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04-33 旅行10日目 その1

 翌朝、ゴローは朝食後、『ちらし寿司』を作り始めた。

 前の日に下ごしらえをしていたので、まずはご飯を炊くところからだ。

 寿司なので少しだけ固めに炊くことになる。

 土鍋での炊飯にも少し慣れてきたゴローである。


「あ、なんだか酸っぱいにおい」


 炊きあがったご飯を飯台代わりの大鍋に入れ、酢をかけてまぶす。

 このときの『酢』は、米酢に砂糖と塩を混ぜて作る。

 ゴローは隠し味的に酒をほんの少し加えている。


 そうして作った酢飯すめしを風属性魔法『(ヴェント)』で冷ましているとサナが厨房に顔を出した。


「もう少しでできるぞ」

「うん、楽しみ」


 サナが来たのでちょうどよいと、『(ヴェント)』で酢飯を冷ます役を任せ、ゴローは具の準備をする。

 絹さやっぽい、その名も『エンドウ』という豆をさやごと茹でる。

 薄く伸ばした卵焼きを作り、刻んで錦糸卵にしておく。


 それが終わった頃には酢飯は十分冷めているので、昨日作ったレンコンとシイタケを混ぜ込む。

 ここまでで準備は終わりだ。

 エンドウと錦糸卵は器に盛り付けた後トッピングするのがゴローのやり方である。


「これでよし」


 時刻的には午前9時半。まだ昼食には早いが……。


「……食べてみます?」

「え。いいのかや?」

「そんなに食べたそうにじっと見つめられていたら言わざるを得ないでしょう? ……そもそも、なんでここにいるんですか」


 なんと、女王ゾラがゴローたちのいる迎賓館にお忍びでやって来て、厨房を覗き込んでいたのである。


「視察じゃよ」

「……陛下、何でも視察で済まさないでくださいね?」


 一緒に付いてきたラナがため息まじりに言った。

 なお、リラータ姫はいない。どうやらローザンヌ王女やクリフォード王子の相手をしているらしい。


「わかったわかった。ラナ、お前も食べてみるがよい。……ゴロー、よいじゃろ?」

「ええ、いいですよ」


 もう諦めたゴローは、自分、サナ、女王ゾラ、女官ラナ、そしてネアの分を小皿に取り分け、エンドウと錦糸卵をトッピングした。


「ほほう、緑と黄色の取り合わせで、見た目もきれいじゃな」

「カロット(にんじん)を入れると赤も加わるんですけどね」


 昨日買い忘れた上、迎賓館の厨房でもちょうど使い切ってしまったということで入れられなかったのである。


 そして、まずはゴローが毒味を兼ねて一口。


「うん、まあまあかな」


 限られた食材で作ったちらし寿司だったが、この味なら上出来だ、とゴローは満足したのである。


「ほほう。……では……」

「陛下、まずは私が」


 食べようとした女王を遮って、ラナがまず一口。


「……」

「どうじゃ?」

「……美味しいです」

「そうかそうか。では(わらわ)もいただくとしよう」


 そして女王ゾラも一口、二口。


「うむ、これは美味い!」

「この風味がいいですね。それに入っている煮物。穴の空いたこれはシャキシャキして美味しいですし、キノコはいい味わいです」

「そうじゃな。この細く切った卵焼きもなかなかじゃ」

「そうですね。これだけ薄いのにふんわりと焼けています。並々ならぬお腕前と見ました」

「ありがとうございます」


 そしてサナとネアはと見れば、夢中で黙々と食べていた。


「……ゴロー、美味しかった」

「ゴローさん、ごちそうさまでした。美味しかったです」

「そりゃよかった」


 限られた食材で作らざるを得なかったが、まずまずの評判を得られたのでゴローはほっとしたのだった。


*   *   *


「……うむ、ゴロー、この『ちらし寿司』というのか? これの作り方も教えてもらえんかのう?」

「いいですよ」


 迎賓館の厨房を使っている以上、料理人たちに手順を見られているわけであるから、正式に教えることに問題はない。

 そんなゴローに女王ゾラは、


「そうじゃのう……礼金は100万シクロでよいか?」


 と発言してゴローを驚かせていた。


「いらぬ、などと言わんじゃろうな? それはゴローの知識を軽んじることになるからのう?」

「……わかりました」


 女王に言われ、礼を受け取ることにするゴロー。

 とはいえ支払われるのは後日であるが。


「この穴の空いた食材は何じゃ? シャキシャキしていて美味いのう」

「あ、レンコンですね」

「レンコン?」

「はい。『蓮』という植物の根っこ……地下茎なんです。ルーペス王国の『サーク村』東にある中継地で見つけました」

「ほほう……すると、この『ちらし寿司』をたくさん作るためには、その『レンコン』を買ってこないといかんのか」

