表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/496

04-36 旅行11日目 その1

 明けてこの日は『祭礼』の日である。

 ゴローは第2迎賓館の厨房で『ちらし寿司』を作っていた。

 もちろん1人ではなく、3人の料理人と一緒に、である。

 この場所が選ばれたのは、ゴローが前日に下ごしらえをした食材があることと、大量に作るために十分な広さがあることからだ。


 3人は女王ゾラが送り込んできた宮廷料理人で、この機会に『ちらし寿司』の作り方をマスターさせる目的がある。

 レンコンとシイタケは前日のうちに下ごしらえをしておいたので、その分を除き、実演しながら教えることができた。


「……と、まあこうやるわけです」


 3人共さすが宮廷料理人らしく、筋がよかったので1度で手順を覚えてくれたようだ。


「ゴロー様、ありがとうございます」

「ありがとうございました、ゴロー様」

「勉強になりました」


 続いて彼らは『いなり寿司』と『焼きおにぎり』の準備に取り掛かった。

 この2つは今回の祭礼のメインの食事……ということになっているので、ここ第2迎賓館だけでなく、あちらこちらの厨房で作られているはずだ。

 『ちらし寿司』はその見た目も華やかなので、メイン中のメインということらしい。

 要は王族や来賓が口にするわけだ。


*   *   *


 厨房から出て来るゴローを、サナが待ち構えていた。


「ゴロー、終わったの?」

「ああ、終わった」


 午前9時、ゴローは『ちらし寿司』の作り方を教える役から解放され、賓客に戻った。

 つまり祭礼を執り行う側から楽しむ側になったわけだ。


「なら、一緒に回ろう? ネアが案内してくれるから」

「いいともさ」


 そういうことになった。


*   *   *


 『祭礼』とはいえ、着飾ることなく普段着でいいというので、ゴローとサナはいつもどおりの格好……ただし、洗いたてで汚れていないもの……に着替えた。

 ネアはといえば、浴衣に似た民族衣装らしき着物を着ている。

 腰の下のところから尻尾が出るようになっており、意外と着心地はよさそうな感じに見えた。


(なんというか、このジャンガル王国って、和洋折衷なんだよな……)


