04-42 旅行11日目 その7 刺客
とっ捕まえた不審者……否、刺客を担いで警備員詰め所らしき場所を訪れたゴロー。
「不審者です」
と一言告げ、警備員に引き渡すと一目散に宴席へと戻っていった。
「……と、こんなわけでして」
宴席に戻れば、何をしていたのかと女王ゾラやローザンヌ王女らに問い詰められたので嘘も言えず、正直に話したゴロー。
「うむう……どうやってこの『神域』に入り込んだのやら……」
女王ゾラが疑問に思ったのはそれであった。
なんでも、この『祭礼』の日は『結界』を張っているので、邪な想念を持っている者が結界を越えたらすぐにわかるはずなのだという。
「……なら、結界を張る前から中にいたんじゃないですか?」
ゴローは思いつきを口にしてみる。
が、それは正解、もしくはごく正解に近いようだった。
「うむ、それくらいしか考えられぬな」
「そうじゃの、母上」
女王ゾラとリラータ姫は2人して頷きあったのだった。
「のうゴロー、刺客を捕らえたことは、明日までは黙っていてほしいのじゃ。もちろん、この場にいる者や警備員はもう知っているので、それ以外のものに話してくれるな、ということじゃが」
刺客が入り込んでいたことを『宴』の場で公表するのはまずいと、女王ゾラは判断したのだった。
「ええ、わかりました」
「済まぬの」
「……いえ。ですが、刺客があいつ1人とは限らないのでは?」
「うむ。確かにのう」
「そもそも、誰を狙ったのかもまだわかっていませんし」
「そのとおりじゃな。……なら、確かめに行くとしよう」
女王ゾラはそう言って立ち上がり、警備員詰め所へと向かった。警護の兵が2人付いたが、気になったゴローも付いていくことにした。
それについて女王は何も言わなかった。
そして、広場南東の隅にある詰め所で。
「これは陛下、何かございましたか!?」
いきなり女王が現れたので、兵士たちは若干うろたえている。
「先程このゴロー殿が不審者を捕らえたと聞いてな。尋問してやろうと思ってきたのじゃ」
「そうでしたか」
「……で、何か喋ったか?」
「いえ、口の固いやつで、何も」
「まあそうじゃろうな」
そして女王は奥の隅にいる、縛り上げられた男を見た。
「妾は女王ゾラじゃ。貴様の名は? 目的は?」
その問いかけに、男は何も答えなかったが、その目に憎しみ……あるいは嫌悪の光が宿ったようだった。
「ふむ。まあ、素直に答えるとは思っておらぬがな。ならば……」
女王ゾラは右手の人差指を立てると、そこに小さな小さな明かりを灯した。蒼い狐火である。
それをぐるぐると回しながら、男の目の前に近づけていく。
「ほれほれ、これを見い」
「…………」
(幻術……か……?)
