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01-05 遺跡?

 マンホール状の蓋を開けた先は、階段になっていた。

 斜め下へ降りていく急な階段だ。

  内部は案の定真っ暗であるが、暗闇でも平気なゴローとサナには問題にはならない。

「危険はなさそう」

「だな」

 内部の空気は澱んでいた。酸素がほとんどなく、窒素と二酸化炭素ばかり。これでは生物は生きていけないだろうから。

 そして魔力の反応も微々たるもので、魔法の道具などが稼働している可能性も限りなく小さい。

「でも、この雷魔法の気配だけが濃厚」

「だよな」

 気配を頼りに、暗闇の中を降りていく2人。


 降り立ったところは広いホールのような場所だった。

 周囲を見回してみるゴローとサナ。

「がらんどうだな」

「うん」

 綺麗さっぱり、何もない。あるのは床に積もった埃くらいだ。

「片付けたあとみたいだ」

 ホールの先に扉があったので、

「行ってみるか?」

 と聞くと、サナは無言で頷いた。

 そこで2人はその扉へ向かう。

 すると、

「……他にも扉がある」

 サナが右手方向を指差した。

「確かに、あれも扉だな」

 ホールの奥には、扉が4つ、4メル()程の距離をおいて並んでいたのである。

「開けてみるか?」

「当然」

 ということなので、向かって右の扉から順に開けてみることにする。

「いいか、開けるぞ」

「うん」


 ゴローがドアの影になるような体勢でそっと扉を開け、すぐに閉める。

 サナは十分な警戒をしつつ扉の向こうを観察する。

 と、こういう手順を決めた。


 人造生命(ホムンクルス)の動体視力なら1秒足らずでも十分観察できるのだ。

 そして、1番右の扉の奥。……からの部屋だった。

 右から2番目の扉の奥もからであった。

 3番目の扉の奥もから


「うーん、この施設は、過去に何度も探索されて、めぼしい物はみんな持ち出されたんじゃないのかな?」

「その可能性は否定できない。でも最後の扉が残ってる」

 ともかく、全部の扉の奥を確認しようと、1番左の扉を開けると……。

「何か、あった」

「よし、もう1度」

「うん」

 再度扉を開け、すぐに閉める。

 そして危険はないことを確認した上で、もう1度扉を開き、今度はそのままにしておく。

 1分過ぎても何の変化も起きないので、ゴローとサナは扉をくぐった。


 そこは12畳くらいの広さの部屋で、突き当たりから僅かな魔力反応が感じられた。そして雷魔法の気配も。

 それは直径1メル()、高さ3メル()程の円柱だった。

 それから雷魔法の気配、つまり『電気』が感じられるのだ。

「ここが気配の元らしい」

「うん、確かに」

 そしてゴローはそっと円柱に触れ、調べてみる。

「うーん、間違いなく雷魔法の属性を持っているよなあ。ひょっとするとこれ……電池か?」


 ゴローはその円柱が電池ではないかと考えた。それも充電式の。

(電圧が低いから雷魔法としての反応が低いんじゃないかな)

