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04-48 旅行12日目〜13日目

 どだどたどたどたという足音に続き、すぱーん、といい音がしてふすまが開いた。

 やって来たのは女王ゾラ。……とネア、そしてリラータ姫だった。


「サ、サナ、そなたがネアに『治癒魔法』を使えるようにしたというのは本当か!?」

「はい」


 すとん、と畳に座った女王ゾラは、


「ううむ……そんな簡単に『治癒魔法』を会得できるのか……」


 と、嬉しいような悔しいような、複雑そうな顔をした。

 嬉しいのはもちろん、希少な治癒魔法の使い手が増えたことで、悔しいのはそれに気が付かず今日まで来てしまったことであろうか。


「……で、他の者の適性も……その、見てもらえるのか?」

「はい」

「そ、そうか」


 あまりにあっさりとサナが承諾したので少々肩透かしを食らったような顔をする女王ゾラだった。

 サナにしてみれば、『治癒魔法使い』を教会に独占させないという長期計画の第一歩なので、女王の提案は望むところだったりする。


「ですが、今日はこれからゴローに治癒魔法を掛けますので、そうした選定は明日以降にして、ください」

「うむ、もちろんじゃ」


 女王ゾラは上機嫌で頷いた。


「じゃあゴロー、今日最後の治癒。……『治療(サナーレ)』」

「お、おお!」


 いきなりゴローに『治療(サナーレ)』を掛けたサナに驚く女王ゾラたちだったが、治癒魔法に伴う淡い光が収まると、肩で息をする(振りをした)サナがいた。

 そしてゴローは布団の上で上体を起こし、腕を確かめるように動かしている。

 もちろんサナと念話で相談した『演技』だ。


「ほとんどよくなったみたいだ。ありがとう、サナ」

「うん。でもまだ無理しちゃ、駄目」

「わかってるよ。……陛下、姫、ネア、心配お掛けしました」


 ゴローは布団の上に正座し、手をついて綺麗なお辞儀を行った。……が、土の上ではないので『土』下座とはいわないだろう。


「う、うむ、もういいのか?」

「はい。もう、普通に動く分には問題なさそうです」


 立ち上がって見せるゴロー。


「ふむう、『治癒魔法』というものは凄いものだのう」

「ネア、それを覚えたのじゃな? 素晴らしいではないか!」

「は、はい、光栄です」


 もう夕方だったので、ゴローはこの日一日はこの離れを使ってよいということになった。

 迎賓館に移動するのは翌日朝となる。


「マリーやフロロ、どうしているかな……ほったらかしてしまったからなあ……怒っているかな?」

「戻ったら、すぐに呼び出して謝ろう?」


 呼び出しもせず放置しているので気になっているゴローであった。


*   *   *


 夕食は大事を取って『離れ』に運んでもらった。

 今回はネアがお相伴する。


「サナさん、本当にありがとうございました」


 一緒にご飯を食べながら、ネアはサナに礼を言った。


「私たち『獣人(ビーストマン)』の地位向上に役立つと思います」

「それな。……まだ、というか、そんなことで差別している連中って、本当にいるのか?」


 ゴローも気になったので質問する。


「話しづらかったら無理には聞かないが……」

「いえ、お話しします。ゴローさんやサナさんは『けもなー様』と同じく、私たちを差別しない人たちだと信じてますから」

「ありがとう」


 サナが礼を言った。ゴローはというと、お茶を飲みながら、


「だってなあ。……話が通じるし、同じ人間だし。耳も尻尾も素敵じゃないか」


 と呟く。


「ふふ、ありがとうございます」


 今度はネアが礼を言う。


「……サナさん、明日、選定の件、よろしくお願いしますね」

「うん、わかってる。任せて」


 窓の外には夜空が広がり、涼しい風が吹いていた。


*   *   *


 穏やかな夜が明け、静かな朝が来る。


「ああ、今日もいい天気だな」


 障子窓を開けたゴローが、空を見上げて呟いた。


 ふすまがからりと開き、サナが入ってきた。ゴローも回復したので、別の部屋で休んでいたのである。


「ゴロー、起きた?」

「ああ。今起きたところだ」

「じゃ、顔洗いに、行こう?」

「そうだな」


 ゴローとサナは連れ立って手水場ちょうずば(ジャンガル王国では洗面所)へ。

 ここは、冷たい湧き水を引いてきてある。


「冷たくて気持ちいいな」


 口をすすぎ、顔を洗ったゴローは気分的にさっぱりした。何しろ前日は日がな一日布団の上だったからだ。


〈もう普通にしていいよな?〉

〈うん、いいと思う〉


 誰かに聞かれているとまずいので念話で話す2人。


〈で、今日は『治癒魔法使い』の選定だったな〉

〈うん〉

〈……俺にはなにか手伝えないか?〉

