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04-55 旅行15日目 その1 叙爵

 何事もなく日付は変わり、叙爵式の朝となる。

 ゴローとサナは再び白のひとえに袴姿となり、馬車で王宮へと向かった。

 前回同様、ゴローは浅葱あさぎ色、サナは朱色の袴だ。


「よろしいですか、ゴロー様、サナ様。殿上でんじょうに上がりましたら、それぞれ補佐役の者が付きますので、その者の指示に従ってくだされば大丈夫です」


 同乗したラナが説明してくれる。

 どうやら簡素な式典となるようで、ゴローはほっとしていた。

 一方、サナは落ち着いたもの。


〈サナは落ち着いてるな。こういう経験があるのか?〉

〈……わからない。でも、遠い昔の記憶があるような、ないような〉

〈そうか……〉

〈うん〉


 サナはその昔、『古城』にいた『レイス』だったという。

 彼女には、自分に関する記憶がほとんどなく、自分が誰なのか、何故古城にいたのか、思い出せないということだった。


〈サナはそんな自分の過去が気にならないのか?〉

〈……少しは、気になる。でも、過去は過去。知ったところで今の私が変わるとは思えない〉

〈そういうものかな?〉

〈そういうもの〉


 ゴローとしては、自分の前世がどういうものだったのか、気になっている。

 『若い』(スピリチュアル体)だった、とは聞いている。

 つまり(スピリチュアル体)になって間がない、ということなのだろう。


(だけど、それを知ってどうなるものでもない。それはわかっているけどな……)


 過去は過去。変えることはできない。

 

(それでも気になるものは気になるんだよな)


 そんなことを考えているうちに、馬車はスギ並木を通り、センボントリーを抜け、宮殿前に到着。

 そこから徒歩で砂利を踏み、宮殿へと向かうのも祭礼のときと同じだ。

 殿上には、これまた祭礼のときと同じように白いひとえに白い袴を穿いた狐獣人の女官が待っており、ゴローとサナを席に案内してくれた。


 折りたたみ式の椅子(床几しょうぎ)に座ると、ゴローには男性の、サナには女性の介添かいぞえ役が付いた。


「このままお待ちください。まもなく陛下がおいでになります」


 と言われたので黙って待つこと10分。

 まず数名の獣人(ビーストマン)が入ってきて、ゴローたちと対面に当たる位置に腰を下ろした。

 彼らは国の重鎮らしい。

 次いで、ローザンヌ王女、クリフォード王子、そしてモーガンが入ってきて、来賓にあたるであろう場所に腰掛けた。

 最後にやって来たのが女王ゾラである。

 女王は一段高い壇上に立ち、よく通る声で一同に告げた。


「皆の者、よく集まってくれた。そしてお客人、ご足労をおかけした。本日は我が友ゴローとサナを、我が国の名誉男爵、名誉女男爵(おんなだんしゃく)に叙することとなる」


 続いて女王はゴローとサナの功績をつらつらと述べていった。

 ゴローは、神饌しんせんとしても有効な『いなり寿司』や『ちらし寿司』。忙しい時の軽食として、また特産物である米と醤油の有効活用である『焼きおにぎり』のレシピを伝えてくれたこと。

 祭礼を潰そうと放たれた刺客を捕らえ、ゴーレムまでも倒した。

 サナはこの国に『大精霊』である『木の精(ドリュアス)』である『ヴィリデ』をもたらしてくれた。


「よって、ルーペス王国への感謝とともに、2人に名誉男爵、名誉女男爵(おんなだんしゃく)の爵位を授けるものとする」


 パチパチ、と列席者から拍手が起こった。

 出席者が少ないので拍手もおとなしいものだ。

 蛇足ながら、『治癒魔法の伝授』という功績に触れられていないのは、教会関係者から少しでもサナを守るため、関係者には箝口令を敷いているからである。


(ゴロー様、お立ちになって前へお進みください)

(サナ様、お立ちになって前へお進みください)


 介添かいぞえ役の言葉に従い、2人は立ち上がって女王の前へと進んだ。介添かいぞえ役はその後ろに付いている。


(どうぞ、深く一礼を)


 言葉に従い、最敬礼を行うゴローとサナ。


(陛下からお言葉がございます。そうしたら……)


「ゴロー、貴殿は我がジャンガル王国に多大なる貢献をしてくれた。よって、その功績を讃え、かつルーペス王国への感謝を込め、ここに名誉男爵の位を授けるものである」


 白銀色の『しゃく』がゴローに贈られる。


(うやうやしくお受け取りください)

