表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/503

04-16 旅行6日目 王都到着 その1

 キオーナ村を午前7時半に発った一行。

「街道の幅が広くなった気がする」

 これまでは標準の大きさの馬車がやっとすれ違える程度、つまり馬車2台半くらいの幅だったが、3台半くらいの幅になっていた。

 そんなところからも、王都が近いことを感じられる。

 しかも、馬車が1時間も進まないうちに集落に出会った。

「ここではなく、次の集落で休憩するそうだ」

 と、馬に乗るモーガンが教えてくれた。


 そしてまた1時間足らずで次の集落にやってきた。時刻は午前9時。

「ここで休憩か」

 食事にはまだ早いので、水を飲んだり用を足したりということになる。

 ちなみに、この集落のトイレは水洗式だった。

 どうやら地下に下水道があるようで、汚水は一箇所に集め、魔導具で処理しているらしい。

「衛生観念が進んでいるのはいいことだよな」

 とゴローは思ったが、

(……風呂がないのはいただけない)

 とも思っている。

 結局この道中、まともな風呂に入れたのは温泉のある村、ワヒメカ村でだけだったのだから。

「きっと、王都にはお風呂があるのです……」

 ティルダも、お湯で体を拭くだけの毎日には少々うんざりしているようだ。

「でも、獣人(ビーストマン)の人たちって、水浴びだけで平気らしいのです」

「へえ、そうなのか」


 ゴローやサナを作った博識の『ハカセ』であるが、獣人(ビーストマン)の血は引いていないためか、そっち方面の文化文明には疎かった。

 従って、長らく助手を務めていたサナも、獣人(ビーストマン)の暮らしには詳しくない。むしろティルダの方が詳しいくらいだった。


「鼻……嗅覚が優れているだろうから、においには敏感だろうしなあ」

 ゴローがそう言うと、サナが口を挟んだ。

「そうとも言えない、かも」

「え? どうして?」

「……ほら、フロロが嫌った魔除けの花」

「ああ、そういうことか」

 つまりサナが言うのは、獣人(ビーストマン)は確かに鼻がいいが、においの好き嫌いがあるのではないか、ということだ。

 もう少し具体的に言えば、獣人(ビーストマン)同士の体臭はあまり気にしない可能性がある、という意味である。

「あとは、特定のにおいには鈍感、とか」

 あくまでも推測だが、いろいろな可能性が考えられた。

 とはいえ、におい、特に体臭についてはデリケートな問題かもしれないので、こちらから聞くのはやめておこうと決めたゴローなのであった。


*   *   *


 午前10時出発、馬車はまた進んでいく。

 街道の幅は更に広がり、馬車4台分くらいになった。

 そしてこの旅で初めて、別の馬車とすれ違ったのである。

「あれは商人の馬車、らしい」

 すれ違った馬車は2台。

 前を行く馬車は飾りっ気がなく、後ろを行く荷馬車は荷が満載されていた。

「何を売るんだろう?」

 木材は『転移の筺(トランスボックス)』を使うと聞いたので、それではないだろう。

「おそらくドライフルーツなのです。それに香辛料、布や革などの細々したものも、です」

 国家間の貿易は『転移の筺(トランスボックス)』で、個人の取引は馬車で……となるようである。

「なるほどな」

 鉱石類もあるかもしれない、と考えるゴローであった。


*   *   *

 

