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04-51 旅行13日目 その4

 『木の精(ドリュアス)』のフロロ、その『分体(ブランチ)』が宿る苗。

 持ってきた時は20セル(cm)くらいだったものが、今や1メル()ほどにも成長していたことに驚くゴローとサナ。


「……確か、最後に見た時……一昨日おととい? 宮城へ行く前は25セル(cm)くらいだった気がする」


 サナが言った。

 つまり、一気に育ったということだ。


「……あーっ! やっと帰ってきたわね!!」


 『木の精(ドリュアス)』のフロロ、その『分体(ブランチ)』が現れた。

 こちらも、苗同様に大きくなっていた。今は大体身長40センチくらいもある。


「あたしをほったらかして何やってたのよ? 水だってロクにくれないし。おかげで自分で調達しに行ったりしてたのよ?」

「ご、ごめん……実は……」


 ご機嫌斜めのフロロ(の分体(ブランチ))に、ゴローはこれまであったことを簡単に説明した。


「ふんふん。ふーん……ああ、それでか……」


 それを聞いて、なんだか1人納得するフロロ(の分体(ブランチ))。


「何か心当たりでもあったの?」


 サナが尋ねると、フロロ(の分体(ブランチ))は頷いた。


一昨日おとといの晩、急にあたりの精霊がにぎやかになったかと思ったら、力が湧いてきたのよね。その話を聞いて納得したわ」

「ええと、つまり、女王陛下が行った『儀式』の時に空間が光っているかのように錯覚するほど精霊が活性化していたんだが、その影響だ、というわけだな?」

「うん、ゴロちんのでだいたいあってる」

「……」


 あの祭礼にそんな副次効果が……と改めて思うゴローとサナ。


「あ、もしかしてマリーも……」


 ふと気が付いて、『屋敷妖精(キキモラ)』のマリーの『分体(クローン)』を呼び出すゴロー。


「お呼びですか、ゴロー様」

「あ……やっぱり」


 『屋敷妖精(キキモラ)』のマリー(の分体(クローン))もまた、成長していたのだった。

 今の身長は30センチくらいもある。


「……マリーも大きくなったな」

「はい。一昨日おとといの晩、急に力がみなぎりまして」

「やっぱりか……」

「何かあったのでしょうか」

「実はな……」


 そしてゴローは、何が行われたか、先程フロロにした話より、もう少し詳しく説明したのである。


「……ふうん、そんなことがあったのね」

「この国は、精霊と相性がいい土地にあるようです」


 フロロとマリーはそれぞれの感想を口にした。


「精霊と相性がいいのか……気脈だっけ?」

「そうそう、それよ。ここくらいに太いと『龍脈りゅうみゃく』って呼ぶ人もいるけどね」


 気脈が大地を走る星の血管だとしたら、この国に走っているのは大動脈になるのかな……とゴローは想像してみた。


「それを、ここの女王様は活性化して、国の守りに使っているのね。……会ってみたいかも」

「会ってどうするんだ?」

「うーんと、もしよかったら、この国に根を下ろしたいな、って」

「え……」


 それはフロロがこの国を気に入ったらしいということで、少し複雑な気持ちになったゴローである。


「あのね、一言言っておくと、この苗、もうちょっとで一人前になっちゃうからね?」


 ゴローの気持ちを察したのか、フロロが理由の説明をしてくれる。


「まさかこんなに一気に成長すると思わなかったしね。このままじゃ、多分帰る途中で一人前になるわ」

「なったらどうなるんだ? 何か悪いことが?」

「別に悪いことは何もないけど、人格ができあがるのよ」

「人格?」

「つまり、別人格になる、ということ?」

「そうそう、サナちんの言うとおり。別人格……別精格? まあ言いにくいから別人格にしましょう。つまり、戻ってもあたしの本体にはもう戻らないわけよ」

「ははあ、なるほど」


 つまり『木の精(ドリュアス)』がもう1体生まれるわけだ。


「もちろん、あの屋敷に植えてもらってもいいけど、この国もなかなかいいところみたいだからね」


 だから、文字どおりこの国に根を下ろしたい、とフロロ(の分体(ブランチ))は言うのだった。


*   *   *


「……と、いうわけなんだ」


 とりあえず、ゴローとサナは世話役のラナに話をしてみることにしたのである。


「そ、それは本当ですか!? 『木の精(ドリュアス)』様が?」

「あー、うん」


 普段は冷静なラナが、取り乱すほどに驚いているので、ゴローは少し引いていた。


「で、では、取り急ぎ陛下にお知らせしてまいります!」


