06-08 更に北へ
ゴローとサナは、おやつの時間に間に合うよう、『樹糖』の濃縮を進めていった。
一般的にいって地球では、サトウカエデの樹液40リットルから1リットルのメープルシロップができるという。
またメープルシロップを煮詰めてメープルシュガーにする際は100ミリリットルから30グラムほど採れるようだ。
『樹糖』の場合は多少濃縮してあるので、10リルの『樹糖』から1リルのメープルシロップもどきが採れた。
ゴロー命名『樹糖飴』(適度に水分を抜いた樹糖)はメープルシロップもどき1リルから350グム、粉末樹糖なら300グムを作ることができたのである
「保存も効くし、使いみちが多いから、8割位は粉末樹糖にしようか」
「うん、いいと思う」
サナも賛成したので、およそ80リルの『樹糖』に『乾かす』を掛け、粉末化すれば、約2.4キムの粉末樹糖となった。
それを瓶に小分けにし、しっかりと蓋を締めた。
残ったのは、最初に買った分も合わせて32リルの『樹糖』。
これは、10リルをメープルシロップもどき1リルにし、残り22リルを700グムの『樹糖飴』にしたのである。
「いずれ、その……『ミツヒ村』へ行って、もっと『樹糖』を買いたい」
などとサナは言っていた。
* * *
「わあ、おいしい!」
「ほんとに美味しいねえ」
おやつの時間に、ゴローはメープルシロップもどきを使ったラスクを作ったのである。
砂糖で作ったラスクと違い、メープルシロップもどきの風味が加わり、なかなか美味しくできた。
「作り方は簡単ですから、ディアラさんも時々作ってあげてください」
と言ってゴローはレシピを説明したのであった。
そしてもちろん、作った粉末樹糖の半分以上と樹糖飴、メープルシロップもどきの全部を置いていく。
ゴローとサナなら、『樹糖』さえ手に入れば、いつでも作れるからだ。
ただ、『ハカセ』へのお土産にしたいので、粉末樹糖100グムだけは確保したのである。
* * *
夕食の時間に、翌日出発することをディアラとライナに告げるゴローたち。
「そうかい、明日発つかい」
「おにいちゃん、おねえちゃん、また来てくれるよね?」
「また来るよ、ライナちゃん。……もしよかったら、ディアラさんとライナちゃんも、シクトマへ遊びに来てください」
「いきたい、な……」
「そうだねえ、行けたらいいねえ……」
ディアラはちょっと残念そうに、ライナは寂しそうに、それを受け入れてくれたのだった。
* * *
そしてその夜、思うところのあったゴローは、ライナが寝たあと、ディアラに提案をした。
「やっぱり、ライナちゃんのことを思うと、モーガンさんたちと一緒に暮らしたほうがいいと思うんです」
「……だけどねえ……」
言葉を濁すディアラに、ゴローはさらに提案をする。
「もしよろしければ、うちの屋敷に住んでもらってもいいと思うんです」
「え?」
「……たまたま手に入れた屋敷なんですけど、『屋敷妖精』や『木の精』がいて、そんじょそこらの屋敷よりずっと安全ですよ」
「ゴロー君……あんた……」
自分たちがモーガンと離れて暮らしている事情をゴローが知っていたことと、ゴローの屋敷に超常の存在がいることとを知って、さすがのディアラも絶句したのであった。
「また帰りに寄ります。その時までに考えておいてください」
「ありがとうよ、ゴロー君」
そう言って微笑むディアラであった。
* * *
ディアラも寝てしまった深夜、サナはゴローに『念話』で話し掛けた。
〈ゴロー、どうして、あんな提案をしたの?〉
〈うーん……なんていうか……そう、親子が離れて暮らしている、ってあまりよくないなあ、って思ったんだよ〉
〈王都は危険がある、って聞いているのに?〉
〈うん。それを言ったら、ここだって完全に安全とは限らない。むしろ、モーガンさんの手が届かない分、危険度は高いともいえる〉
〈それは……確かに〉
〈でさ、うちの屋敷なら広いし、マリーやフロロもいるし、ルナールだって頼れそうだし、いいんじゃないかって思ったんだ〉
それに、王族がちょいちょい顔を出すような屋敷なら、おいそれと手出しもしないだろう、という腹づもりもあったりする。
〈……そう〉
サナは何かちょっと考えているようだった。