 そう考えながら、円柱を調べていく。

 側面に何か文字が書かれているが、ゴローには読めなかった。

「サナ、これってなんて書いてあるんだろう?」

「どれ?」

 ゴローはサナに文字を見せた。

「『弱い雷を蓄えるうつわ』、って書いてある」

「それって電池だよな……あとは?」

「ええと……錆で汚れていて、読めない。かなり古いものみたい」

「そうだよな」

 施設というより遺跡に近いな、とゴローは思った。

「4000年以上経っている可能性が大」

「そ、そんなにか」

「この文字は古代文字。遙か昔に栄えたと言われている文明で使われていた、らしい。ハカセにそう教わった」

 黄河文明とかインダス文明みたいなものか……と頭に浮かんだゴローは、またしてもその出所に疑問を持つが、

「その間、きっと大勢の者がここを訪れて、めぼしいものを持ち去ったのだと、思う」

「なるほど」

 サナの言うとおりかもしれない、とゴローは思った。

 なにしろ、ガラクタさえ見つからない程がらんどうなのだ。

 目にするものといえば埃、ゴミ、何かの破片、欠片のみ。

 そんな中で『電池』あるいは『バッテリー』かもしれない円柱は貴重だった。

「でも持っていけそうもないしな」

「うん」

 もう1度部屋の中を見回し、本当に何もないことを確認。

「だがこれは……」

 赤茶けた粉のようなものが部屋の一角に山のようにあった。

「酸化鉄……か。だから、内部の酸素がなくなったのかなあ」


 鉄が酸素と化合するとできるのが酸化鉄だ。

 通常よく見られるのはFe2O3、 酸化鉄(Ⅲ)と呼ばれるもの。通称を赤錆という。

 水分と酸素がある場所に鉄を放置しておくとこれになる。

 ちなみに、鉄はかなり酸化しやすい物質である。台所にあるスチールウールは、ガスレンジなどで火を着けると燃えるほどだ。

 塊だと酸素と接触する面積が不足しているので燃えないだけである。


 とにかく、内部の酸素がほとんどなくなっていたため、この『電池(仮)』は辛うじて原形を保っていたらしい。

 それどころか、周りの魔法的な要素……マナ(外魔素)を取り込んで、今でも僅かながら帯電しているようだ。つまり、発電機能付きの電池ということになる。

 イメージとしてはソーラーセル付きのバッテリーだ。


「うーん……構造がわからない」

「……私も」

 ゴローとサナはその構造を調べようとしたが、円柱を壊さずに調べるのは限界があって、原理を理解するには至らなかった。

「多分に推測になるけど、雷魔法を『ゆっくり』発生させることで電圧を下げ、電流を増やしているんじゃないのかなあ」

 横軸に時間、縦軸に電圧というグラフにしたとき、雷魔法は横軸つまり発生時間が極小で電圧が極大な、『インパルス』で表され、この『電池(仮)』は底辺(横軸)が非常に長く、縦軸(高さ)が非常に低い台形で表されるんじゃないかとゴローは想像してみた。

 それが正しいかどうか確かめる術はないし、ハカセ譲りのサナの知識にもない技術と来ては、これ以上何もできることはなさそうだった。


「……じゃあ、外に出るか」

「うん」

 部屋を出る前に、ゴローはもう一度『電池(仮)』を振り返った。

 そしてうっかり『錆』の山に足を踏み入れてしまう。

「あ」

 ザリッとした踏み心地の中、カツンとした感触があった。

「うん? 何か……」

 気になったので赤錆の山に手を突っ込んで、その『何か』を取り出してみると……。

「ナイフ?」

 刃渡り6セル(cm)程しかない、小さな折り畳みナイフだった。

肥後守ひごのかみに似てるな)


 肥後守とは、日本式の折り畳みナイフである。

 その昔は鉛筆を削ったり竹とんぼを作ったりと、少年の愛用刃物だった……らしい。


 とにかく、それとよく似たナイフが出てきたのである。

「赤錆の中に埋もれていたのに、錆びていないな」


 錆びにくいといわれるステンレスも、『もらい錆』と言って、鉄の赤錆と接触していると錆が移ってしまうのだ。

 ステンレス製の流しに鉄の空き缶を長時間放置するのは厳禁である。


「ちょっと見せて」

 とサナが言うので、ゴローはナイフを手渡した。

 サナはナイフの柄と刃をじっくりと眺めた後、ゴローに返す。

「……柄に魔力回路が刻まれているのがわかった。でも、どんな効果があるのかわからない」

「魔力回路?」

「そう。魔力を流すと、ナイフが何か反応するはず」

「おお、やってみてもいいかな?」

「どんな効果があるかわからないから、外でやることをお勧めする」

「わかった」


 ということで、収穫はナイフ1丁。

「おお、外はやっぱりいいなあ」

 呼吸をしなくていいとはいえ、澱んだ空気というものはゴローとサナにとっても不快である。

 また、暗闇の中での視界確保は主に赤外線を使うため、色の判別がしづらいのである。

 その点、外の世界は極彩色で爽やかな空気に包まれていた。


「おお、綺麗なナイフだな」

 刃は鈍い銀色で柄はくすんだ金色。

「これに魔力を流してみればいいのか」

「うん」

 ゴローはさっそく試してみることにした。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月18日(木)14:00の予定です。


 20190716 修正

(旧)下り立ったところは広いホールのような場所だった。

(新)降り立ったところは広いホールのような場所だった。

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