「は、光栄にございます」


 介添かいぞえ役に言われたとおり、受け取った後には口上を述べ、深々と頭を下げるゴロー。

 サナもまた、同じような言葉を掛けられ、同じような『しゃく』を受け取るとこうべを垂れた。


「これよりゴローは『ゴロー・サヴァナ』、サナは『サナ・サヴァナ』と名乗るがよい」

「ありがたき幸せ」

「ありがたき幸せ」


 再び拍手が起きた。

 そして2人はゆっくりと後ずさり、席に着いたのである。


「さて、ここにめでたく名誉貴族が2名誕生したわけであるが」


 女王ゾラは上機嫌で語り始めた。


「このようによき客人を迎えられたのは幸いである。ローザンヌ王女殿下、クリフォード王子殿下、そしてモーガン閣下に、両国の友好の記念として宝物を授けたい」


 3人が席から立ち上がって女王の前へと進み、またも拍手が湧いた。


(引き続きの儀礼です。拍手をお願いします)


 ゴローとサナは聞いていなかったが、この場を用い、ローザンヌ王女たちにも感謝を表すため記念品の贈呈が行われるようだ、とゴローは察した。


「ローザンヌ王女殿下には宝鏡を」


 ローザンヌ王女には鏡が贈られた。


「クリフォード王子殿下には腕輪を」


 翡翠色の腕輪がクリフォード王子に贈られた。


「モーガン閣下には短剣を」


 黄金こがね造りの短剣がモーガンに贈られた。


 3人が深く礼をすると、拍手が贈られる、ゴローたちも一緒に拍手を行った。


「これにて、本日の儀礼は終わりとする。皆の者、出席ご苦労であった。お客人方には感謝を」


 そして女王は退出していった。


(終わりました。お楽になさってください)


 と介添かいぞえ役に告げられ、ほっとするゴロー。

 そしてあらためて手にした『しゃく』を見つめる。

 銀製で、長さは30セル(cm)、厚みは2ミル(mm)くらいである。

 最大幅は5セル(cm)ほどで、先端がやや幅広、手元に行くにつれ狭くなって3セル(cm)くらいになる。

 そして両端は丸く整形されている。


 名誉貴族は銀色、一般貴族は金色なのだと介添かいぞえ役がそっと教えてくれた。


 そして再び馬車に案内され、宮殿を後にしたのである。


*   *   *


 迎賓館に戻るわけだが、名誉貴族となったゴローとサナなので、これまでの第2迎賓館ではなく第1迎賓館へと案内された。


「ゴロー、サナ、おめでとう。私も鼻が高いぞ」


 ロビーにはローザンヌ王女が待っていて、2人にお祝いの言葉を述べた。


「私が知る限り、ここ100年くらい、ルーペス王国の者がジャンガル王国の名誉貴族になったという話は聞かぬ。ゆえに2人は我がルーペス王国にとっても誇りだ」

「えっと、恐縮です?」

「ありがとうございます。とても名誉なことでした」


 本当に恐縮してしまうゴローに対し、サナは毅然としていた。

 やっぱり前世でこういうのは慣れているのかな、と思ったゴローである。


*   *   *


 さて、時間もそろそろ正午になるということで昼食となった。

 今回は食堂で、全員顔を合わせての食事となる。


 献立は珍しくパン系。

 干しぶどうを練り込んで焼いたぶどうパン(コッペパン型)、コンソメ系のスープ、ハムエッグ、フルーツサラダ。

 ちょっと朝食っぽいな、と思ったゴローである。


 それでも、ほぼ毎日お米系の献立だったので、ゴロー以外の面々は久しぶりの洋食(?)に舌鼓を打っていたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月17日(木)14:00の予定です。


 20200913 修正

(誤)そんなことをかんがえているうちに、馬車はスギ並木を通り、センボントリーを抜け、宮殿前に到着。

(正)そんなことを考えているうちに、馬車はスギ並木を通り、センボントリーを抜け、宮殿前に到着。


 20200918 修正

(旧)

 出席者が少ないので拍手もおとなしいものだ。

(新)

 出席者が少ないので拍手もおとなしいものだ。

 蛇足ながら、『治癒魔法の伝授』という功績に触れられていないのは、教会関係者から少しでもサナを守るため、関係者には箝口令を敷いているからである。


 20200920 修正

(誤)手元に行くにつれ狭くなって3ミル(mm)くらいになる。

(正)手元に行くにつれ狭くなって3セル(cm)くらいになる。

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― 新着の感想 ―
[一言]  サナはこの国に『大精霊』である『木の精ドリュアス』である『ヴィリデ』をもたらしてくれた。 ↑ 治癒魔法を教授したのが功績に含まれてないのは、現在なジャンガル公式には機密扱いになったんでしょ…
[一言] やっぱ、サナっちどっかの王侯貴族だったんだろうなー そんでもって、国中の甘いものを食い散らかして、危険人物として軟禁されたとかしたんだ サ「甘いものに限ってたなら、まだまだ青いよね」 三「…
[一言] アキラ「ゴローくん叙爵おめでとう」 ゴロー「どうもありがとうございます。と言うか、アキラさんも男爵じゃないですか。大体同じ時期に叙爵しましたね」 アキラ「作者が同時期に連載しているから、展開…
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