈うーん、構造材が軋んでいるなあ〉
想定した速度を上回っているせいか、機体の強度に不安が出てきたのである。
それでもゴローはうまく機体を操って、ハカセとサナ、フランクらの待つ研究所前まで実験機を飛ばしたのであった。
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次回更新は都合により3月2日(火)14:00の予定です。