06-05 久しぶりの再会
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、ゴロー様、サナ様」
「……行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて、なのです」
朝の8時、ゴローとサナは『屋敷妖精』のマリー、執事見習いのルナール、そしてドワーフのティルダに見送られ、『北の地』を目指す旅へと出発した。
まずは北の門へ。
そこから目指すはサンバー町だ。
「ゴロー、まずは街道を行く?」
「そうなるな」
王都シクトマを出てすぐは麦畑であり、街道を外れて進むことはちょっとできない。
しばらくは街道を進むしかないのだ。
とはいえ、2人は軽装で、とても『北の地』を目指しているようには見えない。
せいぜいが隣町であるサンバー町まで使いに行く、といった風である。だからかなりの早足で歩いていても不審には見られない。
そのペースを何時間でも……いや何日でも保ち続けられると知ったら、誰でもが仰天するだろうが。
時速6キルほどの早足で1時間ほど進むと、ようやく麦畑も終わり、果樹園となる。
そして30分ほどで灌木の点在する草原となった。
だが、まだ人目があるので、もう少しそのままのペースで北上する。
そしてまた1時間。
街道の左右は疎林となった。これなら人目につきにくい。
ゴローとサナは右側の疎林へと分け入った。
ちょっと遅いが季節柄、キノコ採取のためにまれに人が訪れるので、2人が不審がられることはなかった。
「……本気で、行く」
「おし」
街道から十分離れた2人は、疎林の中を北へ向かって走り始めた。
木が邪魔ではあるが、時速20キルほどは出ているので、かなり速い。
木にぶつかることもなく、野獣に襲われることもなく、2人は走り続けた。
* * *
王都シクトマと中間地点のトゥチュ村間は30キルくらい。
なので2人は、昼にはトゥチュ村に到着していたがここはパスし、さらに北を目指す2人は、村を離れるとまた街道を外れ林の中を進む。
更に30キルでサンバーの町だが、ここもパス。
北へ、北へ。
行き倒れていたティルダを拾ったあたりもとうに過ぎ、名を知らぬ集落も過ぎた頃、日が落ちた。
「これなら、街道を行ける」
「そうだな」
「もっと速く走る」
「もちろんだ」
夜の闇に紛れて街道を行けば、顔を見られることもない。
というわけで2人は街道を進む。林の中を行くのに比べたら格段に走りやすく、時速は60キルを出せる。
なので夜のうちにギーノ町を通過し、夜明け前にはジメハーストの町に到着できたのである。
* * *
防壁のない町なので出入り自由とはいえ、暗いうちに中に入るのは自警団といらぬ揉め事を起こす可能性があったので、町の手前で日の出を待った。
1時間ほど待つと日が昇り、明るくなる。
朝の光の中でよく見ると、あたり一面霜が降りていた。真っ白である。
「……きれい」
「だな」
そんな霜も、朝日を浴びて溶けていく。
黒っぽい土の上は特に温まりやすく、溶けた霜の水分が湯気になって立ち上り始めた。
「……面白い」
「そうだな」
そんな会話を交わしながら、ゴローとサナはジメハーストの町に入った。
目指すはディアラとライナの店である。
数日間滞在していたので、そこそこ町中の道は覚えている。
そして着いた、ディアラとライナの店。
「……なんだか、綺麗になってるな」
「うん」
店は元の場所にあったのだが、新しく板を張り替えたり塗料を塗り直したりしたと見え、雰囲気が変わっていた。
「繁盛してるんだな」
「きっと、そう。ゴローがいろいろやってたから」
マネキンを作ったり、店内のレイアウトを少し見直したり、姿見を置いたり、ライナそっくりに作った『看板娘』を飾ったりしたのである。
そうこうしているうちに、店の戸が開いた。
時刻は午前8時、店を開ける時刻になったようだ。
「おや、あんたら……ゴロー君とサナちゃん……だっけね」
「あ、ディアラさん、お久しぶりです」
「ご無沙汰してます」
『看板娘』を抱えて出てきたのはディアラだった。
