04-14 旅行5日目夜 その2
ゴローたちが向かった建物は、野外音楽堂に少し似ていた。
『母屋』に相当する建物と、その手前にある半円形の『舞台』。
そして舞台の前にはテーブルと椅子が並べられており、料理が並んでいる。
篝火が焚かれており、そこそこ明るい。
舞台の前には多数のテーブルと椅子が並んでおり、その後ろには椅子はなくテーブルに載せられた料理が置かれていた。
ちょっと立食パーティに似ているが、そちらは招待客ではない一般人向けの席のようだった。
「ゴロー様御一行ですね。こちらへどうぞ」
と案内された席は、舞台の真正面、特等席である。そこには顔見知りも座っていた。
「お、ゴローたちも来たな」
「王女殿下もこちらですか」
「うむ」
ゴローとサナ、ティルダは、ルーペス王国のローザンヌ王女、クリフォード王子、モーガンらと同じテーブルであった。
同じテーブルにはジャンガル王国のリラータ姫とその従妹で付き人のネアたちが座っている。
一番上座と思われる場所がローザンヌ王女、その隣にクリフォード王子、護衛のモーガン、ゴロー、サナ、ティルダの順だ。
そんな彼らと向かい合わせにリラータ姫、ネア、女官らしき女性、護衛らしき男性の順で座っている。
「……あれ、さっきの」
ちょうどゴローの正面に座っている護衛らしき男性は、先程のルナールとかいう狐の獣人であった。
よく見ると女官も狐耳に狐尻尾である。
「……ラナと申します。姫様付きの女官を承っております」
「ゴローです。こちらこそよろしく」
(女官か……あれ? 聞いたような名前……あ、ブルー工房にラーナっていうドワーフの子がいたっけ)
工房主アーレン・ブルーの秘書をしている子だったな、とゴローは思い出していた。
「サナ」
「ティルダ、なのです」
「ルナールだ。姫様の護衛をしている」
ゴロー、サナ、ティルダと続けて自己紹介したあと、ゴローの正面に座る男が名乗った。相変わらずゴローを睨みつけている。
(……迷惑だな……)
内心でため息をついたゴローであった。
「さて、そろそろじゃな」
さらに篝火が焚かれ、あたりが明るくなった。
「ローザンヌ殿下、クリフォード殿下、妾と一緒に舞台に上がっていただきたい」
「ああ、紹介するのだな」
「話が早くて助かる」
そういうわけで、リラータ姫とローザンヌ王女、クリフォード王子らは舞台へと上がったのである。
拍手が鳴り響く。
「皆の者、集まってくれてありがとう。今回の隣国訪問は概ね滞りなく終わった。そして友好使節として王女殿下と王子殿下がいらしてくださったのだ」
さらなる拍手が巻き起こった。
「……ローザンヌ・レトラ・ルーペスだ。今夜は手厚いもてなしを受け、礼を言う」
「クリフォード・ホイーロ・ルーペスです。お招きくださりありがとうございます」
2人が自己紹介を行うと、盛大な拍手が贈られたのである。
その後、リラータ姫が簡単な報告を行い、堅苦しい行事は終わりとなった。
あとは宴である。
(宴会が好きだな……)
と、ゴローは内心、ジャンガル王国民をそう評した。
そしてその評価どおり、時間を追うに従ってにぎやかになっていく。
「あ、何か始まった」
サナが指差す舞台上では、獣人の子どもたちがダンスを披露していた。
「かわいい」
サナは目を細めてそれを見ている。
10才前後に見える子どもたちは、犬系・猫系などさまざまで、女の子はひらひらした衣装、男の子は身体にフィットした衣装を着ている。
それが、所狭しと飛び回るので目まぐるしい……かと思いきや、どうしてなかなか魅せてくれる。
子供でも獣人、身体能力は人族を遥かに凌駕している。
都合10分ほどのダンスが終わると、宴会に参加している全員からの温かい拍手が贈られた。
「……かわいかった」
「だな」
可愛いもの好きなサナは堪能したようだった。
「あ、今度は大人のようなのです」
ティルダの声に舞台を見やれば、女性の獣人2名が上がっている。
