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01-07 最初の町

 遙かシクトマの町を目指すゴローとサナ。

 道中雨に降られることはなく、途中にあった集落1つとシェルター2つはパスし、昼夜を分かたず歩き続けることができていた。

 おかげで3日後には最初の町『ジメハースト』に到着することができたのである。


「あれが町らしいな」

 手前に掛かる橋の上で、ゴローが言った。左手から流れてくる川は、これまでずっと街道沿いに流れていた大きな川に合流するらしい。

 水の便はよさそうな町だな、とゴローは思った。

「あれが、町……大きい」

「ああ、大きいな」

 町の周囲には畑と果樹園が広がっている。

 畑は麦が作られており、果樹はリンゴもしくはナシに似た実が生っている。色が黄緑色なのでまだ熟していないらしい。

 そんな風景を横目で見ながら、ゴローとサナはジメハーストの町に近付いていった。


 つん、とサナがゴローの服の袖を掴む。

「どうした?」

「……あれ、なに?」

 サナが指差したのは、地面にいずるつると、そこに生っている丸い果実。果実は緑色で、その表面には黒い縞模様があった。

「スイカだ」

「すいか?」

「本来は野菜に分類されるんだろうが、まあ果物と言っていいだろう。中は赤か黄色で黒い種が一杯入っている。果肉は水っぽくて甘い」

「……食べてみたい」

「ああ。町の中で売ってるだろう」

「楽しみ」

 2人は少し足を速めて町を目指すのであった。


*   *   *


 ところでこの世界では、人の住む地域は小さい方から順に、集落、村(村落)、町、都市と分類されている。

 そして町と都市には歴然とした違いがあった。

 防壁である。

 都市とは城塞都市であり、外敵から住民を守るための囲いすなわち防壁が存在しているのだ。

 防壁がない場合、どれほど規模が大きく、住民が多くてもそれは『町』であった。


 つまりここ『ジメハースト』には防壁がなく、出入りは自由なのである。

 そして自由ということは、良きも悪しきも……というわけで、治安はあまりよくない。

 だからなのか、町の中に自警団……というのだろうか、剣や槍で武装したごつい男が何人も徘徊している。

〈なんか、あまり居心地のよさそうな町じゃないな〉

 念話を使い、ゴローはサナに話し掛けた。

〈うん。なんだか、嫌な視線を、感じる〉

 それはゴローも感じていた。

 理由の一つは、2人が着ている服が、微妙に古くさいからだろう。『ハカセ』はあの場所に引き籠もる前も含めたらどのくらいこうした文化と隔絶していたのか……と、頭の片隅でゴローは溜め息をついた。

〈どこかで服を買おうか〉

〈いいの?〉

〈正直、お金を稼ぐ手段がわからないから、あまり無駄遣いはしたくないんだけどな〉

〈同感。美味しいもの食べてみたいし〉

〈……気持ちはわかるが、まずは服だ〉

〈うん。……普段はあなたがリーダー、でいい。任せる〉

〈お、おう〉


 戦闘時はサナがリーダーで、平常時はゴローがリーダー。

 なんとなくそんな分担になっていた。


 文字は読めるので、服屋はすぐにわかった。

 だが。

「……高いな」

「うん」

 男物が上着とズボン1揃えに9000という値札が付いていたのだ。

「9000ゴルというと……」

(1ゴルが10円くらいだから9万円か……既製品にしちゃ高いな。……ん!? 円……って何だ?)

 またしても謎の知識が頭に浮かんだゴロー。

 それにしてもちょっと高いので、2人は別の店を探すことにする。


「所持金って、今、いくら? 私は5万ゴル」

「俺もそのくらいだ」

 『ハカセ』からお金は少しもらってきた。が、これからもハカセにはお金が必要なので、それほどたくさんはもらうわけにはいかなかった。

 お金を稼ぐ目処が立っていない今、浪費は避けたいゴローたち。

「古着屋を探してみよう」

「うん」

 というわけで、ゴローとサナは古着を扱う店を探して回った。


 日が沈みかけた頃、ようやく1軒見つかったのであった。


「……なんだか寂れているというか、ぼろっちい店だな」

 場所も町の片隅であったため、探すのに時間が掛かったのだ。

 もっとも、一番の理由はあっちの店こっちの店と、色々見て回っていたからだが。

 

 そこは、『古着 販売 買取』と看板が出された普通の店だ。

「……こんちは」

 中に入ってみると、外と同じくみすぼらしかった。

 が、古着はたくさん吊してあり、よりどりみどり状態。

 しかし、である。

「……高い」

 古着なのに2000、1500、2500などと値札が付いているのだ。

(2万円、1万5000円、2万5000円……)

 頭に浮かぶどこかの通貨に換算して、その高価格に驚くゴロー。

「……おきゃくさん?」

 幼い声が聞こえた。

 見ると、小学校1年生くらいの女の子が奥から店を覗いていたのだ。

(小学校って何だろう……)

 とゴローは自分の知識をいぶかしむが、

「おや、珍しい。こんな店に冷やかしにせよお客さんが入ってくるなんてねえ」

 と言いながら老婆が奥から出てきた。


「……何でこんなに高いの?」

 歯に衣着せずにサナが尋ねた。

「ほっほっほっ、そうかい、お客さんらは外から来なすったね?」

 笑う老婆。髪はすっかり白くなっており、顔も皺だらけだ。だが声は意外と若々しい。

「ええ、俺たちは旅の者です。今日この町に着いたんです」

 ゴローは無難な答えを返しておく。

「ほうほう、そうかね。道理で、あまり見たことのない服を着ているわけだねえ」

「ええ、遠くから来たもので」

「遠くから……探検家ではなさそうだから、行商人かい?」

「ええ、見習いですが」

「なるほどねえ。……お茶でも出すから、ちょっと話をしていかないかい?」

「え、いいんですか?」

「いいともいいとも。どうせ暇だからねえ」

「……」


 ということで、ゴローとサナは店の奥でお茶をいただくことにした。


「あ、美味しい。これが、この辺で飲まれるお茶ですか?」

「ああ、そうだよ。ロッサという草を摘んで乾かしてお茶にしているのさ」

 ロッサという植物は初めて聞いたので、あとでどんなものか教えてもらおう、とゴローは思った。

「……おかわり、ください」

 サナはお代わりまでしていた。

「はは、喉が渇いていたのかい? いいとも、たんとお飲み」

 老婆は笑ってお代わりを注いでくれていた。


「さあて、話に入ろうかね」

 サナが2杯目のロッサ茶を飲み干した頃、老婆が口を開いた。

「あたしはディアラさ。この子は孫のライナ」

「あ、俺はゴローと言います。こっちは姉のサナ」

 一応姉弟、という設定で行くことにした2人である。

「ずーっと北から、行商の修業に出てきてます」

「ほう、そうかい。その若さで大変だねえ」


 そして、価格の話になる。

「ええと、あの、なんで服ってこんなに高いんですか?」

 すると、ライナが声を上げた。

「うちのふくはたかくないよー!?」

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月23日(火)14:00の予定です。


 20190722 修正

(誤)2人は少し足を速めで町を目指すのであった。

(正)2人は少し足を速めて町を目指すのであった。


 20200605 修正

(旧)

 途中で冷やしたスイカを切り売りしている露店で買い食いもした。

「水気が多くて、美味しい」

 サナはスイカの味が気に入ったようだった。

 そしてまた町を歩きながら古着屋を探す。

(新)

 (削除)

 この時点ではまだ新旧貨幣のレートがはっきりしていませんので……。

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