ちゃんと2人のことを覚えており、
「なんだね、来たならすぐに寄ってくれればいいのに。水臭いねえ」
と言われてしまった。
どうやら昨日この町に着いて宿屋に泊まったと思われているようだ。
そう察したゴローは正直に伝える。
「あ、いえ、さっき着いたばかりなんですよ」
「ええ? 夜歩きかい? あんまり感心しないねえ。若いからって無茶すると、いつか痛い目を見るよ?」
お説教されてしまった。
「あ、はい、気をつけます」
素直に謝っておくゴロー。その時、奥から声がした。
「あ、おにいちゃんとおねえちゃんだ!」
ディアラの孫、ライナである。たたたっ、と走ってきてゴローに飛びついた。
「わあ、あそびにきてくれたの?」
「うーん、仕事なんだよ」
「おしごと?」
「うん。北の町へ、宝石の原石を買い付けにね」
「ふーん……」
ゴローとサナが長逗留してくれそうにないと察したのか、ライナの元気がしぼんだ。
それを見て取ったゴローは、預かった手紙のことを思い出した。
「そうだ、ディアラさんとライナちゃんに、手紙を言付かってきました」
「手紙?」
「おてがみ?」
「はい。モーガンさんから」
「あの子からかい」
「おとうさんから?」
「まあ、店の前で長話も何だから、中へお入りよ」
「あ、はい」
「お邪魔します」
そういうわけでゴローとサナは店の中へと招き入れられ、そこであらためて手紙を差し出したのであった。
「わざわざありがとうよ、ゴロー君、サナちゃん」
「ありがとう、おにいちゃん、おねえちゃん!」
手紙を受け取った2人は大喜び。
「朝ごはんはまだだろう? 一緒に食べておいき」
「あ、済みません」
久しぶりにディアラ、ライナたちと朝食を摂ることになったゴローとサナであった。
* * *
食事を摂ったあとは、のんびりと話をすることになった。
ゴローもサナも、こうなることは予想済みなので、焦ることもなくディアラとライナに付き合っている。
「ふん、あの子も忙しそうだねえ」
「ええ、先日は王女殿下と王子殿下を護衛してジャンガル王国へ行きましたしね」
「そうらしいね。あんたら2人も一緒に行ったんだろう? 書いてあるよ」
「あ、そうですか。……ディアラさんの紹介状のおかげで、モーガンさん、マリアンさんとも懇意にしていただいてます」
「そうかい、そりゃよかった」
「おねえちゃん、あれからどうしてたの? おはなしして?」
「うん、あのね……」
サナはサナで、ライナにこれまでの自分たちのことを話して聞かせていた。
* * *
「すいませーん!」
「ああ、はい、今行きます」
店にお客さんが来たようで、ディアラが慌てて出ていった。繁盛しているようだ。
〈サナ、今日はこの町で泊まり、でいいよな?〉
〈うん〉
ゴローとサナも念話で予定を確認しあう。
〈よし、そうと決まれば、何か美味しいものでも作るよ〉
〈うん、期待してる〉
そういうわけでゴローは、町中へ食材を物色しに行くことにした。
「あ、おにいちゃん、もう行っちゃうの?」
一瞬、ゴローがもう発ってしまうのかと思ったらしいライナであったが、
「大丈夫。ゴローはちょっと買い物に行ってくる、だけ」
とサナに言い聞かせられてほっとするのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月10日(木)14:00の予定です。
20201208 修正
(誤)マネキンを作ったり、見せないのレイアウトを少し見直したり
(正)マネキンを作ったり、店内のレイアウトを少し見直したり
orz
20201209 修正
(誤)王都シクトマとサンバー間は30キルくらい。
(正)王都シクトマと中間地点のトゥチュ村間は30キルくらい。
(旧)そういうわけでゴローは、まちなかへ食材を物色しに行くことにした。
(新)そういうわけでゴローは、町中へ食材を物色しに行くことにした。
20210218 修正
(誤)「もっと早く走る」
(正)「もっと速く走る」
20230905 修正
(誤) 朝の8時、ゴーロとサナは『屋敷妖精』のマリー、
(正) 朝の8時、ゴローとサナは『屋敷妖精』のマリー、