00-02 我思う
本日2回目の投稿です。
ロボット? の強襲を退けた彼は、膝を突き、
「はあ、はあ……」
と息を荒げようとして、息が苦しくないことに気がついた。いや、呼吸そのものをしていないことに。
当面の脅威が去り、静けさが戻ってくると、彼は少し冷静になる。
「いったい俺は……どうなったんだ?」
この力。呼吸を必要としない、頑丈な身体。いったい何が自分に起きたのか、と自問するも答えはない。
「俺は……俺は、どうなったんだ?」
その時、パチパチと拍手が起きた。同時に声が聞こえる。
「+*@<・ー=、〜”&%#@」
〈おめでとう、56号〉
「……えっ?」
声と同時に、頭の中に言葉が響く。
彼は声のした方を見る。そこにいたのは老婆……と少女? だった。
老婆は真っ白な白髪頭。年齢は……わからないが、相当な高齢のようだった。
少女も……白い。白い、というより色が薄い、と形容すべきか。
肩胛骨のあたりまで伸びた髪は銀にも見える白、肌の色も抜けるように白く、目は澄んだ赤色、唇は薄い桃色。
白衣に似た服を着ているので余計に白いイメージが強まっていた。
そんな、『白い』コンビが彼を見下ろしていたのである。
「&$+*、<?〜¥%&%(”!(+@)$」
〈56号、あなたの性能は予想以上〉
老婆の声と、頭に響く声。
言葉は意味不明だったが、頭の中に響く言葉の意味は理解できた。
(56号? 性能? どういう意味だ?)
「$=〉?』)〜¥『〈、%$F>X&!」
〈ハカセの最高傑作、世界一の人造生命〉
(人造生命? ホムンクルス? どういうことだ?)
また頭の中に声が響いたが、それは先程からの彼の疑問の答えではなかった。
* * *
白い少女と老婆が見守る中、56番目の人造生命は、見事無傷で大型ガーゴイルを退けた。
「うんうん、いい出来だね!」
そして拍手をしながら、56号の前に姿を現すことにしたのだった。
だが、56号は、老婆の話す言葉が理解できないらしく、戸惑うばかり。
白い少女は老婆に助言をした。
「ハカセ、56号が戸惑っている。彼には順序立てた説明をすべき」
「うむ、もっともだね」
それを聞いた、『ハカセ』と呼ばれた老婆は頷いた。
「37号、あんたは56号と意思疎通できるんだね?」
「はい」
「よし、37号。説明はあんたに任せよう」
「了解」
* * *
〈……あなたは56号。ハカセが作り上げた魔法生物、人造生命〉
「え? え??」
〈声に出さなくていい。頭の中で考えれば、私に伝わる〉
「そ、そうは言っても……」
〈声に出した方が考えをまとめやすいなら、それでもいい〉
(ええと……これでいいかな?)
〈十分〉
(それで、君は?)
〈私は37号。あなたより前に作られた人造生命。ハカセの助手を務めている〉
(ハカセ、というのは?)
〈私の隣にいる人。魔法研究者〉
(魔法?)
〈そう、魔法。もしかして、魔法を知らない、とか?〉
(あ、ああ。……俺は……魔法を知らない……みたいだ)
〈そう〉
そして少女……37号は隣のハカセを見やり、何事か報告し、それに対して答えをもらったように56号には見えた。
〈お待たせ。そうした説明は順次行うことにする。まずはあなた自身のことを説明する〉
(わ、わかった。頼むよ)
〈あなたの身体、肉体は人工的に合成し、作られたもの。つまり生物ではない〉
(な、なら……)
〈最後まで聞いて。……人工的に合成した身体は生きてはいない。そのままでは動かない、ただの物体〉
(……)
〈そこで、魂を身体に融合させることで人造生命を起動させた〉
(それが、俺?)
〈そう。あなた、56号。と、私、37号〉
(俺は、いったい誰なんだ?)
〈私は知らない。あなたは……私もだけど、サルベージされた魂、だから〉
(サルベージ?)