「そうなりますね。あとは卵にせよシイタケ……じゃない、『エドーデ』にせよ、こちらで買えるでしょう」

「ううむ……」


 仮に買いに行くとしてもその中継地点まではここから84キル(km)ほども離れている。

 おまけに、行きは山を下り、帰りは山を登らなければならないのだ。


「……(わらわ)が行くとするかのう」

「陛下!? 絶対駄目ですから!」

「……ラナ、許してたもう。美味しい献立のためじゃ」

「それでも駄目です」


 言い合う主従に、ゴローは尋ねてみる。


「ええと、陛下はなにか速い移動手段をお持ちなのですか?」

「うむ。『神足通(しんそくつう)』という」


 『神足通(じんそくつう)』ならば『六神通(ろくじんつう)』の1つであるが。ジャンガル王国ではちょっと違うらしい、とゴローは感じた。

 そもそも『神足通(じんそくつう)』は仏教において、仏や菩薩が持っているとされる6種類の超人的な能力の1つである。


 ジャンガル王国では『じんそく』ではなく『しんそく』と呼び、王家の一部の者が持つ固有魔法的な力らしい。


(わらわ)なら半日で往復できるぞ」

「それでも駄目です」

「ラナは手厳しいのう」

「それ以前の問題です。どこの世界に、自ら国外へ食材調達に出かける女王がいますか」

「ここに……いや、何でもない」


 ここにいる、と言いかけてラナに睨まれ、口をつぐんだ女王であった。


「……私が行きます」


 ラナがそんなことを言いだした。


「私にも『神足通(しんそくつう)』は使えますから」

「いやいやいや、そなたの『神足通(しんそくつう)』はまだまだ未熟。無理はせんでよい」

「しかし、それでは買いに行く者が……」


「……それじゃあ、俺が行ってきますよ」

「ゴローが、か? ……『神足通(しんそくつう)』を使えたのかや?」

「いえ、俺は『身体強化』って呼んでいます」


 『強化(ホプリゾーン)』がそれだ。ゴローの場合、身体能力が2.5倍になる。

 元々のスペックが高いゴローが用いれば、個人の強さでは世界最高レベルになるのだ。


「ううむ……客人に頼むというのもばつが悪いが……背に腹は代えられんか。頼む、ゴロー殿」


 そして女王ゾラは悩んだ末、ゴローに対して頭を下げたのである。


「わかりました。早速行ってきます」

「そのくらいの代金は持ち合わせております」


 ラナがそう行って2万シクロ(約2万円)を差し出した。


「お預かりします」


 ゴローはその2万シクロを受け取り、身支度を整える。


〈サナ、そういうわけだからちょっと行ってくる〉

〈うん、わかった。気を付けて〉

〈一度は馬車で通った道だから大丈夫さ。それじゃあな〉

〈行ってらっしゃい〉


 ゴローは『強化(ホプリゾーン)』2倍で飛び出した。

 そのまま勢いで王都ゲレンセティを飛び出し、九十九つづら折の道なりに行くことはせず、ほぼ直線で駆け下りていた。

 あっという間に麓まで駆け下りたゴローは、馬車で来た街道を東へ。その速度、およそ時速60キル(km)

 何ごともなければ、1時間半ほどで目的地に着けるはずである……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は6月28日(日)14:00の予定です。


 20200625 修正

(誤)「……食べまてみます?」

(正)「……食べてみます?」

(誤)何ともなければ、1時間半ほどで目的地に付けるはずである……。

(正)何ごともなければ、1時間半ほどで目的地に着けるはずである……。


 20200628 修正

(旧)『神速通(しんそくつう)

(新)『神足通(しんそくつう)

 6箇所修正。


 20230904 修正

(誤)「ううむ……客人に頼むというのもばつが悪いが……背に腹は変えられんか。

(正)「ううむ……客人に頼むというのもばつが悪いが……背に腹は代えられんか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 神速通 ↑ 六神通なら『足』の方が良いかと思いました。 能力名を見て昔ジャンプに載っていた、主人公がテレポートやタイムスリップして柳生十兵衛を仲間にしたり事件解決する超能力バトル漫画…
[一言] エンドウ&深淵> 深淵卿で調べれば直ぐに出てきます。因みに某なろう作品の登場人物です 蓮は綺麗な沼沢が有れば簡単に育てられますから、山の麓の城下町か王都のどちらかで栽培すれば良いのでは?…
[一言] 国によっては魔法の呼び方は違うんですねえ これも『けもなー』様の影響ななんだろうか
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