 『謎知識』が教えてくれた『和洋折衷』という単語を頭の中で反芻しながら、ゴローは第2迎賓館の玄関へと歩いていった。

 そこには見覚えのない侍女らしき人が待っていて、ゴローに話しかけてきた。


「ゴロー様、サナ様、『祭礼』の一番重要な儀式は夜です。お聞きですか?」

「一応聞いているよ」

「わかりました。それでは夕方の4時頃、お迎えに上がります。それまではお好きなようにお過ごしください。ネアさん、頼みましたよ」

「わかった」

「承りました」


 その侍女が帰っていった後、ネアがゴローに尋ねた。


「あの、ティルダさんはどうしましょうか?」


 これでもゴローとサナはジャンガル王国王族であるリラータ姫に招待されてやって来たのだから、その国の大事な行事に出席したほうがいいに決まっている。

 その一方で、ゴローとサナが友人枠で連れてきたティルダはそこまでの義務はない。

 ミユウのところにも『祭礼』の話は伝わっているだろうから、見物するのは自由だ。


「うん。ティルダはミユウさんのところだから多分来ないけど、俺とサナは出ないわけにいかないしな」

「それでよろしいのですか?」

「うーん……一応聞きに行ってみるか」

「そうしましょう」


 勝手にティルダの予定を決めつけるのもまずいので、この後声を掛けることにしたのであった。


*   *   *


「うーんと、できれば師匠に教わっていたいです」


 塗師ぬしのミユウを訪れ、ティルダに聞いてみると、ほぼ予想どおりの答えが返ってきた。


「漆塗りって奥が深くて、とても興味深いのです」

「わかった。それじゃあティルダは好きにしていていいよ。祭礼に出るのは俺とサナで十分だから」

「すみませんです」


 そういうわけで、今度こそゴローとサナ、そして案内のネアは町へ繰り出した。

 町中にはあちらこちら露店が出ており、軽食をはじめいろいろなものを商っている。


「ゴロー、何か食べよう?」

「まあ、そうだな」


 もうお昼どきだし、お祭りなのだから、ということで買い食いもまた楽しみの1つ。


「お、『わたあめ』発見」

「わたあめ?」

「ゴローさん、ご存知なのですか?」

「ああ、一応『謎知識』のおかげで」

「『天啓』ってすごいですね……」


 ゴロー自身は『天啓』というより『謎知識』という方がしっくり来るのだが、ネアの言葉を訂正するほどこだわっているわけではない。

 ところで、ゴローの記憶にわたあめを食べた覚えはない。だが甘いからサナも気に入るだろうと、3人分買ってきた。


「ほい」

「うん」

「ありがとうございます」


 短いやり取りの後、それぞれわたあめにかぶりつく。


「うん、甘い。わたあめだ」

「……甘い……美味しい……」

「お祭りといえばまずわたあめですよね」


 ゴローは『久しぶり』に食べるわたあめの味を『懐かしく』思い、サナは思った以上に甘かったので顔をほころばせていた。

 そしてネアは何度か食べたことがあるらしく、美味しそうにわたあめにむしゃぶりついていたのである。


「どうやって、作るの?」

「わたあめを、か?」

「うん」

「ええとな、確か小さな穴を空けた鍋に砂糖を入れて熱し、回転させるんだ」


 すると、熱で溶けた砂糖が遠心力で鍋の穴から飛び出し、冷やされて糸状になる。

 小さな鍋と言ったが、それこそ直径10セル(cm)以下のものでいい。

 実際に露店で使われている器具の加熱部は直径8セル(cm)くらいであった。


(ピース缶みたいだな……)


 『謎知識』がそう教えてくれたのだが、ゴローにはピース缶が何かわからなかった。

 すると。


(ええと、缶に入った両切りの紙巻タバコ……?)


 タバコって何だ?

 すると。


(タバコという植物の葉を乾燥させて細かく刻み、紙を巻いて火を付け、その煙を吸って味わう……? 煙いだけじゃないのか……?)


 この世界にタバコというものは存在しないのであった。


 そんなゴローの物思いはネアの声で中断された。


「やっぱりゴローさんって凄いですねえ。それも『天啓』ですよね?」

「ああ、そういうことだ」


 ここでまた、サナが何かを見つけたようだった。


「ね、ゴロー、あれ、食べたい」

「……え? どれだ?」

「あれ」


 サナが指差す先にあったのはかき氷。

 魔法で水を凍らせ、それを削ってシロップを掛けたものらしい。


「よっしゃ」


 ゴローはかき氷を3つ買ってくる。

 シロップは着色されておらず、いわゆる『スイ』だけのようだ。


 これに香料か果汁を混ぜて色もつければもっと売れるだろうにな……などと考えながらかき氷を食べるゴローであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は7月9日(木)14:00の予定です。


 20200711 修正

(誤)(タバコという植物の葉を乾燥させて細かく刻み、紙に巻いて火を付け、

(正)(タバコという植物の葉を乾燥させて細かく刻み、紙を巻いて火を付け、


 20200905 修正

(誤)「ええとな、確か回転する小さな穴を空けた鍋に砂糖を入れて熱し、回転させるんだ」

(正)「ええとな、確か小さな穴を空けた鍋に砂糖を入れて熱し、回転させるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 缶詰やジュースではなく、ピー缶が浮かぶような人だったのかね……自分か身近に結構なタバコ吸いが居たのかな?
[一言] 綿飴。原理そのものは簡単で、誰にだって作れる……のですが、コレを売り物にしようとするとなると色々と大変なので割愛 問題は何故ピース間を知っているwww 私は嫌煙家ではありますが家族親戚の大…
[一言] (ええと、缶に入った両切りの紙巻タバコ……?) ↑ 『謎知識』との会話も近いかと思ってしまいましたwww(ノ´∀`*)  サナが指差す先にあったのはかき氷。  魔法で水を凍らせ、それを削っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