04-26 旅行8日目 高評価
改行を増やしてみました。読みやすくなったでしょうか。
ゴローが厨房に戻ると、ご飯を炊いている最中だった。
「お帰りなさい。いなり寿司の評価はどうでしたか?」
「うん、陛下は喜んでくださったよ」
「それはよかった!」
料理人たちは皆、嬉しそうな顔になった。
「で、ご飯の方は?」
「ゴロー殿に言われたとおり、水をほんの少し減らして炊いてますよ」
「よしよし」
それから十数分、ゴローたちはご飯の炊きあがりを待っていた。
「そろそろ炊きあがります」
「……そうだな」
ゴローも身体能力を上げているので、獣人たちほどではないが鼻が利くようになっている。
それによると、今は土鍋の底でご飯が焦げ付き始めたのを感じることができた。
「……よし、強火にして、20秒したら火を落とそう」
「大丈夫でしょうか?」
「正直わからない。でもそれほど酷いことにはならないよ」
薪でご飯を炊いたことがないゴローは正直に答えた。
強火にするため、藁や枯れ葉などを火にくべる。すると一瞬だけ火がぼうっと燃え上がる。これが『強火』というわけだ。
そして火を落とし、蒸らしに入る。
今回は蒸らしに10分を取った。
「さて、できはどうかな?」
蒸らしが終わったと思われる頃、ゴローは土鍋の蓋を取った。
ほのかにおこげのいい匂いが鼻をくすぐる。
「よしよし、できたみたいだ」
ご飯が温かいうちに醤油をざっと掛け回し、全体にまぶしていく。
この時練ってはいけない。さっくりと切るように混ぜ合わせる。
「なるほど、こうやって混ぜ合わせるのですか」
「どぼどぼぶっかけるのかと思いましたよ」
「それじゃあしょっぱくて食べられないだろう……」
「ですね」
そしてゴローがさらに醤油をまぶしていくと、香ばしい匂いがしてきた。
「ああ、いい匂いですね」
「温められた醤油の匂いですね」
料理人たちは鼻を蠢かせている。
「醤油もちょうど足りたかな」
そしてゴローはご飯が温かいうちに握っていった。冷めてしまうとおにぎりにできなくなってしまうからだ。
今回はお試しなので個数を優先し、一口サイズをたくさん作っていく。全部で31個できた。そのうち7個がおこげのおにぎりで、残りは単なる醤油ご飯のおにぎりである。
「さて、できた。本来は焦げた部分だけを取り出して作るんだけどな。まずはこっちの、おこげのおにぎりを食べてみてくれ。1人1個な」
「おお、美味しそうですね」
料理長がまず1個。
「おお、これは……! 香ばしくて美味い!!」
「では私も」
「自分も、1つ」
料理人たちは1人1個を口にし……。
「美味いっ!」
「焦げた部分がこんなに香ばしさを……!」
好評だった。残った1個は料理長が長としての権限で食べてしまう。
そこでゴローは、残った24個を焼きおにぎりにすべく動き出す。
フライパンに薄く油を引き、その上で醤油ご飯のおにぎりを焼いていくのだ。
このとき、刷毛を使って醤油をひと塗りしてやることで、味が濃くなり美味しさが増す。
「おお、これも美味い!」
「こちらの方は、香りはおこげにやや劣る気がしますが、いつでも作れますな」
焼きおにぎりも1人1個試食してもらったが、こちらも好評だった。
「陛下にはこっちのほうがいいかと思います」
おこげのおにぎりはどうしても賄いのイメージが強く、女王陛下に出すには抵抗がある。
さらにゴローは、
「最初に混ぜる醤油に、少しだけ出汁を混ぜるとさらに美味しいかも」
とアドバイスを行ったのである。
時刻は午前11時半を回ったところ。
「では、陛下に試食していただきましょう」
焼きおにぎりは少々冷めても美味しく食べられるのだ。
