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04-47 旅行12日目 その3

 獣人(ビーストマン)に『治療(サナーレ)』を覚えてもらう。

 そのアイデアを、ゴローとサナは実行することにした。


 まずは身近なところでネアだ。


「ネア、ちょっといい?」

「はい、サナさん、なんでしょうか?」

「ちょっと手を、貸して」

「はい? え? な、何を?」

「……黙って。……目を閉じて、呼吸を整えて」

「え、え、え!?」


 何がなんだかわけがわからず、面食らって狼狽するネア。

 見るに見かねたゴローが声を掛ける。


「サナ、もう少しちゃんと説明しないと…………ネア、サナが君の魔法適性を見ようとしているんだよ」

「え? あ、そうだったんですか」


 ゴローの説明に、ネアは落ち着きを取り戻した。


「そういうことでしたら、お願いします」

「うん、わかった。……落ち着いて、目を閉じて」

「はい」

「深呼吸して」

「はい……」


 そして、ネアの呼吸が落ち着いたところを見計らって、サナは魔力の探針プローブをそっと伸ばしていく。

 それはネアの手から入り、肩を経て胴に至り、全身を巡る。


「何か、感じる?」

「な、なんだか身体がむずむずします……」


 その言葉を聞いたサナは微笑んだ。


「ネア、あなた、魔法の素質がある」


 それを聞いたネアは目を開け、大声で叫んだ。


「ほ、ほんとですか!!」

「あ……手を離しちゃ、だめ」

「す、すみません」

「呼吸を落ち着けて」


 再び同じことを繰り返す2人。


「……うん、ネアは、ごく簡単なものなら治癒魔法を使える」

「本当に?」

「私が、保証する」

「……う、嬉しいです……」


 ネアの目から涙が溢れた。


「どうしたの?」


 サナが少し慌てた様子で尋ねた。


「あ、すみません。嬉しいんです……。獣人(ビーストマン)って、何かにつけ、下に見られてきましたから」

「私もゴローも、そんなこと、しない」


 少し膨れてサナが答える。

 ネアも微笑んで頷いた。


「はい。サナさんやゴローさんが、そんな方じゃないのはよく存じてます。今のは一般論……いえ、正直に言うと教会関係者から……です」

「そう」


 教会に勤める司教や司祭といった聖職者のみならず、熱心な信徒は、どうしても獣人(ビーストマン)を侮るのだ、とネアは言った。

 そして熱心に語っている自分に気が付き、頬を赤らめた。


「す、すみません、熱くなっちゃいました」

「ううん、構わない。……なら、治癒魔法を覚えるのは嫌じゃない?」

「もちろんです! 是非、教えて下さい!」

「うん、わかった。……それじゃあ、目を閉じて、心を落ち着けて」

「はい」

「私の言うことをよく聞いて」


 そうやってネアを落ち着かせたあと、サナはつないだままの手から魔力を少し放出した。

 それは掌から腕を通り、肩を経て胴体に入り、血管に沿って身体中を巡っていく。

 1分もすると、サナが流し込んだ魔力はネアの身体中に満ちた。


「……この状態で、簡単な魔法を使ってみる。まずは生活魔法」

「はい」

「……行く。『浄化(プルガシオン)』」

「あ……」

「感じた?」

「はい、何か温かいものが身体の中を巡りました」

「それが魔力。何度かやってみるから、感じを掴んで」

「はい」


 それからサナは4回ほど、レベル2の生活魔法である『浄化(プルガシオン)』を使ってみせたところ、ネアはなんとか魔力の流れと発動の感覚を掴んだようだった。


「うん、ネアは筋がいい。じゃあ、今度はネアが使ってみて。……大丈夫、できるから」

「は、はい! ……ええと……『浄化(プルガシオン)』……あれ?」

「駄目。イメージがちょっと、足りなかった。もう一度」

「はい。……『浄化(プルガシオン)』」


 もちろん、詠唱だけで発動するほど魔法は簡単ではない。

 体内に魔力の流れを作り出し、それを収束させ、形作ったイメージを反映させる。

 詠唱はイメージの補助であり、発動のトリガーである。


「うん、魔力が動いた。あとはイメージ」


 実はこれが一番難しい。

 魔法に対するイメージは、個人個人で大きく違うからだ。

 『光』や『火』のように、はっきりと目に見える魔法はイメージしやすい。

 反対に、『治癒』のような、よくわからない(と思われている)魔法はイメージしにくいのだ。


「『浄化(プルガシオン)』は……そう、『綺麗にする』魔法」

「綺麗に、ですか……じゃあ、洗濯、でしょうか……」

「うん、それでやってみて」

「はい。……『浄化(プルガシオン)』……あ!」