横で見ていたゴローは、女王ゾラのその技を『幻術』と判断した。もちろん『謎知識』によって。
「あ、あうう……」
次第に男の目から光が失われ、焦点が合わなくなってきた。
「……ふむ、そろそろよかろう。貴様の名は?」
「……モナンド」
「うむ。モナンド、貴様の目的は?」
「……ジャンガル王国の王族を1人以上、消すこと……」
「なるほど。依頼者は?」
「……教会関係者、としかわからない……」
「ふむ。……他に仲間はいるのかや?」
「……いるかもしれないが、知らされていない……」
「どうやって、ここに潜入したのじゃ?」
「……5日前から隠れていた……」
かなり重要な情報が得られた。ゴローは女王様の幻術凄い、と感心している。
だが同時に、離れた場所にいるリラータ姫が心配になってきた。
そこで『念話』でサナに注意を促す。
〈……サナ、……そういうわけだから、気を付けておいてくれ〉
〈……ちょっと、遅かった〉
〈え?〉
* * *
女王ゾラとゴローが席を離れてから、サナはなんとなく落ち着かなかった。
(『強化』3倍……)
それで、自分にできる最大の『強化』を行ってみた。
すると、風を切る音がして、リラータ姫に向かって何かが飛んでくるのが見えたので、それを掴み取る。
「……吹き矢?」
そして、もう1発、さらにもう1発。
計3発の吹き矢がリラータ姫めがけて飛んできたのだった。
「……は?」
当のリラータ姫は、何があったかわかっていないようだったが、護衛の兵はすぐ異変に気付き、吹き矢が飛んできたと思われる方向へ3名が向かった。
だが。
(……違う。そっちには、もういない)
強化されたサナの感覚には、吹き矢を放った犯人は木の上にいたが、既にその場所を離れ、地面に降り立って隙を窺っていることがわかっていた。
そこで、気付いていないふりをしながら、摘みとった吹き矢を犯人が隠れている木に向けて投げつけた。
ここまで、サナが最初の吹き矢を掴み取ってから10秒。
3つの吹き矢は狙い過たず、杉の大木に突き刺さる。
同時に、黒い影が躍り出て、また別の木に隠れた。
護衛の兵はそれに気づかないらしく、最初に吹き矢が飛んできた方向を捜索している。
「姫様を、守って」
サナがそう言うと、リラータ姫のそばに4名の護衛が駆けつけた。
そしてモーガンはクリフォード王子を守るように立ち、ローザンヌ王女は腰の刀に手を掛けた。
さらにジャンガル王国の護衛も2名、2人に付いたので、サナはこれで安心と、自分は犯人を追うことにした。
強化されたパワーをもってダッシュ。ほとんど1歩で犯人が隠れた木の根元に到着。そのまま木の陰に回り込む。
が、犯人も素早く木の上に飛び上がり、サナから身をかわした。
「……逃げるな」
サナもまた、地を蹴って樹上へ。
だがその時には、犯人は地面に飛び降りている。なかなかの素早さだ。
「なら、これはどう? 『雷』『矢』」
サナの指先から紫電が走り。駆け去ろうとした犯人の右足に命中。
「があっ!」
『雷』『矢』は雷属性魔法レベル2の魔法で、電撃を放つ。
相手を麻痺させるには至らないが、痺れさせて行動を阻害する、といったものである。
発動から発射までが短く、素早い相手向きの攻撃魔法である。
右足にサナの『雷』『矢』を受けた犯人は地面に倒れ込んだ。
その時になってようやく、護衛の兵が駆けつけ、犯人を拘束したのである。
「お客人、感謝します!」
護衛の1人がサナに向けて敬礼を行った。
「うん。でも、気を付けて。そいつ、強い」
「はい、承知しております」
護衛兵は犯人を縄で雁字搦めに縛り上げたあと、魔法予防のために猿ぐつわまで被せたのである。
* * *
〈……と、いうわけ〉
〈……そうか、お手柄だったな、サナ〉
〈うん。姫様が無事で、よかった〉
〈だな〉
〈……だけど、油断大敵〉
〈そうだな。俺は気をつける。サナも気を付けてくれよ〉
〈うん、わかった〉
一旦『念話』を切ったサナは、3倍の『強化』のまま、周囲の気配を探ってみた。
(……もう、いない? ……いや、1つ……これは)
サナはゴローに向けて『念話』を飛ばす。
〈ゴロー、危ない〉
〈え?〉
〈時間がない。早く最大の『強化』を掛けて〉
〈もうやってる〉
〈……で、感じる?〉
〈ああ、わかった。こいつが本命かもしれないな〉
臨戦態勢に入るゴローであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月30日(木)14:00の予定です。
20200726 修正
(誤)もちろん、この場にいる者や整備員はもう知っているので、
(正)もちろん、この場にいる者や警備員はもう知っているので、
(誤)〈ああ、わかった。こいつが本命かも入れないな〉
(正)〈ああ、わかった。こいつが本命かもしれないな〉
20200727 修正
(誤)それ以外のものに話してくれるな、ということじゃが
(正)それ以外のものに話してくれるな、ということじゃが」