06-11 ハカセも驚く……
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
更新が遅れて申し訳もございません。
ハカセの話はまだまだ続く。
「で、あんたたちの記憶や感情や意思や……まあそういうものは、『哲学者の石』に封じてあるからねえ。哲学者の石が無事なら、あんたたちはまず死なないよ」
「そうだったんですか……」
頭をふっ飛ばされても死なないというのは、もう生物ではないな、とゴローは思いかけ……。
「プラナリアも2つに切られても再生するというし、サンゴのような『群体』もあるしな」
と思い直す。
また、『哲学者の石』が全ての中心だということで、例えば身体を半分にされても、再生してゴローが2人になることはないことがわかってほっとする。
「哲学者の石のある側が再生するわけですよね」
「そういうことさね」
とにかく、自分がとんでもない存在であることを少し理解したゴローである。
「だから、あまり狙撃を気にしなくてもいいよ」
「あまり人前で狙撃されたくはないですけどね」
頭を吹き飛ばされた人間が翌日平気な顔をして歩いていたらどう思われるか、と考えるとアンデッドと間違われるのではないかとゴローは思っていた。
化け物と思われるのだけは避けないとな、と思ったゴローなのである。
「……とりとめもなく随分話しちまったね。あたしも体系だった話し方は苦手だからねえ、勘弁しておくれよ」
そろそろ夜も更けて来たので、ゴローやサナはともかく、ハカセは寝ないといけない。
一同、休むことにしたのである。
* * *
〈……ゴロー、無茶しちゃだめ、だからね?〉
〈え?〉
〈……ハカセの話を聞いたから〉
〈そんなことしないよ〉
〈……なら、いい〉
〈サナ、何か気になるのか?〉
〈……どうして?〉
〈教会の話を聞いてから、ちょっと変かなと思って〉
〈……そう?〉
〈ああ。昔、教会と何かあったんじゃないか、ってハカセが言ってたけど……〉
〈……覚えてない。それは、本当〉
〈そっか。何か思い出したら話してくれよ?〉
〈……うん〉
〈約束だぞ?〉
〈……うん、約束する〉
そんな会話を交わしたゴローとサナであった。
* * *
翌日、朝食後、ゴローは改めて来訪したもう1つの目的をハカセに話した。
すなわち、宝石もしくはその原石を探しにきたことを、である。
「ラピスラズリかね。あまり見ないけど、どっかにあった気がするね。ちょっと待ってておくれ」
「あ、それからルビーとアメジストも。できればドームで」
「へえ? そっちはたくさんあるよ。とにかくちょっと見てくるよ」
ハカセはそう言い残して倉庫へと向かった。
フランクが付いていく。
そして3分ほどで戻ってくる。
フランクが大きなアメジストのドームを2つ抱えているのが見えた。
「これでどうかね」
「いいですねえ」
見事なドームが2つ。ちょうど原石を2つに割った、そのペアである。
紫色も濃く、鮮やか。
大きさも一抱え以上あり、これなら十分と思えた。
「それからルビーはこれかねえ」
ハカセがテーブルの上にごろりと転がした原石。
原石といっても、赤ん坊の拳ほどもある結晶の塊である。
「十分過ぎます」
親指の頭くらい、と言われているので、この大きさなら十分であろうと思われた。
「割ってみなくていいかい?」
とハカセに言われて、ゴローは『ナイフ』のことを思い出した。
「こういう『古代遺物』を見つけたんですよ」
そう言いながらナイフでルビーを切って見せた。
「へえ? 凄いじゃないか! ちょっと見せてくれるかい?」
「ええ、どうぞ」
ゴローはナイフをハカセに手渡した。
「ふんふん……素材は……魔法系金属みたいだね……刃の部分に何か仕掛けがしてあるようだ……触れた対象の……構造を……破壊?」
「俺は、分子構造を切っていくんじゃないかと思ったんですが」
「分子……ああ、そうだね。ゴローに教えてもらったっけね。うんうん、分子構造を破壊するような魔法式が書かれているみたいだねえ……なるほどなるほど」
ハカセは嬉しそうに頷いた。
どうやらまた何かインスピレーションがひらめいたらしい。
「……そうだ、そのナイフなら、金剛石も加工できるんじゃないかね?」
「金剛石……ダイヤモンドもあるんですか?」
「あるよ」
ハカセはポケットから正四面体が2つくっついたような結晶を取り出した。
ダイヤモンドの結晶、原石だ。
「ただ、硬すぎて加工できないんであまり価値がないんだよねえ」
「へえ……」
頷きながらゴローはダイヤモンドの原石にナイフを当ててみた。
「おお、切れる切れる」
「はあ……なるほどねえ、そういう魔法処理をすれば、金剛石も加工できるのか……ふむふむ」
嬉しそうなハカセの顔を見てゴローは、ついでだと、荷物から『竹とんぼ』を取り出した。
「ハカセ、もう少しあとで見せるつもりだったけど……」
「なんだい、それ?」
「これは、こうして……」
ゴローが『竹とんぼ』を飛ばしてみせると……。
「おわ! なんだい、それは!! ゴロー、もう一度もう一度!!」
「はいはい、何度でも」
ゴローはハカセに乞われるまま、何十回も竹とんぼを飛ばしてみせたのである。
「ふうむ……空を飛ぶ乗り物かい……面白い!!!」
案の定、ハカセはこの考えにも飛びついた。
「俺としては、ハカセと一緒に『飛行機』の研究をしてみたいと思っているんですが」
「ほう、『飛行機』かい! 面白い。やってやろうじゃないかね」
「…………」
サナは黙って、そんなゴローとハカセのはしゃぎっぷりを眺めていたのであった。
* * *
「俺としては、『浮く』機能と『進む』機能を分けられたらな、と思っています」
「ふんふん、確かにその考え方は健全な気がするね」
竹とんぼを弄りながらハカセはゴローの言葉に反応した。
「浮く魔法か……」
「ええと、どっかの国に『ワイバーンライダー』とかいうのがいるとかいないとか聞いたことが」
「ああ、あれかね。確かにあいつらは何か魔法で浮いているねえ……」
ゴローとしても、ワイバーンのような体格の魔物が、物理的な力だけで浮けるとは思っていない。
何らかの魔法を併用していると考えていた。
「軽量化でしょうか?」
「ちょっと違うねえ。あれは……なんと言えばいいかねえ……」
どうやらハカセは、ワイバーンの飛行についても研究したことがあったようだ。
「あいつらの翼は、ゴローが言っていた……ええと……そう、『重力』に反発する性質があるんさね」
「ええ……」
反重力物質みたいなものか、とゴローは驚いた。
「……じゃあ、野良ワイバーンを捕まえて、その羽を採取したら使えるかも」
「え?」
今まで黙って聞いていたサナが、アイデアを口にしたので、ゴローとハカセは驚いた。
「なるほど……でも、これまでそうした話……ワイバーンの羽を使って飛んだ、というような話は聞いたことがないねえ」
「……魔力を流さないと機能しないのかも」
「なるほど、サナのいうことにも一理あるねえ。とにかくワイバーンの羽を手に入れてみたいねえ……」
「興味深いですね」
ハカセとゴロー、ときどきサナ。
そんな打ち合わせはお昼ご飯前まで続いたのである。
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次回更新は1月10日(日)14:00の予定です。