 そして行く手に平らな山のような地形が見えてきた。

「あそこが王都ゲレンセティらしいのです」

 ティルダが言った。

「……テーブル台地か? いや違うな……」

 『ハカセ』が住んでいる(はずの)山に似ているが、台地ではなさそうだった。


 そしてその正体は、近づくにつれはっきりしてくる。

「……二重火山って言ったっけ……?」

 『謎知識』が教えてくれる。


 二重火山は二重式火山ともいい、カルデラ(火山の活動でできた凹地、だいたいは元の火口)の外壁をなす外輪山と、カルデラ内部の中央火口丘とから成る火山である。

 阿蘇山などはこの例。

 だが、この王都ゲレンセティは、伊豆諸島の1つである『青ヶ島』に似ていた。


「凄いなあ」

 そそり立つ外輪山の麓に着いたのは午前11時。

 時間的には早い到着だが、ここからカルデラ内までの標高差は500メル()ほどもありそうだ。


 『謎知識』曰く『富士山のブルドーザー道を思わせるようなジグザグ道』が刻まれており、そこを登っていくことになるのだろう。

「今日中に着けるのです……?」

 ティルダが不安そうに言うが、

「標高差が500メル()として、勾配が5パーセントなら道のりは10キル(km)だ」

 ゴローは道のりを計算した。


 ちなみに、道の勾配は角度ではなくパーセント(百分率)で表されることが多い。

 鉄道だとパーミル(千分率)。

 100メル()進むと5メル()登るのが5パーセントの勾配である。


「5パーセントの勾配だと、馬車の速度は半分以下になるから、時速2キル(km)として5時間だな」

「……なら、なんとかなりそうなのです」


*   *   *


 昼食を含めた1時間の休憩後、正午に出発。

 いよいよジグザグ道を登っていくことになる。

 道はきれいに整地されているので、馬車もスムーズに動く。

「なるほど、これなら予想より少しだけ早く着くかもな」

 時速2キル(km)が2.2キル(km)くらいになるかもしれない、とゴローは思った。


「ふわああ、高いのです……」

 外輪山は45度以上の傾斜を持ち、そそり立つようにそびえているので、そこに刻まれたジグザグ道を行くのはスリルがある。

 なにせガードレールのない山道なので、1つ間違えたら馬と馬車ごと転落だ。

「おそらく年に1度以上の事故が起きているんじゃないかなあ」

 とゴローが言うと、

「ゴ、ゴローさん、脅かさないでくださいです!!」

 と、泣きそうな顔のティルダににらまれてしまった。

「悪い悪い」

 頭を掻き、謝るゴロー。


 馬車はゆっくりと登っていく。

 馬の疲労を考え、15分に3分くらいの休憩を入れながらだ。

「結局、平均したら最初の予想どおりかな」

 10パーセント上がった速度が休憩で相殺、いや少し予想より時間が掛かりそうだ。

「いろは坂よりすごいな……って、いろは坂ってどこだろう?」

 『謎知識』がまたしても変な情報をゴローに投げかけていた。


 そして休憩をはさみつつ、何度目か……十何度目かの方向転換をすると、外輪山の傾斜が少し緩んだようだった。

 さらに何度か方向転換をすると、明らかに斜面の傾斜が緩み、ジグザグ道のジグザグ度合いが減少した。

「ようやく上についたのです?」

 時刻は午後4時半頃、ようやく外輪山を登りきったようだ。

 結局、ゴローの予想と大差はなかった。


「あ、あの切り通しから中に入るみたいです」

 街道の先は、岩の門のようになっている。

 そこをくぐれば、カルデラ内部が一望できた。

「わあ……」

「うわあ」

「綺麗なのです」

 それぞれサナ、ゴロー、ティルダである。


 外輪山の内部には広い平野が広がり、カルデラ湖らしき湖もあった。

 『中央火口丘』もあり、その麓に王城があるらしい。

「あの湯気は……温泉かも」

 元が火山なら温泉が湧いていてもおかしくない。

 俄然到着が楽しみになったゴローであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月30日(木)14:00の予定です。


 20200426 修正

(旧)臭い

(新)におい

 4箇所修正。


 20200427 修正

(誤)頭を描き、謝るゴロー。

(正)頭を掻き、謝るゴロー。


 20210216 修正

(誤)「……風呂がないのはいただけない」

 とも思っている。

(正)(……風呂がないのはいただけない)

 とも思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うっわ、恐ろしいところに都市を建ててるな、、、。
[気になる点] 「……風呂がないのはいただけない」 →今までの物語の流れでは、 心の呟きは()でしたよ。
[気になる点] 頭を描きってこれでいいの? 頭を掻き? [一言] マギクラフトマイスターから来ました。 応援してます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