試食した分を除く18個の焼きおにぎりを持ち、ゴローと料理長は再び女王陛下の執務室へと向かったのである。
* * *
「おお、待ちかねたぞ! 今度は何じゃ? いい匂いじゃな」
執務室に着くと、到着を待ちかねていた女王ゾラがゴローたちを出迎えた。
「お待たせしました。焼きおにぎりといいます。……ラナさん、これは個人的な意見ですが、この焼きおにぎりにはほうじ茶が合うと思うんです」
「承知いたしました」
ラナにお茶を頼んだゴローは、テーブルの上にお盆ごと焼きおにぎりを置いた。
「ほほう、ご飯に醤油を掛けて焼いたのか」
「はい。炊いたときにできたおこげは賄いとして厨房で食べます。こちらは焦げてない部分に醤油をまぶしてから焼いたものです」
そこへほうじ茶が出されたので、女王はまず1つを口に入れた。
「むぐ……うむ、これは美味い! 醤油の香りと味がよく染みているのう!」
1口サイズなので、女王はぱくぱくとたちまちのうちに4つを食べてしまった。
「ふむ、醤油の焦げた香りは食欲をそそるのう……これはいいぞ。ラナも食べてみい」
「それでは、お相伴させていただきます」
ラナもまた焼きおにぎりを1つ口へ。
ゴローが見ていると、その尻尾がピンとなった。
「これは美味しいです。……ゴロー様、ある程度保存もききますね?」
「そうですね……今の陽気でしたら半日くらいは」
「それなら大丈夫でしょうね。朝に準備して、昼過ぎまでに食べてしまえば」
元々が『祭礼』の際に、忙しくても手軽に食べられるもの、という依頼だったわけで、この『焼きおにぎり』……ジャンガル王国風に言うと『焼きおむすび』と『いなり寿司』はその目的にかなうものだった。
「ほうじ茶にも合うのう」
「ええ。ゴロー様が仰る意味がわかります」
「うむ。ほうじ茶の香りと焼きおにぎりの香ばしさがいいのう」
「……ええと、焼き『おむすび』でなくていいんですか?」
ちょっと気になったゴロー。
「うむ。ゴローはこれを『焼きおにぎり』と呼ぶのであろう? ならば最初に作ってくれたその方の呼び方に合わせるのは吝かではない」
「……ありがとうございます」
自分が考案したものではないので少々くすぐったいゴローだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は6月4日(木)14:00の予定です。
20200531 修正
(誤)焼きおにぎり少々冷めても美味しく食べられるのだ。
(正)焼きおにぎりは少々冷めても美味しく食べられるのだ。
(旧)好評だった。
(新)好評だった。残った1個は料理長が長としての権限で食べてしまう。
(旧)
「陛下にはこっちのほうがいいかと思います」
(新)
「おお、これも美味い!」
「こちらは香りはおこげにやや劣る気がしますが、いつでも作れますな」
焼きおにぎりも1人1個試食してもらったが、こちらも好評だった。
「陛下にはこっちのほうがいいかと思います」
(誤)試食した分を除く15個の焼きおにぎりを持ち
(正)試食した分を除く18個の焼きおにぎりを持ち
20200602 修正
(旧)
「ああ、いい匂いですね」
(新)
「なるほど、こうやって混ぜ合わせるのですか」
「どぼどぼぶっかけるのかと思いましたよ」
「それじゃあしょっぱくて食べられないだろう……」
「ですね」
そしてゴローがさらに醤油をまぶしていくと、香ばしい匂いがしてきた。
「ああ、いい匂いですね」
(旧)「こちらは香りはおこげにやや劣る気がしますが、いつでも作れますな」
(新)「こちらの方は、香りはおこげにやや劣る気がしますが、いつでも作れますな」
20200623 修正
(旧)ゴロー様、ある程度保存も効きますね?」
(新)ゴロー様、ある程度保存もききますね?」