〈……ゴローって、意外と面倒見がいい〉
〈そうかな?〉
〈うん、そう思う〉
〈あんまり自覚してないなあ〉
〈そういうもの。でもゴロー、あなたは、『してもらう』より『してあげる』方が好きみたい〉
〈うーん……してあげるほうが好き、っていうか……してもらうのが苦手、といったほうがいいのかもな〉
〈なるほど〉
また少し間を置いてからサナは話し掛けてくる。
〈それって、やっぱりゴローの前世によるもの、かも〉
〈そう言われてもピンとこないなあ〉
〈……ゴローは、前世のこと、気にならない?〉
〈うん、ならないな。今、それなりに楽しいから……かな〉
〈……そう〉
〈サナは、違うのか?〉
ゴローからの問いかけに、サナは時間を置いてから答えた。
〈正直、わからない。でも、ちょっと、気になるのは、確か〉
〈そっか。……確か『ハカセ』は『古城にいたレイス』って言ってたような〉
〈うん、それで合ってる〉
〈古城って、どこの?〉
〈……そういえば、聞いたことない〉
〈おいおい〉
〈ゴローに言われて、気が付いた。気が付いたら、気になってきた。今度帰ったら『ハカセ』に聞いてみる〉
〈それがいいな〉
〈うん〉
それで2人の『念話』は終わった。
ジメハーストの夜は深々と更けていった。
* * *
「それじゃあ、お世話になりました」
「また帰りには寄っておくれよ」
翌日、朝食を済ませると、宣言どおりにゴローとサナはジメハーストを発つことになった。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ぜったいぜったいまたきてね!」
「うん、来るとも。絶対」
「だから、待ってて」
目をうるうるさせるライナをなだめ、ゴローとサナはディアラ邸を発つのであった。
* * *
ジメハーストを出たゴローは北を目指した。
「ゴロー、真っ直ぐ北へ行くの?」
普通の人よりちょっとだけ速い早足で歩きながら、サナはゴローに尋ねた。
「ああ。それが何か?」
「ゴローのことだから、『ミツヒ村』へ行ってみるかと思った」
「ちょっとだけそれも考えたんだけどさ。まずは『ハカセ』のところかな、って思ったんだ」
『ハカセ』なら『ミツヒ村』のことをもっと知っている可能性もあるし、とゴローが言うと、サナも納得したようだった。
「それならわかる。確かに『ハカセ』なら知っているかも」
「だろう? ……それに、もし『ミツヒ村』を訪問するなら、『脱水の魔導具』を『ハカセ』に作ってもらってからの方がいいんじゃないかと思ったんだよ」
「確かに。ゴロー、よく考えてる。偉い」
サナは感心し、ゴローを褒めた。
「……あんまり子供扱いするなよ」
「ゴローは私の弟。私はお姉ちゃんだから、いいの」
「……ちぇ」
膨れながらも、ちょっと楽しげなゴローであった。
2人はひたすら北を目指していく……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月20日(日)14:00の予定です。
20201217 修正
(誤)ジメハーストかを出たゴローは北を目指した。
(正)ジメハーストを出たゴローは北を目指した。
(旧)またメープルシロップを煮詰めてメープルシュガーにする際は50ミリリットルから40グラムほど採れるようだ。
(新)またメープルシロップを煮詰めてメープルシュガーにする際は100ミリリットルから30グラムほど採れるようだ。
(旧)
ゴロー命名『樹糖飴』(適度に水分を抜いた樹糖)はメープルシロップもどき1リルから45グム、粉末樹糖なら35グムを作ることができたのである。
(新)
ゴロー命名『樹糖飴』(適度に水分を抜いた樹糖)はメープルシロップもどき1リルから350グム、粉末樹糖なら300グムを作ることができたのである
(旧)粉末化すれば、約280グムの粉末樹糖となった。
(新)粉末化すれば、約2.4キムの粉末樹糖となった。
(旧)これは、10リルをメープルシロップもどきにし
(新)これは、10リルをメープルシロップもどき1リルにし
(旧)残り22リルを100グムの『樹糖飴』にしたのである。
(新)残り22リルを700グムの『樹糖飴』にしたのである。