07-02 エンジン
ハカセ、ゴロー、サナ、そしてフランクも交え、『回転する機関』のアイデアを考え始めた。
「なかなか難しいねえ……」
飛行機を飛ばすためのプロペラを回すための機関であるから、そこそこの回転数とトルクが必要になる。
おいそれと思いつくものではなかった。
そもそも、簡単に思いつき製作できるなら、とっくの昔に『足漕ぎ自動車』に搭載しているだろうから。
「現実にあって、回転するものってなんだろうねえ」
ハカセは、考えをまとめるための下地を口にした。
そこから発展させていこうというわけだ。
「車輪、水車?」
「それだよ、サナ」
ハカセは水車を応用できないかと提案した。
そこでここからは水車を応用するアイデアを考えることになる。
「水車に水をぶつければ回るわけだ。ということは、水属性魔法でなんとかできないかということですね」
「そういうことさね」
「あれ? ええと、魔法で出した水じゃなく、普通の水を使う水属性魔法もある……んですよね?」
「あるよ。……サナ、教えていなかったのかい?」
「必要な場面がなかった、ので」
「まあいいさね。……『液体』『動け』という魔法があるんだよ。これは既存の水を動かす魔法さ」
「水中にいる魔物の突進を防いだりできる」
「なるほど」
確かにこれまで教わる機会がなかった、とゴローも納得した。
閑話休題。
その『液体』『動け』を使って水車を回すには、とハカセは考え始めた。
「とにかく水車に水流を当てれば回るわけだけど、連続して効率よく回すためにどうするか、だよねえ」
これには、今度はゴローがアイデアを出した。
「ええと、真ん中に水車を置いて、その両側にUの字をした管を付けたらどうでしょう?」
つまり『⊂*⊃』このようなイメージである。
Uの字の中を水が右回りに循環すれば、中央の水車も右回転するというわけである。
「いいねいいね。ゴロー、そのアイデアいただきだよ」
ハカセは大喜びで、まずは模型を作り始めた。
手のひらに載るくらいの模型なので、半日で完成。
全体は真鍮で作られており、中には水を満たしてある。
「この両側に出っ張ったUの字の部分に『液体』『動け』の効果のある魔法式を刻んである。あとはマナを注げば回りだすはずさ」
「ゴロー、やってみて」
「え、俺?」
「うん。アイデアはゴローのもの。なら、ゴローが試運転してみるべき」
「わかった」
サナに言われたゴローはハカセからエンジン(?)模型を受け取ると、マナを……。
「……ええと、マナを加えるってどうやるんだ?」
「え、そこ?」
「教わってないぞ」
「……そうだっけ?」
「うん」
「なら仕方ない。あとで教えるとして、それ、貸して」
今はサナがやるしかないということで、ゴローはサナにエンジン(?)を手渡した。
「それじゃあ、やってみる。『放出』……」
「お、回った回った」
模型のエンジン(?)が回り始めた。
が……。
「あちゃあ、水が漏れるね」
回転軸部分から水がポタポタと垂れてきてしまったのである。
「この部分のシーリングが難しそうですね」
「うーん……工作精度にもよりそうだね……」
だが、間違いなく軸は回転したのだ。
方向性は間違っていないとわかったのは大きい。
「改善点は軸受ですね」
「そうだねえ……水を使わずにできないかねえ」
だがハカセは、水を使わずに水車を回そうとしているようだ。
「ええと、『竜巻』『起きろ』ではちょっと無理では」
風属性魔法で竜巻を起こす魔法だ。
確かに渦巻く風を起こせるが、それを動力にするにはちょっとハードルが高すぎるだろうとゴローは思った。
「『発射』ってのがあるよ」
『発射』は土や砂利を飛ばす魔法である。
そのままだと一定範囲の土や砂利が飛んでいくが、指示語『礫』を加えて構成すると『礫』『発射』となり、例えば手のひらに載せた小石を飛ばすことができる。
「つまり、水車でなく、石車? っていうのかねえ、軸から放射状に生やしたスポークの先に重りを付けて、その重りに『礫』『発射』を掛けようって算段さ」
「なるほど、いいかもしれませんね」
魔法に詳しくなければ思いつけない発想だった。
* * *
再びハカセはエンジン(?)作りに没頭。
途中、ゴローが半ば強引に食事をさせるというハプニングもあったが、翌朝には試作模型が完成していた。
そして昨夜のうちに、ゴローもサナから魔力放出のやり方を学んでいた。
「今度は俺がやります」
ハカセからエンジン(?)を受け取り、手のひらに載せたゴローは、
「『放出』……」
マナを放出した。
「おお、回った回った」
「今度の方が回転が遅いみたいですね」
「確かにね」
本来、直線で飛んでいこうとする重りを円運動に変えているので、多少のロスが出ていると思われた。
それでも、回転軸を手で押さえても止められないほどトルク(回転力)がある。
「まずまず、成功かねえ」
「そうですね、こっちのほうが実用化しやすそうですね」
「そんじゃあ、もう少し大きいものを作ってみようかね」
「あ、待ってください、ハカセ」
「うん? ゴロー、何か意見があるのかね?」
「はい」
ゴローは、この方式のエンジン(?)には、おそらく最適解があるはず、と主張した。
すなわち、重りの重さと、それを支えるスポークの長さ、そして数だ。
今は小さな模型なのでスポークの数は4本で、その長さは5セル。重りの重さは1つ10グムくらい。
「おそらく重りを重くして数を増やすとトルクは上がりますね」
「でも本体の重さは重くなる、か……」
「はい。逆にすると軽くなりますがトルクは落ちるでしょうね」
「そうだろうね。スポークを長くするとトルクとやらは大きくなるけど……」
「回転数が落ちるでしょうね」
「だから最適解があるというわけかい」
「はい」
「わかった。なら、実機に近い大きさの実験用装置を作ろうかね」
ゴローの提言により、実験をして最適解を求めることになったのである。
* * *
1度作っているので、大きいだけの実験機は半日で完成した。
今度は手のひらに乗るような大きさではないので、実験机に固定している。
「では、魔力を流します。……『放出』!」
「うん、まずまずだね。ゴロー、もういいよ。次は重りをもうちょっと重くしてみるとするかね」
そうした地味な実験の繰り返しを半日行った結果、そこそこ効率的な組み合わせが見えてきたのである。
「スポーク長、20セル。重りの数は8。重りの重さは50グム。……こんな感じだね」
「そうですね。これで回転数は毎分1000回転くらいでしょうか」
「そのくらいらしいね」
『強化』で感覚を強化したサナによる測定だと、1秒で17回転強ということなので、計算上は毎分1020回転ということになる。
「まあまあ、かな?」
「作り込めばもう少し回転数は上がりそうだけどねえ」
実機のプロペラの場合、その先端の速度が音速を超えないように設計することがほとんどである。
実機を例に取ると、ゼロ戦21型が1750RPMくらいだったようで、プロペラの先端速度は260メートル毎秒ほどに抑えられていたらしい(概算)。
兎にも角にも、こうしてエンジン(?)の目処が立ったのである。
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次回更新は2月25日(木)14:00の予定です。