表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/496

06-20 採取行 その9

 動きを止めた亜竜(ワイバーン)は、全身真っ白な霜に覆われている。


〈……まだ生きているのかな?〉


 念のため、『念話』で会話するゴロー。


〈……うん、心臓の音が聞こえる。かなりゆっくりだけど〉

〈冬眠みたいな感じかな?〉

〈かもしれないけど、わからない。亜竜(ワイバーン)の生態はあまり知られていないから〉

〈そっか〉

〈それより、ここからどうするの?〉


 動きを止めた亜竜(ワイバーン)から、どうやってフランクの脚を取り出すのか。サナはゴローに尋ねた。


〈……手を突っ込んでみるしかないだろう〉

〈え?〉


 対象になっている亜竜(ワイバーン)はどうやら成体らしく、体長は7メル()ほどもある。

 ただし『翼竜』なので胴体は細い。細いがゆえにフランクの脚が引っ掛かっている、ともいえるのだが……。


〈他に何か、使えそうな魔法ってあるか?〉

〈……ない……と思う〉

〈やっぱりな。サナが思い当たらないんじゃ、ないんだろうな〉

〈……うん、ごめん〉

〈いや、謝らなくても……〉


 ハカセなら、何かいい知恵があるかもしれないが、戻って聞いてくるには時間が足りない。

 数分もすれば、亜竜(ワイバーン)は再び動き出す可能性があるからだ。

 かといって首を切り裂いたら、後始末が大変そうである。


〈完全に凍らせてしまえば、血も出ない、と思う〉

〈うーん……〉


 サナの言うことは正論だ。だが、なんとなくゴローはそれをしたくなかった。

 単なる気まぐれか、それとも為す術もなく横たわる生き物をあやめるのが嫌なのか。

 あるいは、『亜竜(ワイバーン)ライダー』がいることでわかるように、人間と意思を通じ合わせることができる生き物を惨殺することに気がとがめるのか。

 はたまた、フランクの脚をもいだには違いないが、人間に危害を加えていないのに殺すことにためらいを覚えているのか……。

 ゴロー自身にもよくわからなかった。


〈まあ、やってみるよ〉

〈ゴロー!?〉

〈時間もないしな〉


 ゴローはその身体に『強化(ホプリゾーン)』を掛けた。

 ゴローの身体能力が3倍に跳ね上がる。つまり動作速度も3倍、身体強度も3倍。

 その状態を保ったまま、ゴローは亜竜(ワイバーン)の口中を覗き込んだ。

 暗視能力も使い、喉の奥を見る……が、首が真っすぐ伸びていないため、何も見えない。


〈……ゴロー、任せて〉

〈お、サナ!〉


 サナもまた、3倍の『強化(ホプリゾーン)』を掛け、ゴローの支援を行う。

 その強化された力で、亜竜(ワイバーン)の首を引っ張り、まっすぐに伸ばした。


〈……どう?〉

〈うーん……何か……見えるような気がする〉


 飲み込んだフランクの脚が胃にまで達していたら、この方法ではサルベージできない。が、どうやら喉に引っ掛かっているように見える。


〈手を伸ばしても、届かない?〉

〈うーん……俺じゃ、ちょっと無理かも〉


 ゴローでは、肩幅などの体格的に、喉の奥まで身体を突っ込めないのだった。

 だが。


〈……なら、私がやる〉

〈サナ!?〉


 ゴローより小柄なサナなら、可能かもしれなかった。


〈ゴロー、代わって。私が潜り込んでみる〉

〈………………気をつけてな〉

〈うん〉


 サナは亜竜(ワイバーン)の喉の奥へと右手を伸ばす。が、まだ届かないので、喉をこじ開けるようにしてさらに奥へと……。


〈もうちょっと……〉

〈サナ、大丈夫か!?〉

〈うん。心配しないで〉


 だが、ゴローもサナも気が付いていなかったが、亜竜(ワイバーン)の表面の霜が溶け始めていた。


〈どうだ?〉

〈……見えた。フランクの脚。どうやら、無事……の、よう〉

〈そうか!〉

〈あと、少し……〉


 その時、サナが潜り込んだ喉の違和感も手伝って、亜竜(ワイバーン)が目を覚ましたのである。

 動き出す亜竜(ワイバーン)

