表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/496

04-20 旅行7日目 王宮

「おわっ」

 ラナと共に迎えに来た馬車は、一言で言って絢爛豪華なものであった。

「こういうものは、権威の象徴だから」

 とはサナの言葉。


 そんな豪華な馬車に乗って向かった王宮は、鬱蒼とした常緑樹に囲まれており、奥が全く見えない。

「そういえば、昨日見下ろしていたときも王宮は見えなかったな……」

 高さ30メル()もありそうな針葉樹。

「杉かな……?」

 ゴローが独り言をつぶやくと、馬車に同乗しているラナが頷いた。

「はい、スギでございます。王宮の周囲を囲むように植えられており、守りにも癒やしにもなっております」

「なるほど、無骨な城壁よりもいいよな」

「はい」


 そんなスギの森を抜けると、そびえ立つ巨大な……。

「……鳥居?」

 朱塗りの鳥居だった。

 それが何十と連なり、奥に続いているのだ。

「……お稲荷さんかな?」

 『謎知識』に教えられたゴローの口からそんな言葉が漏れる。

「『センボントリー』と言います。呪術的な意味があったらしいのですが、今では王の権威を示すものとなっております」

 ラナが説明してくれる。

「へえ……」


 ゴローたちを乗せた馬車は、『センボントリー』……『千本鳥居』をくぐり抜けていく。

「『センボントリー』の歴史につきましては、陛下がお話しされるかと存じます」

 何か聞きたそうな顔していたのか、ラナはゴローにそう説明したのだった。


 おそらく100基は下らないだろうという朱塗りの鳥居を抜けると、広い場所に出た。

「ここで馬車をお降りください」

 ラナにそう言われてゴローたちは馬車を降りる。その足下は白い小砂利が敷き詰められていた。

「ここから徒歩で宮殿に向かいます」

「……」

 ラナが一行を導いていくその先にある建物は、ゴローにはどう見ても『神社』に見えた。

(『神社』……だよなあ……『神社』ってなんだ?)

 『謎知識』とそんな自問自答をしつつ、ゴローは足を進めていく。

 ざくっ、ざくっ、という、砂利を踏みしめる音が、静寂な空間に響いている。

「そういえば、警護の兵士はいないんですか?」

 とゴローが尋ねると、

「おりますよ。どこに、とは説明できませんが」

 どうやら姿を隠しての勤務らしい、とゴローは察した。

〈ゴロー、左右の木の陰と、木の上に、いる〉

 サナから念話が届いた。

〈……ああ、本当だ〉

〈それから地面の下、多分塹壕みたいな穴の中にも、いる〉

〈……いるな〉

 気配察知でサナは護衛の位置を捉えていた。ゴローも感知力を強化すると、その位置がわかるようになる。

〈おそらく、この静かな場所の雰囲気を壊さない配慮〉

〈かもな〉

 ゴローとサナも静寂を破らないよう念話だけで言葉をかわしたのであった。


 そして『宮殿』に近づく一行。

(……やっぱり『神社』だなあ……そういう意味で『城』じゃなく『宮』か……)

