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04-44 旅行11日目 その9 覚醒

(自己の弱体化……)


 サナに、『ゴローは自分で自分に弱体化をしている』と言われ、その解除方法を考え込むゴロー。

 その間にも、ゴーレムは近付いてくる。


「ゴロー、逃げぬのか!?」


 ゴローの耳には、遠くから誰かの声が聞こえてくるようだった。


(自分で自分を……)


「ゴロー、危ない!」


(人間として振る舞うための偽装……)


「ゴロー!!」


(無意識のうちに……がっ!?)


「ゴ、ゴロー!!」


 腹部に強烈な打撃を感じたあと、一瞬の無重力感。そして背中に感じる衝撃。

 どうやら自分は、ゴーレムに殴り飛ばされたらしい、とゴローは分析した。……冷静に。


(……痛いな……)

「ゴロー、ゴロー!!」


(あの声は……女王様か……)


 ゆっくりと、意識が現実に切り替わった。

 ゴローの目の焦点が、目の前のゴーレムに合わせられる。


「……この野郎……」


 そのゴーレムが、腕を振り上げた。ゴローをもう一発、殴ろうというのだ。


「来いっ!」


 ゴローの脳裏に、『ハカセ』がゴローのテストをするために作ったガーゴイルとの一戦が思い浮かんだ。

 あのガーゴイルは身長4メル()もあった、と思い出す。

 そして振り下ろされる、ゴーレムの拳。


「ゴローーー!!」


 誰かの悲鳴にも似た声。

 それを聞き流しながら、ゴローはゴーレムの拳を、真っ向から受け止めていた。


「思い出した……。こう、だ!」


 そのまま身体をひねると、思ったよりも簡単にゴーレムはひっくり返った。

 その背中に、ハッチのようなものがあることにゴローは気がついた。

 だが、詳しく調べる前にゴーレムが起き上がる。


「なら、今度はこうだ!」


 ゴーレムの動きは鈍い。ゴローは背後に回って右膝裏に回し蹴りを叩き込んだ。

 『膝カックン』をするつもりだったのだが……。


「あれ?」


 ゴーレムの右膝が吹き飛んでしまったのである。


「関節部は強度が低いとはいえ、これはないだろう……」


 と独りごちながら、ゴローは素早く移動し、左膝裏にも回し蹴りを叩き込み、関節を破壊した。

 倒れかかるところを、一発蹴り上げておく。そうしないと仰向けに倒れそうだったからだ。それでは背中のハッチの確認がしづらい。


 そしてゴーレムは、ゴローの目論見通りにもんどり打った挙げ句、うつ伏せに倒れた。


「よし」


 その背中に飛び乗るゴロー。


「やっぱりハッチだな」


 だが、外側から開ける方法がわからない。

 ポケットから何でも切れるあの『ナイフ』を出そうとして、今は着物に着替えていたんだ、と思い当たるゴロー。


「……おっと」


 そんなことをしているうちに、ゴーレムは腕を使って上体を起こそうとしていた。

 だが膝から下がないので、まともに歩けはしない。

 とはいえ、背中に乗ったゴローは、体勢が斜めになったためにずり落ちそうになる。


「こいつめ」


 落ちる前に飛び降りたゴローは、横に回ると、ゴーレムの右肘に回し蹴りを叩き込む。

 膝関節よりもたやすく、右肘は砕けた。

 同様に左肘も砕いておく。

 これでゴーレムはジタバタするだけで満足に動けなくなったわけだ。


「だけど落ち着かないな……」


 停止していないゴーレムは非常に危なっかしく、近づきにくい。


「これでどうだ?」


 ゴローはゴーレムの頸部に蹴りを放った。

 ごっ、と鈍い音がして首がもげ、転がっていく。

 さすがのゴーレムも、これにはまいったようで、ぴたっと動作を停止したのである。


「ゴロー!」


 ゴローが殴られてからここまで、およそ20秒。


〈ゴロー、お疲れ様。でも、やりすぎ〉

〈そ、そうか〉


 サナからの念話で、やっぱりな、とゴローは思った。


〈このままだといろいろまずいから、『強化(ホプリゾーン)』が暴走したことに、しよう〉

〈暴走?〉

〈そう。殴られる寸前に、生命の危険を感じ、限界を超えて『強化(ホプリゾーン)』を掛けた〉

〈おお、なんかありそうだな〉

〈……肝心なのはこれから。『強化(ホプリゾーン)』はやりすぎると反動がくる〉

〈反動?〉

〈そう。身体がついて来られなくて、壊れる〉

〈それもありそうだな〉

〈だから、そろそろ倒れて〉

〈え?〉

〈反動で、身体中が痛む、フリをする〉

〈わ、わかったよ〉

〈うまく演技、して? あとは私が、うまく説明する〉

〈頼む〉


 念話なので1秒程度で情報交換は終わる。

 そして、ゴローはその場にぶっ倒れた。


「ゴロー!!」


 女王ゾラが心配そうに駆け寄ってきた。


「陛下、おそらくゴローは限界を超えて『強化(ホプリゾーン)』を掛けたのでしょう」

「お、おお、なるほど、そうじゃな」

「おそらく、身体中の骨や筋肉が悲鳴を上げているはずです。そっとしてやってください」

「わ、わかった」


 女王ゾラは救護兵を呼び、担架のようなものにゴローを乗せると、


「もそっと静かに運ぶのじゃ!」


 自分も付き添いながらそっと運び去ったのである。


(あーあ……もう不審な気配はないから……ま、いいか)

〈ゴロー、がんばって〉


 サナからの念話に、そっと溜息をつくゴローであった。


*   *   *


 ゴローが運ばれたのは宮殿内の静かな一室。

 そこに身体が沈み込むほど柔らかい布団が敷かれ、横たえられている。


(いつまでこうしていればいいんだろう……)


 幸いにして、『人造生命(ホムンクルス)』であるゴローなので、その気になれば身動きもせずにじっとして居続けることはできる。

 しかしできるということと、そのための心労はまた別問題。


(退屈だ……)


 布団に寝かされたゴローは、身じろぎくらいしかできないため、非常に退屈なのだ。

 と、そこへサナがやって来た。


「ゴロー、具合はどう?」

〈お芝居ごくろうさま〉

「ああ、こうしていれば大丈夫だよ」

〈そう、その調子〉

〈で、どのくらい寝込んでいればいいんだ?〉

〈まあ、普通なら1週間〉

〈やだよ〉


 するとサナはくすっと笑って言った。


「大丈夫。私が看病する」

〈だいじょうぶ。そこはうまくやってあげる。とりあえずは明日1日くらいは寝込んでいて〉

〈うん、まあ、それくらいなら……〉


 仕方ないな、とゴローは心の中で溜息をつくのであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月6日(木)14:00の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴローのわざとらしげな大根芝居での倒れる姿が目に浮かんだ(笑) 多分、サナが「そこはもっと抑えた演技で」とか、「唸り声はもっと低めに」とかの細かな演技指導が念話で入ってるんだろうな。
[気になる点] ゴーレムなんか妙に弱いような気がする(この場合ハカセのガーゴイルがすごいのか今回のゴーレムがショボいのか)後中に人居たら逃げれないよね [一言] 某異世界にて 強化の反動 少女「うご…
[一言] ゴローたんが寝床で悶々としてる姿を想像してみる うん、なんかちょっかいかけたくなってきた 帝「来ちゃった♡」 フ「見舞いだ」酒瓶どん! 老「退屈でしょうから、えっちなDVDを持ってきました…
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