01-04 寄り道
遙か南にあるという『シクトマ』の町を目指し、ゴローとサナは南下を続けていた……が。
「……何だ? この感じ」
半日ほど進んだあと、ゴローはおかしな感覚を覚えて立ち止まった。
「何?」
サナには何も感じられないようで、不思議そうにゴローを見た。
「魔力は感じられない、けど」
「いや、この感じ……魔力じゃない。何だろう?」
道から90度左、つまり東に逸れ、ゴローは歩き出した。
「そっち?」
「うん。何か気になるんだ」
「わかった。付き合う」
ゴローとサナには道なき道も問題にはならない。岩を乗り越え、藪をかきわけて進んでいく。
「……この下に、何かある」
500メルほど進んだあと、ゴローは足下から『何か』を感じた。
「……やっぱり、わからない」
しかし、サナには何も感じられないようだ。
「うーん……とりあえず、ここを少し掘ってみよう」
「わかった。……土属性の魔法を使うと、簡単」
「土属性か……ひととおりは教わったな」
「うん。実習がてら、使ってみて」
「よっしゃ。……ええと、『土』『掘る』」
地面に直径1メル、深さ1メル程の穴が空いた。
この魔法は『土壌』にのみ効果があるので、含まれている石や木の根はそのままになるのが特徴だ。
つまり、地中に『何か』が埋まっていた場合、傷つけずに掘り出せるのである。
……石や木の根は手でどかす必要があるが。
で、ゴローがえっさかほいさかと穴の中から石ころをどけていると、サナが呆れた声を出した。
「……そういうときは風属性魔法を使えばいい」
「あ、そうか」
「……慣れて。……『竜巻』『起きろ』」
サナの詠唱により、小規模な竜巻が生じ、穴の中の瓦礫類が巻き上げられた。
「うわっ! ……ぺっぺっ」
「……ごめんなさい」
風下側にいたゴローは瓦礫の一部をかぶってしまった。
「ひでえな」
「だから、ごめんなさい」
済まなそうな顔でサナは頭を下げ……。
「あ。あれ、なに?」
穴の底に何かを見つけたようだ。
「……ケーブル、かな?」
直径10セルくらいの黒いケーブルらしきものが土から覗いていた。
どうせ汚れついでだとゴローは穴の中に飛び込み、手で掘り出してみる。
「……やっぱりケーブルだな」
ゴローには、これが『ケーブル』と呼ばれるものだとなぜか『わかった』。
「だが、ここで破断しているな。……元は……向こうか」
ゴローたちが来た方向とは反対側から、ケーブルが来ているようだ。
それをサナに言うと、
「……来た方に、じゃないのは何で?」
という質問が出てきた。ある意味当然だろう。
「なんとなくだけど、このケーブルの向こう側の方が、『濃い』感じがするんだよな」
魔力で例えるなら『濃い』。水の流れでいうなら『上流』。
ゴローはそう説明した。
「わかった。……行ってみる?」
「サナがいいなら」
「もちろん、構わない」
急ぐ旅でもないし、とサナは答えた。
それで2人はさらに東へと向かった。
再び藪をかき分け、岩を乗り越え、さらには小さな川を飛び越したりして進むこと2時間。
「……私にも、感じ取れるようになってきた」
地中を這っているケーブルに通じている『何か』を、サナも感じ取れるようになったと言った。
「これ、雷魔法にちょっと似てる」
「ああ、そうか……」
ゴローは『何か』が『電気』らしいことに思い当たった。
「サナ、『雷属性魔法』の気配はしないか?」
それで、同じ『電気』であるはずの雷属性魔法になぞらえてみた。
「……あ、確かに。でも、ほんの、わずか」
おそらく電圧が低いから、気配が僅かなのではないかとゴローは推測する。
(雷だったら数千万から数億ボルトだろうしな……って、またか)
謎知識が頭に浮かび、面食らうゴローだったが、今はそれどころではないと、
「あともう少しらしい」
とサナに告げた。
「ん、感じてる」
雷属性魔法の探知をすればいいと悟ったサナにも、目的地らしき場所は特定できたようだった。
そこは、雷属性魔法の気配がやや高い場所。つまり『電気』が『溜まっている』場所らしい。
さらに進むこと5分。
「どうやらここらしいな」
「うん、間違いないと思う」
2人の目の前には、大岩が屹立していた。
「この地下に、目的地がある」
「わかってる。……『土』『掘る』『深く』」
大岩の根元に、直径2メル、深さ2メル程の穴が空いた。
「まだ足りない? もう一度『土』『掘る』『深く』!」
穴の直径は3メル程になり、深さも3メル程になった。
「お、何かあるな。……『竜巻』『起きろ』!」
今度はゴローが小さな竜巻を起こして土砂を取り除いた。
「あれ、見て」
「う、うん」
そして、その穴の底にはマンホールのような錆びた扉があったのである。
「これって、昔は地上にあったのが、長い年月の間に埋まったのかな?」
「わからない。けど、それで一応説明は付く」
とにかく中を見てみようとサナはマンホールの蓋のような扉に手を掛けようとしたので、ゴローは慌ててそれを止めた。
「待て待て待て。中が安全かどうかわからないぞ」
「うん。中に生き物の気配はない。魔力反応も僅か。だから、これを開けるのに不都合はないと判断する」
が、ゴローは否定した。
「不足だ。その扉に保安措置がないという保証はないだろう?」
「でも、魔法の気配はない。だから罠はないと思う」
「魔法以外の罠があるかも知れないぞ?」
サナの反論を、ゴローは簡単に論破した。
「魔法以外の、罠?」
「そうだ。……蓋……扉を開けると落とし穴が開くとか、爆発するとか、高圧電流が流れるとか」
「……落とし穴は嫌。爆発も嫌い」
「だろう?」
「で、『高圧電流』っていうのは、強い雷魔法、でいい?」
「ああ、だいたいその認識でいい」
サナに答えながら、ゴローは土属性魔法で扉周辺を調べてみた。
「『地中』『調べる』……『地中』『調べる』……大丈夫そうだな」
地中の異物を調べる魔法である。
特にこれといった異物……機械とか仕掛けとか、魔法陣を刻んだ石板とか……は見あたらなかった。
「開けていい?」
サナは中が気になるようだ。
「うーん……」
ゴローは考えた。
本来の旅の目的とは違うのだから、ここで引き返してもよかったのだが、やはり好奇心が勝った。
「開けてみようか。ただし、気を付けてな?」
「うん」
サナはマンホールの蓋のような扉に付いていた取っ手に手を掛け、ぐいっと引っ張った。
錆び付いていたのか、バリッ、あるいはミシッ、という様な音を立てて蓋が持ち上がった。
ゴローは身構えたが、何ごとも起こらない。
「中、真っ暗」
覗き込んだサナが言う。
「生物の気配はない。魔力もほとんど感じられない」
サナにそうまで言われたゴローは、『好奇心は猫を殺す』という言葉が頭をよぎった。
(元はイギリスのことわざらしいな……って、そうじゃなく)
が、結局ことわざどおり? 好奇心には敵わなかったゴローであった。
「……よし、行ってみるか……」
「うん」
そういうわけでゴローとサナは、中へ入ってみることにしたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月16日(火)14:00の予定です。
20190714 修正
(誤)サナには何も感じられない用で、不思議そうにゴローを見た。
(正)サナには何も感じられないようで、不思議そうにゴローを見た。
(誤)穴の直径は3メル程になり、深さもメル程になった。
(正)穴の直径は3メル程になり、深さも3メル程になった。