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04-61 旅行16日目 その4 送別の宴

 食堂の椅子に座ったゴローが、


「……料理が来ないな」

「……うん」


 と、サナと顔を見合わせていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ゴローさん、サナさん!」

「あ、ティルダ」


 そう、塗師ぬしミユウに短期弟子入りしていたティルダである。


「なんだか久しぶりだな。元気だったか?」

「はいなのです」

「漆塗り、覚えた?」

「はいなのです!」


 元気な答えに、ゴローとサナの顔もほころんだ。


「師匠も一緒なのですよ」

「へえ」


 見れば、和服っぽい衣装に身を包んだ、ヒューマンと狐獣人のハーフ、ミユウがやって来た。


「こんばんは。お招きにあずかり、やって来たよ」

「お久しぶりです」


「ミユウ様は、こちらへ」


 侍女がミユウを席へと案内した。


「……ええと、どういうことなんだろう?」


 面食らったゴローが思わず呟くと、


「ゴロー、察しが悪い」


 とサナに言われてしまった。


〈……どういうことだ?〉

〈……本気で、言ってる?〉

〈……うん〉

〈…………はあ〉

〈おい〉


 わかっていない様子のゴローに、器用にも『念話』でため息をついてからサナは説明を始めた。


〈……今夜は、ジャンガル王国で過ごす最後の夜〉

〈うん〉

〈……なら、わかるでしょ?〉

〈ええと………………あ、送別会か!〉

〈そう。やっとわかった?〉

〈何も聞いてないぞ?〉

〈普通は察する〉

〈そういうものか?〉

〈そういうもの。……ほら〉

〈え? ……あ〉


「おお、もう来ておったか」


 ローザンヌ王女、クリフォード王子、モーガンらがやって来たのである。

 彼らが席についてすぐ、


「女王陛下がお見えになります!」


 との口上が響いた。


「おおゴロー、サナ、ローザンヌ殿下、クリフォード殿下、モーガン殿、さっきぶりじゃのう」


 正装に着替えたゾラ女王がやって来た。銀色に輝く九尾を隠すことなく歩いてくるその姿は一国の女王としての威厳たっぷりだ。

 その横には、やはり正装のリラータ姫が。


「ゴローは、あまり派手なうたげは好みではないというので、宮殿ではなくこちらで送別会をさせてもらうぞ」

「え……あ、ありがとうございます?」


 まさか自分のためにこうなったとは思っていなかったゴローは、少々面食らっていた。


〈ゴローは、この国ではかなりの重要人物。その意向を酌んでくれるくらいには〉

〈……な、なんか悪い気がする〉

〈そう思ったら、もう少し社交性を身につけるべき〉

〈……けっこう人当たりはいいと思うんだがなあ〉

〈そういうことじゃない。こうした、社交界の雰囲気にもっと慣れたほうがいい〉

〈…………わかったよ〉

〈ほんとに?〉

〈……努力する〉

〈うん、今はそれでいい。いざとなったら姉の私に頼って〉

〈……うん〉


 久しぶりに姉貴風を吹かすサナに、ゴローは苦笑しつつも頷いたのであった。


 そして、食堂はたちまちのうちにうたげの場へと早変わりしていた。


「ルーペス王国とジャンガル王国の友好に、乾杯!」

「両国の友好に、乾杯!」

「乾杯!」


 女王ゾラの音頭で乾杯が行われる。

 ローザンヌ王女がそれに和し、続いて全員がグラスを掲げたのだった。


 並べられた料理は様々なもの。

 ゴローの目には洋風和風色とりどり。

 ちらし寿司があるかと思えばグラタンのようなものもあるし、味噌汁の隣にはシチューが並んでいる。

 焼き魚とムニエル、サラダとおひたし……。


 よく言えば国際的、悪く言えばカオスか。


 それでも味は絶品揃いで、全員が舌鼓を打っている。


「ゴロー、サナ、こたびは娘共々、随分と世話になったのう」


 しみじみとした声で女王が言う。


「ほんにのう。……また来てくれるかや?」


 リラータ姫も名残惜しそうだ。


「はい、機会がありましたら、是非」

「うむうむ、外交辞令でなく、また来てたもう」


 ゴローとしても、醤油、味噌、畳など、欲しいものがたくさんあるジャンガル王国には、また来たいと思っている。