「剣を持っているぞ?」
「おそらく剣舞じゃのう。2人とも近衛騎士じゃから」
リラータ姫がそう教えてくれた。
「あ、始まったのです」
ティルダの声に視線を舞台に戻せば、2人の近衛騎士は剣と剣を軽く合わせ、いよいよ剣舞が始まった。
「おお、見ごたえがあるな」
ゆっくりのんびりした動作から始まり、少しずつ少しずつ、動きが速くなっていく。
ある時は剣を打ち合わせ、あるときは剣で空を切る。
それは次第次第に速くなり、ついには普通に剣で切り結んでいるかのようになった。
「す、凄いです。これでも、剣舞なのです?」
圧倒されたティルダがそうこぼすと、モーガンが解説を入れた。
「これは間違いなく剣舞だよ、ティルダちゃん。なんとなれば、剣筋が揃っているから。決まった動作が繰り返し出てきているしな」
さすが元近衛騎士、そうした目と判断力は優れている。
「でもな、あの速度は鍛えた剣士にしかできない」
2人の剣舞が終わったときには、万雷の拍手が贈られた。
* * *
宴は滞りなく進んでいき……。
酔っぱらう者も出始めたようだった。
とはいえ、王族が出席している宴であるから、泥酔したり悪酔いしたりするほどの酒は出されてはいないようで、ほろ酔い程度でとどまっているようだ。
だが、そんなほろ酔いでも、ノリのいい獣人たちは……。
「ひゃっほい! 誰か俺に掛かってこいやあ!」
舞台の上で模擬戦を始める者が出てきた。
「よっしゃ!」
そしてそれに呼応する者も。
そういうわけで舞台の上では熱い戦いが始まった。
「おー!」
「いいぞ、やれやれーい!!」
獣人たちには日常茶飯事なようで、大怪我をするようなことはせず、楽しくやりあっている。
ただ少々暑苦しいが……。
「……ゴロー、俺と勝負だ!」
「……え?」
「余興だよ、余興」
「……はあ」
ゴローがため息をついた時、サナからの念話が届く。
〈ゴロー、ルナールはしつこい。一度、適当に相手してやったほうがいい〉
〈……素手でなら、いいか〉
武器を使わないなら、まあ……。と考えるゴロー。
〈でも、相手は獣人。油断しないで〉
〈わかったよ〉
「ルナール、いい加減にしなさいよ……!」
ネアが文句を言うが、ゴローはそれを押し留めた。
「いいよ。余興なんだろう? ちょっと付き合ってくるよ」
「はっはー! そうだ、いい度胸じゃないか!」
「……ゴロー、大丈夫なのか? ルナール、やりすぎるではないぞ?」
リラータ姫に注意されても、酔いが回ってハイになったルナールは聞き流す。
「はいはい、大丈夫ですよ。こいつも自分からやるって言ってんですから」
そう言いながらルナールは舞台へと上がった。
「おら、邪魔だ!」
「なんだ……わふう!!」
「わっぎゃっ!!」
舞台の上でバトルをしていた2人を蹴り飛ばして退けたルナール。
「さあ、やろうぜ」
ゴローに向けて拳を突き出したのであった。
お読みいただきありがとうございます。
都合により、次回更新は4月23日(木)14:00の予定です。
20200419 修正
(誤)とはえ、王族が出席している宴であるから
(正)とはいえ、王族が出席している宴であるから
20200420 修正
(誤)篝火が炊かれており、そこそこ明るい。
(正)篝火が焚かれており、そこそこ明るい。
(誤)さらに篝火が炊かれ、あたりが明るくなった。
(正)さらに篝火が焚かれ、あたりが明るくなった。
(誤)それは次第次第に早くなり、ついには普通に剣で切り結んでいるかのようになった。
(正)それは次第次第に速くなり、ついには普通に剣で切り結んでいるかのようになった。
20210216 修正
(誤)宴会の参加している全員からの温かい拍手が贈られた。
(正)宴会に参加している全員からの温かい拍手が贈られた。
(誤)ゆっくりのんびりした動作から始まり、少しずつ少しずつ、動きが早くなっていく。
(正)ゆっくりのんびりした動作から始まり、少しずつ少しずつ、動きが速くなっていく。