04-18 旅行6日目 王都到着 その3
温泉に入り、(特にティルダが)さっぱりとしたところで、夕食が運ばれてきた。
「おお」
1人に2つのお膳。
1つはおかず類。野菜の煮物、川魚の塩焼き、それにお新香。
もう1つは、なんと白いご飯が載っていた。それに味噌汁。
「うわあ……」
運んできたのは第2迎賓館の職員というか仲居さんたち。
そして、料理の説明のためか、ラナも一緒だったのだが、そのラナは、ゴローが発した声をどうやら勘違いしたようだった。
「見慣れないものをお出しして申し訳ございません。ですがこれは我が国の特産を使った料理でして……」
済まなそうな顔で説明を始めたラナを、ゴローは遮った。
「あ、ち、違いますよ! まさかお米が食べられると思っていなかったんでびっくりしただけです!」
するとラナは明らかにほっとした顔になった。
「そうでしたか。……でもゴロー様は『お米』をご存知なのですね? やっぱり、以前いらしたことがあるのでは?」
「いえ、ですから聞いただけなんです」
「そう仰ってましたね。でも……いえ、失礼いたしました。……こちらは『味噌汁』と言います。これも我が国独自の調味料を使った料理です……」
味噌汁の具はジャガイモとタマネギ、出汁は肉系のようだった。
(この組み合わせなら妥当か……)
そして、塩焼きにされた川魚は……。
「この『アーユ』は1年で大きくなる魚でして、初夏から秋が漁期で冬には捕れないんですよ」
(鮎……かな……)
『謎知識』はゴローにそう囁いていた。
* * *
「……意外と、美味しい」
「食感、好きなのです!」
白米のご飯は、サナとティルダにも好評だった。
(……ちゃんとジャポニカ米だ……)
そこに、『木の精』のフロロと『屋敷妖精』のマリーも現れた。
「あ、いい匂い。……変わった食べ物ね」
どうやらフロロも、米は初めて見るらしい。
「ご主人さま、この献立、お好みなのですか?」
マリーはマリーで、出された献立を見て、ゴローの好みを把握しようとしてくれた。
ゴローは2人に説明する。
「これはごはん……『稲』という植物の実である『米』を脱穀、精米して炊いたものだ。こっちは味噌汁。基本的には味噌を溶かし込んだスープだな……」
「ふうん……麦とは違うのね。560年生きてきて初めて見たわ」
「勉強になります。……なるほど、豚肉で出汁をとっていますね……」
さすがのフロロも、植物相が全く異なる場所の穀物については詳しくなかったようだ。
また、マリーはここぞとばかりに作り方をゴローにレクチャーしてもらっていた。
用意されていた茶葉は、これもまた煎茶であった。
「このお茶、緑色をしているのです」
ティルダが不思議そうに言い、一口飲んで、
「あ……この味、好きかもです」
と、味わいを気に入ったようだった。
「うーん……」
ゴローは、やはりこの国には『ブルー工房』の創始者である『青木さん』と同郷の者が関わっていると確信したのであった。
* * *
3人は食後、少し食休みをしてから再び温泉へ。
「あ、露天風呂もあるんだな」
先程は夕食前ということで気が付かなかったが、風呂場の奥に小さなドアがあって、そこから露天風呂に出られるようだ。
せっかくなので出てみるゴロー。
「おお」
室内は石造りの四角い浴槽であったが、露天風呂は岩風呂といってもいい、自然石を組み合わせた浴槽であった。
歩く場所や湯船の中の石材の表面は適度に均してあるので怪我をすることはないだろう。
「これもいいなあ」
外気にさらされているので内湯より少し温めのお湯に浸かりながら、ゴローは夜空を見上げている。
名前のわからない星を散りばめた漆黒の夜空が広がっていた。
「天の川もあるな……ということは、この星も銀河の中にあるんだな……」
などと、少し怪しい『謎知識』の囁きを脳内に聞きつつ、ゴローはのんびりと入浴を楽しんだのであった。
〈ゴロー、露天風呂にいるの?〉
サナから『念話』が届く。
〈ああ。なかなか雰囲気のいい風呂だぞ〉
〈そう。……混浴?〉
〈いや、違うと思う〉
ちゃんと女湯との間には仕切り代わりに灌木の植え込みがあった。
〈そう。じゃあ、ティルダを誘って、出てみる〉
〈ああ、いいと思うぞ〉
灌木の向こうからぺたぺたと足音が聞こえ、続いてザブンという水音が聞こえた。
〈……ほんと、星空がきれい〉
再び、サナからの念話が届く。
〈だろう?〉
「わあ、綺麗な星空なのです」
ティルダの声も植え込み越しに聞こえてきた。
ゴローたちにとって、のんびりゆっくり寛げた温泉であった。
そしてこの温泉には、なんとフルーツ牛乳? が用意されていた。
温泉で火照った身体に、冷たいフルーツ牛乳? が美味い、と思いながら、同時に、
「これって牛乳なんだろうか?」
ヤギか何かの乳かもなあ、と思ったゴローであるが、
「明日にでも聞いてみよう……」
と心にメモしたのである。
* * *
「明日は朝の9時頃まではのんびりできるんだったよな」
部屋に戻って、畳の上に大の字に寝そべりながらゴローが言った。
「はいなのです」
ティルダもまた、真似をして寝っ転がっている。
「気持ちいい」
サナも同様だ。
「い草、って言ってたわね。これも知らなかったなあ……」
『木の精』のフロロがしみじみとした声で呟いていた。
「ご主人さまはこうした床敷きがお好み……作れるでしょうか」
マリーはマリーで、畳を作れないかと考えている。
「フロロ様、このい草を持って帰って栽培できますか?」
「うーん、そうね。よっぽど特殊な環境が必要でなければできるんじゃない?」
フロロもまた、サナが畳を気に入っているようなので、協力してくれるようだ。
「生えている場所を見られれば確実なんだけど」
そんなフロロにゴローは、
「俺の知る限りだと、水辺に生える草らしいぞ」
い草は『イ』または『イグサ』といい、イグサ科の植物である。湿地や水中に生える。
古くは和ろうそくの芯や、燭台の灯心にも用いられた。
「ふうん……なら栽培できそうね」
「できるなら稲も栽培してほしいなあ」
ゴローとしては、お米の安定供給もお願いしたい。
「そうね。サナちんも気に入っているみたいだし。ゴロちん、こっちにいる間に種を手に入れなさいよ」
「わかった。やってみる」
こうして、米と畳のため、ゴローは努力することになる……。
* * *
寝る前には女中さん(仲居さん?)が布団を敷きに来てくれた。
「わあ、ふかふかなのです! それにこの枕、ザラザラ音がして面白いのです!」
どうやら真綿(絹の綿)が入った布団のようだ。
そして枕はそば殻かな……と、『謎知識』に教えられたゴローである。
もちろん、寝心地は上々であったことは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は5月7日(木)14:00の予定です。
火曜更新はちょっとできそうもありません。
御了承ください。
20200503 修正
(誤)(この組み合わせなら妥当家か……)
(正)(この組み合わせなら妥当か……)
orz
(旧)これも我が国独自の調味料です……」
(新)これも我が国独自の調味料を使った料理です……」