 その口内にいたゴローと、喉に半ば上半身を突っ込んでいるサナは突然の揺れに驚き、亜竜(ワイバーン)が目覚めたことを知る。


〈ま、まずい! サナ、どうだ?〉

〈……もう、ちょっと…………届いた!〉

〈よし!〉


 ゴローはサナの足を掴み、亜竜(ワイバーン)の喉の奥から引っ張り出そうとした。

 だが、喉の違和感に不快を覚えたのか、亜竜(ワイバーン)は吠えた。


「グアアアアアアアッ!」


 そして、口中にゴローの存在を感じ取り、口を閉じようとする。


「そうはさせるか!」


 サナの足を離したゴローは、3倍の『強化(ホプリゾーン)』の力で、口を閉じよう……いや、ゴローたちを噛み砕こうとする亜竜(ワイバーン)に対抗した。


 爬虫類の一種であるワニの噛む力は地球上の生物最強クラスと言われる。

 そしてそこから推測された『ティラノサウルス』の噛む力は1平方センチ当たり約900キロとも言われる。もちろん実際に検証のしようもないのだが……。


 この亜竜(ワイバーン)の噛む力はそれよりも強いようだった。


「ぐ、うううううううう! サナ、まだか!」 


 ゴローは今や念話で話す余裕もなくなっていた。


〈待って。……あと、ちょっと……ぬめるから、出にくい〉


 亜竜(ワイバーン)が目覚めてしまったため、飲み込もうとする蠕動ぜんどう運動が喉に生じてしまい、サナも苦戦していた。


「まだか!」

〈……もうすぐ。……出た。お待たせ、ゴロー〉

「よし、サナ、フランクの脚を持って先に出ろ!」

「うん。だけど、ちょっとだけ、ゴローを支援する」


 そう告げたサナは『(アクア)』『しずく(グッタ)』を使った。


「!?」


 いきなり喉に水を流し込まれた亜竜(ワイバーン)は、驚き、むせる。


「今!」

「おう!」


 むせて咳をするためには口を開く必要がある。つまり、噛む力が緩む。

 まずサナが、そしてゴローが亜竜(ワイバーン)の口中から飛び出した。


「脱出成功!」

「うまくいった」


 河原に飛び降りた2人は、足場が悪いことと急いで飛び降りたことで体勢を崩してしまう。


「おっと」

「ゴロー、気をつけて」


 2人は体勢を整え、亜竜(ワイバーン)を見上げた。

 が。


「…………」

「……?」


 亜竜(ワイバーン)は動きを止め、2人を睨みつけている。否、見つめていた。

 その視線を辿たどれば、サナが手にしているフランクの脚だった。


「獲物を取られたと怒っているのか?」

「……そうじゃない、みたい」

「え?」


 ゴローが驚いたことに、亜竜(ワイバーン)は攻撃を仕掛けてくることもなく、2人をじっと見つめている。

 そして、ゆっくりとその首を伸ばし……。


「サナ、気をつけろ!」


 サナに鼻面を押し付けた。


「なに、これ」

「……懐いてるのか?」

「お礼を言ってる、みたい?」


 背中の羽も折りたたまれ、敵意や害意はなさそうである。

 どうやら、喉の異物をサナたちが取り除いたことを察したらしい。


 とりあえずほっとしたゴローとサナであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は2月11日(木)14:00の予定です。


 20210207 修正

(誤)動きを止めた亜竜(ワイバーン)は、前身真っ白な霜に覆われている。

(正)動きを止めた亜竜(ワイバーン)は、全身真っ白な霜に覆われている。

(誤)だが、喉の違和感不快に感じたのか、亜竜(ワイバーン)は吠えた。

(正)だが、喉の違和感に不快を覚えたのか、亜竜(ワイバーン)は吠えた。


 20211221 修正

(誤)サナは亜竜(ワイバーン)の喉の奥へを右手を伸ばす。

(正)サナは亜竜(ワイバーン)の喉の奥へと右手を伸ばす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ワイバーンさん良かったよぉ~~~……ゴローマジ(*^ー゜)b グッジョブ!! 話せば?分かる生き物に >>〈仰向けになったお腹に、大岩でも落としてみる?〉 とかやんなくt 凹...はいわ…
[一言] ちょろいw よし、お前はチョロ助だ(ぇー
[一言] 水を喉に流し込んでむせさせるとは、思いもよらない方法ですね そして驚愕の結末 五「えぇぇぇぇ?」この流れで懐くの? サ「さすが人外タラシ」 礼「今回はサナさんですから、タラシ姉弟でしょうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