04-11 旅行5日目 その1
ようやく『光の精』を呼び出すことができたのだが、妖精や精霊はどんな光が苦手なのか、という質問に、
『知らん』
というぶっきらぼうな答えだけが返ってきた。
「……でも、ほら、赤い光とか紫の光とか……」
諦めきれず、ゴローはそういう聞き方をしてみた。
すると、今度は少しだけ参考になりそうな答えが。
「うん? 紫の光は嫌うんじゃねーか? 赤い夕焼けはなんとも思わんだろ」
(……そうするとやっぱり紫外線かな?)
ゴローがそんなことを考えていたら、サナが別の質問をしていた。
「……ね、虹でいうと紫の向こうにある光、って知ってる?」
「ああん? ……ああ、お前らには見えないのか」
それとなく『紫外線』について聞いてみたら、この返答である。
「虫はそういう光が見えているからな。人間は見えねえんだったな」
ドワーフ、エルフ、獣人、皆、可視光線の周波帯域は大差ないらしい、とゴローは推測した。
「虫にも見えないようなやつじゃねえか? よく知らんけどよ」
そんな『光の精』の言葉からすると、波長がやや短い、UVーBと呼ばれる紫外線かもしれない、とゴローは推測した。
「……もういいだろ? 俺は行くぜ」
「あ……」
ぶっきらぼうに言い放った『光の精』は、そのまま篝火の中に飛び込み……消えたのだった。
* * *
「……なんというか、期待外れだったな……」
「うん」
「あ、あたしのせいじゃないわよ! 『光の精』ってだいたいああいう性格なんだから!」
フロロが言い訳めいた大声を上げた。
「わかってる。フロロのせいじゃない」
サナがそんなフロロを宥めた。
「……そ、そうよね。さすがサナちん、わかってるじゃない」
そう言うと、フロロは大きなあくびをして、
「ふああ……もう疲れちゃった。また明日ね」
と言って消えていったのである。
一方、『屋敷妖精』のマリーも、
「ご主人様、それでは失礼致します……」
とゴローに告げて、消えていったのであった。
残されたのは、消えかけた篝火と、ゴローとサナ。それに寝てしまったティルダである。
「……さて、俺たちも休むか」
「うん」
眠る必要はないが、なんとなく気疲れしたゴローとサナは、自分たちの宿舎に引き上げていったのである。
* * *
5日目の朝が来た。
「……頭が痛いのです……」
目覚めたティルダは開口一番、うめき声を上げた。
「やっぱりティルダは酒に弱いんだな……ほら、水」
ゴローは苦笑しながらティルダに水を手渡した。
「うう……果物ジュースだと思ったらお酒だったのです……」
「まあ、ああいう宴会じゃそういうこともあるよな」
渾沌とした雰囲気では、どれが何かなんていちいち詮索していられないだろうし、とゴローは思っていた。
「……食事、食べられるか?」
「うう……あまり……というか全然食欲がないのです……この辺がむかむかするのです……」
「……『治療』」
「えっ? ……あ……大分楽になったのです……ってサナさん!?」
サナがいきなりティルダに治癒魔法を掛けたのである。
「す、凄いのです! 治癒魔法が使えるなんて!」
「え?」
ゴローは、そんなティルダの反応から、どうやら治癒魔法は使える者が少ないようだ、と察した。
〈サナ、ティルダの口ぶりだと、治癒魔法の使い手って少ないんじゃないか?〉
〈うん、そう、かも〉
〈あまり人前で使わない方がいいかもな〉
〈うん、そうする〉
そんなやり取りを経たあと、3人は朝食を摂るため、指定されていた食堂へ向かった。
「おお……!」
そこにあったのは果物の山。
いや、肉や魚もあるのだが、とにかく目立つのが果物だったのだ。
「これは……」
「ババナなのです! ジャンガル王国の特産なのですが、日保ちがしないのでなかなか食べられないのですよ」
サナの治癒魔法により、少し気分がよくなったらしいティルダは、元の説明キャラに戻っていた。
だが。
「バナナ、ですよ、ティルダさん」
と、ネアに訂正されていた。
ゴローはバナナを手に取り、
(やっぱりバナナか……確かに、熟したやつは日保ちしないよな……)
などと考えている。
他にも、ヤギのミルクや青汁みたいな色の飲み物も並んでいるのを見て、
「あ、これならいけるな」
とゴローは呟き、そばにいたネアに、大きな器と砂糖はあるかと尋ねた。
「はい、ご用意できますよ」
ネアは答えてたたたっと厨房へ行き、ゴローが指示した2つを手にし、戻ってきた。
……リラータ姫を引き連れて。
「おおゴロー、また何か美味いものを作るのか? 妾も所望するぞ!」
「……ゴロー、私も」
「はいはい」
もういつものことと慣れてきたゴローは、二つ返事で準備に取り掛かった。
まずは熟したバナナを10本、皮を剥いて器に入れ、スプーンで潰していく。
「え?」
「なんだか不味そうなのです」
ぐちゃぐちゃどろどろになったバナナは、確かに美味しそうには見えない。
だが、ゴローは構わずバナナを潰していく。
(ミキサーがないからな……)
とはいえ、『人造生命』のゴロー、この程度で疲れるようなヤワな身体ではない。
それこそ人間ミキサーのようにガーッとかき回していく。
途中、ヤギのミルクと砂糖を入れ、さらにかき回せばできあがり。
そう、『バナナセーキ』である。
バナナは水分が少ないのでそのままではジュースにしづらい。なのでミルクを合わせたわけだ。
同時に栄養価も高くなるので、流動食としても使える。
さらに砂糖を加えることで、甘さの調整もでき、カロリーも高めることができる。
「ティルダ、これなら胃にも優しいぞ」
と言ってゴローはバナナセーキをコップに注ぐと、まず真っ先にティルダに差し出した。
「あ、ありがとうございますです」
ティルダは嬉しそうにそれを受け取ると、くいっと一口。
「ふわあ……甘くてとろっとしていて……美味しいのです!」
「これなら大丈夫だろう? もう1杯どうだ?」
「はい、いただきますです」
「よし」
ゴローはもう1杯ティルダのコップに注いでやると、飲みたそうにしている面々に向き直った。
そして追加処理を行う。
「サナ、これを冷やしてくれ」
「うん。『冷やせ』」
ゴローにも使えるが、サナを立ててというか、魔法技術は基本的にサナに任せているわけだ。
ティルダには、胃に優しくするため冷やさずに。そして元気な面々には冷やしたものを、ということになる。
「これくらいでいいか。さあ、どうぞ」
まずはリラータ姫に、次いでネアに、そしてサナに。
今回はゴローの分もちゃんと残っていた。
「うむ、これは美味しいのじゃ」
「美味しいです、ゴローさん」
「何これ、美味しい」
「気に入ってもらえてよかったよ」
その後、やって来たモーガンにもお裾分けしてやったゴローであった。
お読みいただきありがとうございます。
4月は何かと忙しくて書きだめができていないため、
次回更新は4月12日(日)14:00の予定です。
御了承ください。