〈うーん……そう、ゴローも『治癒魔法』を覚えるといい〉

〈俺にできるかな?〉

〈逆に、どうして、できないと思うの?〉

〈……そっか、できるんだ〉

〈ゴローは『ハカセ』の最高傑作。私にできることは何でもできる、はず〉

〈とはいってもなあ……なかなかそううまくは……〉

〈……私はゴローのお姉さん。そうそう弟に追い抜かれるわけにもいかない〉

〈せいぜい、弟としては頑張りますか〉

〈うん、頑張れ〉


 そして2人は部屋へと戻った。


「おはようございます、ゴローさん、サナさん」

「おはよう、ネア」


 この日の朝食もネアがお相伴だった。

 献立は朝粥、油揚げと豆腐の味噌汁、焼きジャケ(のような魚)、甘い卵焼き、それにお新香と、あっさりめ。


 もう身体は回復したということになっているので、ゴローは普段どおりの量を食べた。

 それを見たネアは安心したように、


「ゴローさん、もうすっかりいいみたいですね。安心しました」

「ああ。おかげさまで。一晩ぐっすり寝たら大分調子がいいよ」

「うん、よかった」


 サナも調子を合わせる。


「それでですね、この後、例の選定ですが、ここではなく、迎賓館の方で行うことになりました」

「うん、わかった。ここを引き払う準備をする」

「俺も一緒に行くよ」


 選定を受ける人数はわからないが、王宮に上がることのできない身分の者もいるのかもしれないな、と横で聞いているゴローは思っていた。


「ゴローさん、すみません」

「なんで謝る?」

「いえ、あと1日くらいこちらでのんびり静養していただいてもよかったのですが」

「なんだ、そんなこと気にしなくていいのに。それに俺も治癒魔法を覚えてみたいし」


 念話での打ち合わせどおりのセリフを言うゴロー。


「え、ゴローさんもですか?」

「ああ。昨日3回も治癒魔法を受けていると、なんとなく使えそうな気がしてきてさ」

「……なんとなくで使えるとは思えませんが……でも、ゴローさんですものね!」


 なんだかよくわからない納得の仕方をしたネアであった。


*   *   *


 そして今までいた『離れ』を引き払い、迎賓館へ移動する。

 元々臨時で『離れ』にいたため、荷物はほとんどない。

 せいぜいが着替えた服と、貰った寝間着くらいのものだ。


 戻った第2迎賓館はなんだか賑わっていた。


「……なんだか人が多いな」

「もしかしてこれ全部が選定を受ける人でしょうか?」


 ゴローとネアが呆れたような声を出す。


「そうらしい。陛下はできるだけ多くの治癒魔法使いを育成したいんだと思う」


 さらりと言ってのけたサナに、ネアは焦った声を掛ける。


「だ、大丈夫なんですか、サナさん? どう見ても20人はいますよ?」

「正確には22人」

「だから、どうしてそんなに落ち着いているんですか? これだけの人数を選定するのって、大変なんじゃ?」


 1人焦るネアに、サナは微笑みかけた。


「大丈夫、心配いらない。ありがとう、ネア」


 集まった人々の中には、リラータ付きの女官ラナもいた。

 そのラナが集まった人々のまとめ役をしているようだ。


「サナ様、本日はご無理を聞いていただき、ありがとうございました。どのように進行したらよろしいでしょうか?」

「うーん……まず、一旦荷物を置いてくる。それから始めたい。どこか、広い部屋を用意してほしい」

「わかりました。大広間を用意いたします」


 そういうことになった。


「じゃ、5分後に」

「はい、よろしくお願いいたします」

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月23日(日)14:00の予定です。


 20200820 修正

(誤)「サナ、それを覚えたのじゃな? 素晴らしいではないか!」

(正)「ネア、それを覚えたのじゃな? 素晴らしいではないか!」

(誤)「……で、他の者の適正も……その、見てもらえるのか?」

(正)「……で、他の者の適性も……その、見てもらえるのか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ふむう、『治癒魔法』というものは凄いものだのう」 「ネア、それを覚えたのじゃな? 素晴らしいではないか!」 「は、はい、光栄です」 リラータ姫も治癒魔法を使えるのに大げさだな。 九尾で…
[一言] 治癒魔法が使える人が限られると、やたらボッタくられますからねぇ…… しかも蘇生に失敗しても金返さねーし!(怒) エ「ささやき……いのり……えいしょう……ねんじろ!」フリッツは灰になりました…
[一言] ……一流大学への面接試験会場……と言うにはまだまだでしょうかw
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