 魔力が動き、『浄化(プルガシオン)』が発動した。


「うん、できた。その感覚を忘れないで」

「はい!」


 それから何度か『浄化(プルガシオン)』を発動させたネアは、10回のうち9回は成功させられるようになった。

 そうなれば、いよいよ治癒魔法の練習だ。


 ネアは気が付いていないがサナの魔力を分け与えているので、今のところ魔力枯渇のようなことは起こっていない。


「それじゃあ、一番簡単な治癒魔法、『癒やし(セラピア)』を教える」

「はい!」


 『癒やし(セラピア)』はレベル2、内科・外科入門級。初級よりさらに易しい……はずである。

 ちなみにレベル1は存在しない。治癒魔法が希少と言われる所以ゆえんでもある。


「さっきと同じように、魔力の動きを感じて。……『癒やし(セラピア)』」

「あ……さっきの『浄化(プルガシオン)』とは違いますね」

「わかる?」

「はい」

「それなら大丈夫。練習あるのみ」

「はい!」


 そしてネアは何度も何度も『癒やし(セラピア)』を練習した。

 そして十何度目か。


「『癒やし(セラピア)』…………!」

「うん、ネア、できた」


 ネアは見事に『癒やし(セラピア)』を発動させたのである。


「この『癒やし(セラピア)』は、傷や病気の治りを早める効果がある。あと、気分が悪い時や頭痛にも使える」

「はい!」


 そして練習を繰り返す。

 そんな努力の甲斐あって、ネアはなんとか入門級治癒魔法『癒やし(セラピア)』をマスターしたのであった。


*   *   *


「まずは、うまくいった」

「うん。サナ、ご苦労さん」


 ネアは、入門級治癒魔法をマスターしたことを女王ゾラに報告しに行ったので、今はゴローとサナは2人っきりである。

 なので声に出して会話をしているが、


〈……やっぱり、用心したほうがいいと思うぞ〉

〈うん、わかった〉


 いつネアが戻ってくるかわからないので、念話に切り替える2人。


〈で、ネアは才能あったのか?〉

〈うん、それなりに〉

〈……あんな教え方があったんだな〉


 俺にはああいう教え方してくれなかったのに、とこぼすゴロー。


〈うん。以前『ハカセ』が提唱していたやり方を、実践してみた〉

〈『ハカセ』が?〉

〈そう〉


 教える側と教わる側の魔力を同調させ、巡りを共通化させた上で教える側が魔法を使うことで、教わる側に感覚的な共鳴を起こさせる。

 こうして魔法を使う時の感触を体験させることで、習得しやすくさせるというものだ。


 この場合、教える側の魔力を使って練習できるため、教わる側の魔力保有量が少なくても大丈夫。

 特にゴローやサナのように『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』を持っているなら事実上何度でも練習できるのだ。


〈そうしてみると反則級だな、俺たちって〉

〈うん。『ハカセ』は凄い〉


 そこで、ゴローはちょっと聞いてみたかったことを口に……いや、念話にした。


〈……なあ、ちょっと疑問なんだが〉

〈なに?〉

〈サナと俺の『哲学(ラピス・)者の石(フィロソフォラム)』って、何か違うのか?〉

〈ああ、そういうこと。もちろん、違う〉

〈どういう風に?〉

〈『マナ(外魔素)』を取り込んでオド(内魔素)に変える速度が違う〉

〈というと?〉

〈私が小さな井戸なら、ゴローは巨大な泉〉

〈……なんとなくわかった〉


 尽きることはない、それは同じだが、一度に使える魔力量が違うのだということを理解したゴローであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 きたる8月16日(日)はお盆休みをいただきます。m(_ _)m


 次回更新は8月20日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レベル2からなのは以外と気づけないレベルの現象しか起こせない可能性も? [一言] 個人基準による魔術師と魔法の能力認定1~10(魔力量とどれぐらい魔法を使えるかによる) 1魔力を感知…
[一言] 更新お疲れ様です! >〈『マナ(外魔素)』を取り込んで『オド(内魔素)』に変える速度が違う〉 〈というと?〉 〈私が小さな井戸なら、ゴローは巨大な泉〉 〈……なんとなくわかった〉 …
[一言] >>面食らって狼狽するネア ネ「そっちの趣味はないんですけどぉ」 サナは微笑んだ 37「ネア、あなた、そっちの気がある」 ネ・56「うえええぇっ!?」 37「・・・冗談、魔法の才能」 >…
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