 そして女王はローザンヌ王女らにも親しく声を掛ける。


「王女殿下、王子殿下、お2人にも、また来ていただきたいものじゃ」

「はい陛下、両国の友好のためにも、是非」

「姫殿下にも、またルーペス王国にいらしていただきたいですね」

「うむうむ、ありがとう」


 王家同士の語らいは親しさのこもったものであった。


*   *   *


「モーガンさんもお役目ご苦労さまでした」


 ゴローはモーガンにお酌をしながら苦労をねぎらう。


「うむ、ありがとう。だがまだ帰路が残っているがな」

「それもそうですね」

「ほれ、ゴローも飲め」

「あ、どうも」


 ゴローとモーガンが酒を酌み交わしている横では、サナがティルダに色々聞いていた。


「ティルダ、いい勉強になった?」

「はいなのです。お師匠様には一方ならぬお世話になったのです」


 しかし当のミユウは首を横に振った。


「なんのなんの。ティルダは優秀な弟子だったよ。短い間だったけど、楽しかったさ」

「ひととおり習ったの?」

「はいなのです。漆の基礎から、き漆、塗立ぬりたて呂色ろいろ蒔絵まきえ沈金ちんきん螺鈿らでん、色漆などを習いましたです」

「期間が短いからざっとだったけど、基本はおさえたと思うよ。だからあとは自分で昇華させていっておくれ」

「はいなのです!」

「……いつか、できたらでいいから、あんたの作品を見せに来ておくれ」

「わかりましたのです、きっと!」


 そのやり取りを見て、ああ、いい師弟だったのだな、とサナは思ったのである。


「陛下に頼まれた、かんざしだっけ? できたら、持ってこないとね」

「はいなのです! 頑張るのですよ!」


 久しぶりに元気なティルダの声が聞けて、サナもなんとなくほっこりしたのである。


*   *   *


 一方、ネアとルナール。


「……ルナール、この先、ほんとに大丈夫?」

「大丈夫だよ。俺もどうかしていたぜ」

「ほんとよ。まったく、私がどれだけ心配したか……」

「……済まねえ」

「……うーん、私も陛下にお願いして、もう一度ルーペス王国へ行こうかな……」

「え? お前、それって……」

「あ、か、勘違いしないでよね? あなたのことが心配なんじゃなくて………………そうよ、心配だからよっ!」

「ネア……」


「はいはい、そのくらいにしなさいね」

「ラナ、さん……」

「ルナール、ちゃんとゴロー様、サナ様にお仕えしなさいよ?」

「はい……」

「ネアさん、ルナールの邪魔はしないようにね?」

「はい……」


 リラータ姫付きの女官ラナに忠告され、ルナールとネアは役目に戻っていったのである。


*   *   *


 うたげは和やかに進み、夜は更けていく。


 ジャンガル王国の空には満天の星が瞬いていた。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は10月8日(木)14:00の予定です。


 20201004 修正

(誤)まさか自分のためにこうなたとは思っていなかったゴローは、少々面食らっていた。

(正)まさか自分のためにこうなったとは思っていなかったゴローは、少々面食らっていた。


 20201011 修正

(誤)正装に着替えたゾラ王女がやって来た。

(正)正装に着替えたゾラ女王がやって来た。


 20220702 修正

(誤)「こんばんは。お招きに預かり、やって来たよ」

(正)「こんばんは。お招きにあずかり、やって来たよ」

(旧)その意向を汲んでくれるくらいには〉

(新)その意向を酌んでくれるくらいには〉

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信ありがとうございます。 質問の説明が不足していました。 3-19にて蜂蜜酒がジャンガル王国への手土産になる事を確認していたので、 ジャンガル王国に紹介したんでしたっけ?と言う意味でした。…
[気になる点] そう言えば、 蜂蜜酒の紹介ってどこかの話でしてましたっけ?
[気になる点] >「ゴロー、察しが悪い」 >〈普通は察する〉 ある意味で、女王様本人よりも偉い人の予定を聞かずに、勝手をするのはいかがなものか?と思います。 もっというと、本人が望んでいるのかどうか…
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