06-01 我が家の妖精さんと精霊さん
本日は1つ前に参考資料も投稿しています。
久々に『我が家』に帰ってきたゴローたち。
「ああ、やっぱり我が家はいいなあ……」
こういう時は畳敷きの部屋でゴロゴロ寝っ転がりたい、と思うゴロー。でも畳はない。
そんなゴローを見てサナはぼそりと、
「ゴロー、年寄りくさい」
と毒を吐くのであった。
* * *
さて、帰ってきたゴローは、荷物を解くと、まず真っ先に、『木の精』のフロロに会いに行った。
もちろんサナも一緒だ。
ティルダは工房へ行っている。
フロロが宿る梅の木は葉を紅葉させていた。
「フロロ、出てきて」
サナが声を掛けると、フロロが現れる。
「サナちん、ゴロちん、お帰りー。途中までは『分体』と繋がっていたけど、距離が離れるにつれ詳しいことがわかんなくなっちゃった。……で、『分体』は?」
「えと、これ」
「……枝、か……」
サナは、ジャンガル王国の『木の精』となった『ヴィリデ』に託された枝をフロロに渡した。
フロロはそれを見て、何があったか察したらしい。
枝を受け取ったフロロは、目を閉じてそれを胸に抱き、しばらく無言のまま佇んでいたが、やがてゆっくりと目を開くと。
「うん、何があったかよーくわかったわ。あの子、一人前になったのね」
「うん。ジャンガル王国では『大精霊』として大事にされてるみたい」
サナが補足すると、フロロはにっこりと笑った。
「そうみたいね。この枝が教えてくれたわ。大事にされているならいいの」
そう言ってフロロは、どうやったのか、自分の幹に枝を取り込んでしまった。
「……ええとね、これから冬に向けて、あたしは休眠するから。急用の時以外は起こさないでね?」
「うん、わかった」
「起こさないよ」
「春になって、蕾がふくらんでくる頃にはあたしも目覚めるわ」
「……ああ、そうだ。肥料はいらないのか?」
「あら、ゴロちん、気が利くじゃない。そうね、腐植質は十分だから、骨粉が少し欲しいかな? あ、梅って、真冬に肥料を撒いちゃだめよ? 秋の終わりに、ね」
「わかった」
ゴローが頷いたのを見て、フロロは満足そうに笑うと、その姿を消したのだった。
* * *
フロロの次は『屋敷妖精』のマリーだ。
ゴローはマリーの『分体』が宿ったレンガ片を出し、マリーを呼んだ。
「はい、ゴロー様。……わたくしの分体はお役に立ちましたか?」
「ああ。話し相手になってくれたし、いろいろとな」
「それはよかったです」
そう言ってマリーは分体を吸収したのであった。
「……えっと、使用人が来るんですか?」
分体から情報を得たらしいマリーが質問してきた。
「ああ、そうなんだ。……王都に着いたのは昨日なんだが、王城に寄らざるを得なかったから、そっちでいろいろあったんだろうと思う」
今朝王城で用意された馬車には、荷物は積まれていたがルナールは一緒にいなかったのである。
少々薄情ではあるが、ゴローもサナもティルダでさえも、その事に気がついたのは屋敷に帰ってきてからだったのだ。
言い訳になるが、3人とも久しぶりの我が家ということで、イレギュラーであるルナールのことはすっかり忘れていたのである。
噂をすれば影が差す。
「ゴロー様、お客様がお見えになったようです。馬車が着きました」
『屋敷妖精』のマリーは、家の中にいても屋敷中のことを把握している。
今も、門扉前に来客があったことを察知したのである。
「まずわたくしがお出迎えします。ゴロー様は後からおいでください」
そう言ってマリーは姿を消した。
そして玄関前に姿を現す。いきなり門扉前に出現しないのは、来客を驚かさないためである。マリーは気遣いのできる『屋敷妖精』なのだ。
来客はモーガンであった。
「いらっしゃいませ、モーガン様」
「ああ、マリーか。久しぶりだな。元気だったか?」