 そう言うが早いか、彼女は迎賓館を飛び出していったのである。


「……すごい勢いだったな」

「うん。……どうやら、獣人国にとって精霊は特別な存在……というかあがめるものらしい」

「だなあ」


 獣人国での精霊の扱いが少しわかってきた気がするゴローとサナであった。


「……また大事おおごとになるような気がする」

「勘弁してほしいなあ……」


*   *   *


 そしてサナの推測は当たっていた。

 1時間もしないうちに、女王陛下自らが迎賓館にやって来たのである。


「ゴロー、サナ! 本当かや、大精霊様が我が国に根を下ろしてくださるというのは!」

「え、あ、はい」


 女王ゾラの剣幕に目を丸くするゴロー。


「あら、あなたがこの国の女王様?」


 だがフロロ(の分体(ブランチ))はマイペースだ。

 そんなフロロの前に、女王ゾラは畳に手をついて頭を下げた。


「こ、これは、大精霊様! 初めてお目にかかります。(わらわ)はこのジャンガル王国の女王、ゾラ・ウルペス・ジャンガルと申します」

「ああ、堅苦しい挨拶はいいわ。話し方も普通にしてちょうだい」

「は、ははっ! お、恐れ入ります!」


 そんなわけで、女王ゾラは顔を上げ、落ち着いて話をすることになったのである。


「……そういうわけで、この国が気に入ったから、どこかに根を下ろしたいんだけど」

「そう仰られましても、どこがいいやら……」


 大精霊様なのだから適当な土地にお住まいいただくわけにはいかない、と考え込む女王ゾラを見て、ゴローが助言をする。


「でしたら、候補地を案内して回って、気に入った場所に植え付けたらどうでしょう?」


 この考えはフロロ(の分体(ブランチ))も気に入ったようだった。


「あ、ゴロちんの意見、それいいわね。あたしの植木鉢を候補地に運んでちょうだい。そうしたら気に入った土地を教えるわ」

「しかと承りました!」


*   *   *


 とはいえ、もう外は真っ暗になってしまったので、移植場所の選定は明日にすることとなった。


「それでは明日朝8時にお迎えに上がります」


 そう言って女王ゾラは一旦帰っていったのである。


「ゴロー、サナ、大精霊様をお連れしてきてくれたこと、国を代表して感謝する」


 と言い残して……。


*   *   *


「ふう、なんか疲れた」


 怒涛の1日だった、と夕食を終えたゴローは思った。


「ゴローも? 私も」


 どうやらサナも、(精神的に)疲れたらしい。


「そういえば、マリーは大丈夫なのか?」


 夕食後のお茶を給仕してくれていたマリーに、ゴローは聞いてみた。


「はい、わたくしは『屋敷妖精(キキモラ)』ですので、本体から独立することはありません」

「そうなんだな」

「はい。ですので、お屋敷に帰るまで、お世話させていただきます」

「うん、頼むよ」

「はい、ゴロー様」


 慌ただしい1日であったが、ようやく静かになったなあ……と、窓から星空を見上げて、ゴローは微笑みを浮かべたのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は9月3日(木)14:00の予定です。


 20200830 修正

(誤)この考えはフロロ(の分体(ブランチ))の気に入ったようだった。

(正)この考えはフロロ(の分体(ブランチ))も気に入ったようだった。

(誤)気脈とは、大地を走る星の血管だとしたら、

(正)気脈が大地を走る星の血管だとしたら、


(旧)「精霊と相性か……気脈だっけ?」

(新)「精霊と相性がいいのか……気脈だっけ?」

(旧)大精霊様を適当な土地にお住まいいただくわけにはいかない

(新)大精霊様なのだから適当な土地にお住まいいただくわけにはいかない

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― 新着の感想 ―
[一言]  だから、文字どおりこの国に根を下ろしたい、とフロロ(の分体ブランチ)は言うのだった。 ↑ ルーペス王国の本体に旅の思い出を渡す為に分体のうちに分体の分体を作っておかなきゃ(@_@;) 「…
[一言] そういや、お土産に蜂蜜酒をもってきてるんじゃぁ? 米料理、回復魔法、ドリュアス降臨に蜜酒伝授… 絶対にのんびり来訪できないww
[一言] なるほど、株分けみたいなもんですかね しかしこの国に根を下ろすとなると旅をした分体としての記憶はどうなるんでしょうねえ 本体にフィードバックできるんだろうか
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