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04-12 旅行5日目その2

ラストにちょっとアレな描写がありますので、お食事中の方はご注意ください

 バナナセーキを作ったゴローであったが、その他にもパイナップルやマンゴーもあったので、そちらも味わってみた。

 どれもゴローが『知って』いるものとほぼ同じであった。

「ゴロー、そのうち、また何か作って?」

 とサナに言われたゴローである。


 そして午前8時半、一行はファリサ村を出発した。

 護衛や御者の幾人かはなんとなく調子が悪そうである。

 だがモーガンは元気そのもの。

「ゴロー、サナちゃん、ティルダちゃん、中間地点は休憩舎じゃなく村なんだってよ」

 ジャンガル王国に入ったものだから、これまでのように畏まらず、道中ちょくちょくゴローたちの馬車に馬で併走しては窓越しに話し掛けてきた。

(これまでずっと堅苦しくて退屈だったんだろうな……)

 とゴローは悟り、

「どんな村なんですか?」

 などと相手をしている。

 窓を開けているので、若干内部の涼しい空気が逃げ出すが、そこは『人間エアコン』の出力を上げることでカバーした。


「カナノ村といって、ブドウ酒作りが盛んな村だ」

「ワイン、と言わないんですね?」

「そこはこだわりらしい。美味いんだぞ、カナノ村のワインは。昼間から飲めないのが残念だ。……買って行くけどな」

 ジャンガル王国になったので、ルーペス王国内よりは規律が緩くなったようで、モーガンはいつもの調子を取り戻したようであった。

「勤務中にこっそり飲んじゃ駄目ですよ?」

 とゴローが言えば、

「おう、いくらなんでもそれはしないさ」

 と言われたのであった。


*   *   *


 モーガンもずっと話し込んでいるわけにはいかないのでゴローたちの馬車から離れた。

 その後は何ごともなく……つまり、ゴローたちには退屈な時間が過ぎ……。

 午前11時少し前頃、中間点であるカナノ村に到着したのである。


「……何となく甘い匂い……というか、これ、ブドウの匂いだよな?」

 馬車を降りて最初に感じたことがそれである。

「匂い、なのです? 私にはわからないのです」

 どうやらティルダには匂いが感じられないようだ。

「ほんのかすかな匂いだから」

 サナが言う。『人造生命(ホムンクルス)』の鋭敏な感覚だから感じられたのだろう。


「あれ、少し涼しいな……」

 これまでの村と、明らかに気候が違うと感じたゴロー。

「ここは台地の上みたいだから、そのせいかも」

 サナが言う。

「え、そうだったか?」

「うん。ゴローはモーガンさんと話し込んでいたから、気がつかなかったのかもしれないけれど、途中で緩い上り坂だった」

「そうだったのか」

 周囲のジャングルから突き出た台地にある村、それがカナノ村だった。

 高々100メル()ほどの標高差だが、ジャングルの上に顔を出しているため、風の通りがすごくいいのである。

 そのため、気温は1度弱低くなっている。そして湿度は20パーセントくらいも下がっていた。これは大きい。

「そんな気候を利用して、ワイン……ブドウ酒を仕込んでいるんだな。海洋性気候……に近いのかも。海は遠いけど」

 ゴローはそうひとりごちたのである。


*   *   *


 昼食はバナナとマンゴーだった。

 どちらもまあまあ甘く、サナも文句を言わず、大皿に盛られたものをペロリと平らげたのである。

「バナナよりマンゴーの方が水っぽくて食べやすいのです」

 とはティルダの言葉。

 確かに、バナナを慌てて食べると喉につかえるからな、と思ったゴローであった。


 この日は時間に余裕があるので、午後1時までここで休憩である。

 それでゴローは、村の中を散歩してみることにした。

「私も行く」

「あ、私も行くのです!」

 と言って、サナとティルダも付いてきた。


 このカナノ村は台地の上にあるので、葡萄畑は周囲の斜面に作られている。

 つまり村より下に畑があるのだ。これはなかなか斬新な眺めであった。

「行きはよいよい、帰りはこわい、ってな」

 『謎知識』に告げられたゴローが思わずそう呟くと、

「なんなのじゃ、それは?」

 と声がし、振り向くとそこにはリラータ姫とネアが立っていた。

「ゴローさんたちもお散歩ですか?」

 と、ネア。

わらわたちも食後の散歩じゃ。特にネアは一人では危ないのでわらわが付き添いなのじゃ」

 王女殿下に付き添いさせる付き人というのもどうなんだろう……とゴローは内心で苦笑していた。

「……でじゃな、さっきの『行きはよいよい、帰りはこわい』とはなんじゃ?」

「え、ええと……昔、何かで読んだか誰かに聞いた言葉ですよ」

 無難な返答をしておくゴロー。

「……ほら、こういう地形ですと、行きは下りだから楽でしょう? で、ずんずん下っていってしまって、戻ろうとしたら登りですからさあ大変、というような意味ではないかと」

