04-34 旅行10日目 その2
『強化』2倍を身に掛け、ゴローは地を駆ける。
その速度はおよそ時速60キル。
それ以上の速度は、街道の状況的に難しいのだ。
直線ではないし、ところどころ荒れている。また、木の枝が伸びている場所もあるし、森の中を通っている箇所もある。
さらに、街道にはゴロー以外にも利用者がいる。そんな彼らと衝突しないように走るには、時速60キルが限界だった。
(あと倍……は無理としても、1.5倍くらいの速度は出せそうだがな……)
などと考えながら走っているあたり、まだゴローには余裕があった。
そして、走り続けていくうちにレベルもアップする。
(なんだか余裕ができてきたな……もう少しスピードを上げられるかな?)
時速60キルから時速70キルくらいにまで速度を上げることができた。
それでもまだ余裕が感じられる。
そこで走る速度を時速80キルまで上げて、この辺が限度かな、と思ったゴローなのであった。
「お、おい、なんだありゃ?」
ゴローに追い抜かれた旅人は目を見張り、
「ひゃっ! 何かとすれ違ったぞ!?」
ゴローとすれ違った旅人はびっくり仰天する。
たまに飛んでいる虫が顔にぶつかるが、気にも止めずにゴローは突っ走っていったのだった。
キオーナ村、カナノ村、そしてファリサ村も過ぎた。
ガーノ川を渡れば、じきに国境砦である。
(……さて、国境の砦はどうするかな……)
通過のための審査に掛ける時間が惜しい、とゴローは思った。
しかし砦を迂回するのにも時間が掛かる。
どちらがより早く目的地に着けるか、ゴローは走りながら考えた。
(……迂回だな)
砦での審査時間は、他の旅人もいるであろうから、おそらく1時間以上は掛かる。
ジャンガル王国側の審査は、説明すれば短く済むかもしれないが、ルーペス王国側はそうはいかないだろう。
一方、迂回をうまくやれば30分以下のロスで済む……のではないかとゴローは考えたのだった。
(だったら、早めに道を逸れたほうがいいな)
街道がジャングルを抜けた、その少し先にガーノ川が流れている。
中程度の河川で、川幅は50メートルくらい。
ゴローはガーノ川を渡り終えると、ガーノ川の上流を目指した。
川原は狭いが、十分通行可能だ。中流域なので丸い石が多い。
そこをゴローは時速30キルほどで駆けていった。
(このくらいかな?)
時速30キルで10分。5キルくらいは来たはずだとゴローは判断。川原から離れ、東を目指す。
その辺りは疎林が広がっており、思ったような速度は出せない。せいぜいが時速40キル、半分だ。
それでも国境を問題なく越えることができた。
ちなみに、猟師や山菜採りの村人などは、日常茶飯事的に国境を越えている。
だがそれが違法だというわけではない。
ルーペス王国とジャンガル王国との間では、『個人に限定』で、越境を咎めはしない、という不文律があった。
国境砦で審査を受けねばならないのは、王族、貴族、商人、それに旅行者である。
今回、ゴローはそれを踏まえて越境したのである。
(うまくいったな)
そして1時間と25分。
ゴローは当初の予定より5分早く中継地にたどり着いたのである。
「さて、蓮は……まだまだあるな」
付近に点在する沼にたくさん生えている。誰のものでもないのだが、少々大量に取るつもりなので一応村長に断りを入れ、預かった2万シクロを渡すと、村長は快く許可してくれた。
そこで、取りすぎないように注意しながら、ゴローは池から池へ、蓮を採集して回っていく。
『強化』2倍を掛け続けているため、らくらくレンコンを泥の中から引きずり出せていた。
ちょうど昼時なので数人の旅人が中継地であるこの地におり、ゴローのやることを目を丸くして見ていたようだ。
採取したレンコンを水で洗い、泥を落とすゴロー。
「これ……ジャンガル王国でも栽培してもらえばいいよな」
夏に咲く花もきれいなので、観賞用としても栽培してもらえそうだ、とゴローは考えていたのだった。
* * *
ゴローは昼食も摂らずにそんなレンコンを採れるだけ採り、背負い袋に入れてしまう。防水なので水が垂れてくることもない。
「さて、帰らないと」
レンコン採取で1時間近く費やしてしまい、時刻は午後1時半といったところ。
翌日のために下ごしらえをするにせよ、まだ時間はある。
「焦らず帰ろう」
もう中継地には人はおらず、ゴローは最初から飛ばしていく。
途中から街道を逸れ、僅かな草の乱れや折れた枝などを目印に、来た道を忠実にたどる。
その過程で国境は越えている。
川原に出れば今度は下流目指して走っていけば、街道に突き当たる。
「よし、これであとは街道沿いに走っていけば帰れるな」
時刻は午後2時過ぎ。残りの距離は45キルくらい。今のゴローなら、王都への上り坂も含め、1時間足らずで帰れるだろう。
「順調順調」
風を切ってゴローは走っていく……。
(さて、お約束なら帰り道に魔獣が出るとか……)
出なかった。
(盗賊に襲われている商人がいるとか……)
いなかった。
(脱輪して立ち往生している馬車……)
そんなものはなかった。
(川が増水して……)
雨は降っていないし、既に最後の川は渡り終えていた。
(…………)
結局何ごともなく、ゴローは王都ゲレンセティの麓までたどり着いたのだった。
時刻は午後3時。順調そのものだった。
「まあ、何ごともないのが一番だよな……」
ゴローは独り言ちて、斜面を駆け上がっていく。
ジグザグに沿って走るのは面倒なので、ショートカットだ。
さすがに一飛びで上の道路に行くことはできないので、3度ほど中継しながらだが、それでも10分ほどで上りきってしまった。
そんなゴローの様子を見た獣人国の人々は、『すわ、『イダテン』か!?』と目を見張っていたという。
とにかく、余裕を持って午後3時半に、ゴローは第2迎賓館に帰り着いたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月2日(木)14:00の予定です。
20200918 修正
(旧)
付近に点在する沼にたくさん生えている。誰のものでもないので、取りすぎないように注意しながら、ゴローは池から池へ、蓮を採集して回っていく。
(新)
付近に点在する沼にたくさん生えている。誰のものでもないのだが、少々大量に取るつもりなので一応村長に断りを入れ、預かった2万シクロを渡すと、村長は快く許可してくれた。
そこで、取りすぎないように注意しながら、ゴローは池から池へ、蓮を採集して回っていく。
20230904 修正
(誤)その当たりは疎林が広がっており、思ったような速度は出せない。
(正)その辺りは疎林が広がっており、思ったような速度は出せない。