〈そう。寄る辺なく、輪廻の輪に入ることもできず、時間と世界の狭間、『灰色の世界』を揺蕩っていた魂〉
(……つまり、俺は元々生きていなかった、ということ?)
〈その認識で間違いない〉
(……)
彼……56号は、その事実……37号の語った内容について、不思議と真実だと信じられた。
言葉ではなく、頭の中に直接語られたからかもしれない。
〈ここまでで、何か質問は、ある?〉
(え、ええと……さっきのロボットみたいなヤツは?)
〈ロボット? あなたを襲った人形のことなら、あれはガーゴイル。魂を持たない、単なる魔導人形〉
(魔導人形……つまり、魔法で動く人形ということ?)
〈そう〉
(何で、俺は襲われたんだ?)
〈実験だった〉
(実験? 殺されるかと思ったんだぞ?)
〈それについては謝る。でも、あのガーゴイル程度じゃ、あなたを傷つけることはできない、はず。実際、そうだった〉
(でも、痛かったぞ?)
〈痛みは必要な感覚。痛みを感じられないということは、生物ではありえない〉
生命体には必要な感覚だと37号は言う。
確かに、痛かったがそれだけだった、と56号は渋々認めた。
〈他に質問は?〉
(ええと、君……37号の隣にいるハカセという人が、俺の身体を造り、魂だかなんだかを定着させたということでいいの?)
〈そう、その認識でいい〉
(俺や君を……作って、どうする気なんだろう?)
〈特に何も。作り出すことに意義がある、とハカセは言っている〉
どこかで聞いたような言い回しだ、と56号は思った。
〈もう質問はない?〉
(……これから俺はどうすればいい?)
〈逆に聞く。何かしたいことはある?〉
(…………ないな)
〈だと、思った。あなた、記憶は? 自分の名前は? 思い出せる?〉
(……いや、思い出せないんだ)
〈そう。私も同じ。だから製造ナンバー、37号を名乗っている〉
(…………)
状況は飲み込めたものの、自分が何者なのかわからないということは、思った以上に彼……56号を打ちのめしていた。
〈好きにしていい、とハカセは言うはず。でも、今のままじゃ、あなたは困ると、思う〉
確かに、と56号は思った。
〈56号、こっちへ、来て〉
それで、37号に言われるまま、付いていくことにしたのであった。
* * *
付いていった先には巨大な岩壁があり、そこに横穴が穿たれていて、内部には『研究所』と呼べる施設が作られていた。
(凄いな)
〈同意。ここは、ハカセが50年掛けて整備した施設〉
(さっき、俺がいた部屋……小屋は?)
〈魔法技術で作った岩小屋。壊れても問題ない〉
(そうか……)
そして着いたのは小さな部屋。簡素なベッドと椅子が1つ。
〈当面の、あなたの部屋。足りないものがあったら言って〉
(ありがとう)
〈私の部屋は隣。ハカセは一番奥〉
(わかった。……で、俺はこれからどうすればいいんだろう?)
〈それはあなたが決めていい。でも、今の状態では、それも難しいのは理解できる。だから、しばらくここにいて、それから決めれば、いい〉
この世界の言葉や、自分の身体についてのことを覚えてからの方がいいと思う、と37号は言った。
(確かにそうかもな。それじゃあ、しばらくお世話になるよ)
〈うん。なら、言葉を覚えることから始めるといい〉
(え?)
〈私たちは、基本的に睡眠はいらない。これから、教えてあげる〉
(……)
ということで、37号による言語教育が始まったのであった。
お読みいただきありがとうございます。
20190602 修正
(誤)ロボット? の強襲を退けた彼は、膝を付き、
(正)ロボット? の強襲を退けた彼は、膝を突き、
(誤)ハカセの助手を勤めている〉
(正)ハカセの助手を務めている〉
20200201 修正
(誤)肌の色も抜けるように白く、目は淡い水色、唇は薄い桃色。
(正)肌の色も抜けるように白く、目は澄んだ赤色、唇は薄い桃色。
設定資料に合わせました
20200727 修正
(誤)56番目の人造生命は、見事無傷で大型ゴーレムを退けた。
(正)56番目の人造生命は、見事無傷で大型ガーゴイルを退けた。