 木造建築であるのは間違いない。屋根は銅板でかれているようだ。

 礎石の上に柱が立てられており、高床式であることがわかる。

 正面には幅の広い階段があって、両脇に兵士と侍女らしき者が立ち並んでいた。

 兵士は白い服に水色、侍女は白い服に朱色の……。

「『はかま』?」

 ゴローの『謎知識』はまたしてもスポット的な情報のみをゴローに与えてくれたのだった。


「ここでお履物をお脱ぎください」

 木製のすのこが敷かれており、一行はそこで履いていた靴を脱ぐことになる。

「これをお履きください」

 侍女から差し出されたのは、白い色をしたサンダルともスリッパともつかない室内履き。

「あ、どうも」

 ゴローをはじめ、全員がそれを履くと、

「では、こちらへ」

 再びラナが、一行を導き、階段の上へと案内していった。


 階段の上は幅の広い縁側となっており、正面にはがっしりした格子戸があった。

「お客様がお着きです」

 ラナがそう告げると、格子戸はゆっくりと開いていった。

「どうぞ中へ」


 宮殿の中はかすかに木の香りがし、ひんやりした空間だった。

 天井は高く、何か絵が描かれているようだ。ゴローとしてはじっくり見てみたいが、今はそうもいかない。

 宮殿内の最奥に鎮座する存在から目が離せなかったのだ。


「ようこそ、お客人」

 その存在が口を開いた。

「我が娘が世話になったようですね。礼を申しますぞ」


 そこに座っていたのは、白……いや、白銀の毛並みを持つ九尾の狐だったのである。


*   *   *


(わらわ)がジャンガル王国の女王、『ゾラ・ウルペス・ジャンガル』じゃ」

 他の者と明らかに違う、威容とでも言うべき雰囲気をまとった狐獣人(ビーストマン)

 容姿端麗という形容がぴったりの女王。

 白銀色の毛並みは室内でも艷やかな光を放つようで、着ている服はジャンガル王国特有のものなのか、ゆったりしたもの。


「娘の危急を救ってもらったこと、いくら感謝しても足りぬ」

 女王ゾラ・ウルペス・ジャンガルは、わずかではあるが頭を下げた。

「あ、いえ、あれは、とっさのことと言いますか……」

 慌てるゴロー。

「いやいや、謙遜するな。本当に感謝しているのじゃ」

 聞き覚えのある声に気がつくと、右手からリラータ姫がやってきて、ゆっくりと女王の横に並んだ。

 いつもと違う、ジャンガル王国独特の衣装である。

(ちょっと和服に似ているな……和服ってなんだっけ?)

 そんなことを思ったゴローである。

 ルーペス王国の服と違い、ゆったりした服は前合わせで、帯で締めるようになっており、下はズボンのようなスカートのような形。

狩衣かりぎぬ……とかいうやつか? ああ、狩衣ってなんなんだよ!?)

 『謎知識』により単語が浮かんでくるが、その内容がよくわからないのでゴローは内心苦笑せざるを得なかった。

(まあ、『謎知識』といっても万能じゃないよなあ)

 そう思うと少し気が楽になる。


「それではゴロー、サナ、ティルダ、別室へ来てたもう」

 正式な謁見は終わりのようで、女王ゾラは玉座から立ち上がると、左手奥へと歩み去った。

「うむ。ゴロー、サナ、ティルダ、行こう」

 リラータ姫がゴローたちを誘った。

「こちらへどうぞ」

 狐獣人(ビーストマン)の侍女に付き添われ、ゴローたちは別室へと移動。


「おお」

 驚いてばかりのゴロー。

 移動した先は畳敷きの大部屋であった。

 座椅子が置かれ、ローザンヌ王女たちもそこにいた。

「おおゴロー、来たか」

 気さくに声を掛けてくるローザンヌ王女。

「この床はいいですねえ。寛げますよ」

 クリフォード王子は、畳の部屋が気に入ったようだった。

「畳、いいですよね」

 そう言いながらゴローも。侍女に案内された席に座る。

 驚いたことに、床には四角い穴が掘られており、椅子のように座れるので足が楽だった。

(寒い時は掘りごたつになるのかな?)

 と、『謎知識』がささやく。

 で、ゴローの隣がサナ、さらにその隣にティルダである。


「粗茶ですが」

 ゴローたちが席に着くと、緑茶が給仕された。

「あ、美味しい」

「……美味しいのです」

 ずっと緊張しっぱなしでここまで終始無言だったティルダが、ようやく口を開いた。


「さて、まずは謝らねばな」

 女王ゾラはゴローに対し、先程より大きく頭を下げたのである。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は5月14日(木)14:00の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この場合の謎知識って単純に用語的に憶えていて詳細に記憶していないんだろうか?(和服の由来とか関わり薄いと把握できないよね…………) [一言] 御者「どうぞお乗りください」半壊した箱を人…
[一言] >(まあ、『謎知識』といっても万能じゃないよなあ) とはいえ、ある意味でこれ以上のチートって無いですよね。 必要な時に、必要な情報のみを確実に得られる、ということが続くなら。 あと『謎知識』…
[一言] 「『センボントリー』と言います。呪術的な意味があったらしいのですが、今では王の権威を示すものとなっております」 ↑ 聖梵(セント・ボン)トリー (´・ω・`)昔のビックリ○ンを思い出しました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