「はい、おかげさまで。モーガン様もご健勝のようで、お慶び申し上げます」
「おお、ありがとう」
そんな挨拶をしているとゴローがやって来た。
「あ、モーガンさん」
「おおゴロー、王城では見送りできなくて悪かったな」
「いえいえ、モーガンさんもお仕事があったでしょうから」
「うむ、まあな。……で、旅の報告書なんかを書いていたんだが、それも終わって、王城から帰ってきたわけだが……忘れものだぞ」
モーガンが手招きすると、馬車から出てきたのは狐獣人のルナールだった。
なんとモーガンは、ルナールを連れてきてくれていたのである。
「ありがとうございます。実は王城を出る際に連れてきてくれなかったので、どうしようかと思いつつも一旦帰ってきてしまったんですよ」
「そうだったか」
本当は忘れていたのだが、それをここで言うと、さすがにルナールが可哀そうなので誤魔化したゴローであった。
「ようこそ、ルナール。……済まなかったな」
「……いい」
ルナールを迎えるゴロー。当人は少しむくれている。
無理もない、とゴローは心のなかで頭を下げた。
「それじゃあ、私はこれで帰る」
「わざわざありがとうございました」
モーガンは手を振って馬車に乗り込んだ。
そして御者が馬に一鞭くれると馬車は走り出す。
それを見送ったゴローは、ルナールにマリーを紹介することにした。
「ええと、ルナール、この子はマリー。うちの屋敷に憑いている『屋敷妖精』なんだ」
「マリーです」
「……」
「ルナール?」
マリーを『屋敷妖精』だと紹介した途端、ルナールは硬直したようになってしまった。
「おい、どうした?」
「……キキ……モラ…………?」
「はい、そうですよ?」
どうやら『屋敷妖精』を初めて見たようで、緊張しているようだ。妖精とか精霊には弱いのかな、と思うゴローであった。
「あ、あの、お、俺、ルナールっていいます。よ、よろしく!」
「はい、よろしくお願いしますね」
「さあ、屋敷に入ろうぜ」
いつまでも門のところでうだうだしていても仕方ないと、ゴローは屋敷へと向かった。
マリーとルナールもそれに続く。
* * *
「ゴロー、お客さんって?」
屋敷の玄関ホールではサナが待っていた。
「ああ。モーガンさんだった。……ほら、ルナールを連れてきてくれたんだ」
「あ、ほんと。……ルナール、ようこそ」
「……お世話になります」
〈ねえゴロー、フロロにも、紹介していたほうがいいかな?〉
〈ああ、そうだな……今ならまだ寝ていないだろう〉
〈うん、そう思う〉
そんな『念話』を交わしたゴローとサナは、ルナールを庭の奥へと連れて行った。
「……こんなところに何が?」
訝しむルナールを尻目に、サナはフロロを呼び出す。
「フロロ、さっきの今で悪いけど、出てきて」
「……ええ? 何よ、サナちん?」
ぶつくさ言いながらフロロが現れた。
「ごめんね。ええと、新しい住人を紹介しておこうと思って。……ルナール、この子は『木の精』のフロロ。……フロロ、この人はルナール。いろいろあってゴローの従者になった」
「ふうん? その色々を聞いてみたいけど、まあいいわ。……ルナール、あたしはフロロ。よろしくね。あ、冬の間は寝ているから、この辺りで騒がしくしないようにね」
「……」
「ルナール?」
祖国であるジャンガル王国で『大精霊』と称される『木の精』を目の当たりにし、直接言葉を掛けられたルナールは硬直してしまったようだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月26日(木)14:00の予定です。
20201122 修正
(誤)そんなゴローを見てネアはぼそりと、
(正)そんなゴローを見てサナはぼそりと、
(誤)そして玄関前に姿を表す。
(正)そして玄関前に姿を現す。