 かなり勝手な解釈を加えて説明するゴロー。

 とはいえ、このシチュエーションには合っているので、リラータ姫もネアも、それで納得したのだった。

「なるほどの。行きはよいよい、帰りはこわい、か。面白いのう」


 そんな会話をしながら村を回る。

 リラータ姫が一緒なので揉みくちゃにされるかと思ったが、村人の大半は畑仕事に出ているようで、思ったより静かであった。

 たまに子供が寄ってきては、姫様に頭をなでてもらい、喜んで駆けていく……というパターンが続く。


「あっ、姫様だ!」

「姫様ー!」

 急に賑やかになったと思ったら、そこはワイン、いやブドウ酒の醸造所。

 当然、働いている人たちが大勢いるわけで……。

「ようこそ、俺たちの醸造所へ!」

「試飲してみてください!」

「あんた方も飲んでみてくれ!」

「ネアさん、だっけ? ほれ、飲んでみ?」

 揉みくちゃにされていく。


「……ティルダ、こっち」

 一番小柄なティルダは真っ先に潰されそうなので、素早くサナが引っ張り出し、距離を取った。

「ふう、サナさん、ありがとうございますです。……ゴローさんは?」

「ゴローなら、大丈夫。……先に帰ろう」

「はいなのです」

 サナが言うのだし、ゴローはいろいろ規格外だから大丈夫だろうとちょっとピント外れの信頼を寄せながら、ティルダはサナと共に馬車へ帰ったのだった。


 そして残されたゴローは。

「おう兄ちゃん、ネアちゃんが世話になったんだって? まあ一杯いけよ」

「あ、はあ、どうも」

 醸造所の『獣人(ビーストマン)』たちに捕まり、ブドウ酒を飲まされていた。

(サナとティルダ……うまく逃げたな……)

 それと察してはいたが、ここで自分まで逃げたら悪いかな、と躊躇ちゅうちょしたため、リラータ姫やネア共々、捕まってしまったのだった。

 そして、さすがに王女殿下に無理やり酒を飲ませるわけにはいかないので、必然的にネアとゴローにお鉢が回ってくるわけだ。


「ふにゃ……も、もう飲めましぇん……」

 ブドウ酒を取っ替え引っ替え飲まされてネアが潰れた。

「お、俺も、もう……」

 ゴローも酔ったふりをし、飲まされるのを断った。


(確かに、美味いワイン……ブドウ酒だよな)

 人並みに酔うことはできない『人造生命(ホムンクルス)』のゴローであるが、ここで飲まされたブドウ酒は皆いい出来だ、と感心している。

(赤も白も雑味がなくて味が透き通っているよな。モーガンさんが気にいるわけだ)

 自分たち用ではなく来客用に数本買っていこうかなと思ったゴローであった。


*   *   *


 午後1時、出発である。

 ゴローたちを乗せた馬車が行く。

 かなり飲まされたゴローであるが、そこは『人造生命(ホムンクルス)』の身体である。

 ケロリとして馬車に揺られていくのであった。


 一方、ジャンガル王国の馬車では。

「ネア、大丈夫か?」

「うぇっぷ……」

「あ奴らも悪気はなかったのじゃ、許してやれ」

「おぇぇぇ……」

 ネアがマーライオンと化していたのであった……。

 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は4月16日(木)14:00の予定です。

 4月は色々忙しくて書き溜めができませんので……ご了承ください。


 20200412 修正

(誤)このカナノ村は大地の上にあるので、葡萄畑は周囲の斜面に作られている。

(正)このカナノ村は台地の上にあるので、葡萄畑は周囲の斜面に作られている。

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― 新着の感想 ―
[一言] モーガンさんもしかしてドワーフよりお酒強い…………
[一言] のどかな旅の道中の、寄った村とかでの思い出って記憶に残るんですよね〜 さすがにお姫さまを酔い潰すわけにもいかないし、同行者が居れば標的になりますよね ネ「けけろけろけろけろ」 エ「おおええ…
[一言] 「ワイン、と言わないんですね?」 ↑ 幼い頃に読んだ本ではだいたいぶどう酒とあったのにいつの間にかワイン呼びが主流になってましたね。バブル期に変化したイメージですが。 「ゴロー、そのうち、…
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