04-02 旅行1日目(夜)
夕食も済み、ゴロー、サナ、ティルダは部屋へ引っ込んだ。
ここは、1つの居間に4つの寝室が付いているタイプの部屋であった。
ゴローたちは3人なので1つ寝室が余るが、宿側としてはたいした問題ではないようだ。
そしてゴローたちだけになったので、『屋敷妖精』のマリー(の分体)がまず姿を現した。
「ご主人様、何かご用はございませんか?」
「ああ大丈夫。今のところは何もないよ」
続いて『木の精』であるフロロの分身も。
「ああ、やっと出てこられたわ!」
出てくるには魔力を消費するので、苗がまだ小さいうちはあまりちょくちょく出てこられないのだとフロロは言った。
マリーもそうなんだろうかとゴローが聞くと、
「はい、そうです」
と答えが返ってきた。
依り代の『古レンガ』が小さいので、『屋敷』妖精としての存在が薄い、ということらしい。
「それじゃあ、あまり頻繁に出てくるのはよくないんじゃ……?」
と心配するゴローだったが、フロロはそれを否定した。
「でも今は大丈夫よ」
夜は精霊の力が強くなるからと言う。
それでも、フロロもマリーも20セルくらいの身長なので、随分と省エネモードだな、とゴローは思っていたりする。
「……夜の方が力が強くなるっていうのは、どうしてなんだろう?」
その疑問には、
「日の光が、精霊の力を削ぐから、と言われてる」
サナが答えてくれた。
「日の光の中には、精霊が嫌う何かが含まれている、というのが定説」
「そうそう、そうなのよ」
「そのとおりです」
『屋敷』にいる本体なら、十分な力があるので日の光の下でも平気なのだが、『分身』や『分体』だとそうもいかないのだと言う。
「サナちんやゴロちんから貰える魔力とは別の話だから」
と、フロロ。
「うーん、貰える魔力は動くためで、存在するための『何か』が日光に弱い、ということかな?」
「あ、そうそう。そんな感じ。ゴロちん、頭いいわね」
「……研究している学者はいるけど、それが何かは、わかっていない」
サナの言葉にゴローは、
「紫外線とか?」
と、『謎知識』によって思い浮かんだ単語を言ってみる。
「しがいせん?」
フロロが聞き返す。
「ああ。……ええと、虹って赤橙黄緑青藍紫……だろ? その紫の外にある光だよ」
「え?」
「え?」
「え?」
最初の『え?』はフロロ、次のはサナ、そして最後のはティルダだった。
「虹って10色じゃないの?」
「え?」
フロロの言葉に、今度はゴローが聞き返す番だった。
* * *
そういうわけでゴローたちはじっくり話をすることに。
ゴローとしては虹は7色、と思っていたのだが、サナは6色だと言った。
「赤・橙・黄・緑・青・紫じゃないの?」
一方ティルダは5色だと言う。
「赤・黄・緑・青・紫なのです」
「……あ、そっか」
ゴローの『謎知識』は、これについての説明をしてくれた。
虹の色、つまり可視光線のスペクトルは連続的なもので、色と色の境界があるわけではない。
なので見る側によって色数が異なるのだ。
現代地球でも、日本では先に述べた7色だが、アメリカは藍色が抜けて6色、ドイツはさらに橙を抜いて5色だと言う。
ちなみに、色彩学上の定義はニュートンによる7色。
それを説明すると皆『?』という顔になった。
「うーん……あ、そうだ『氷』」
ゴローは魔法で氷を出し、『ナイフ』でそれを削っていく。
魔法で出した氷なので、溶けても水にはならないため、床やテーブルも濡れずに済む。
「できた」
ゴローが作ったのは正三角形の断面を持つ三角柱だ。
「これ、もしかして『ぷりずむ』?」
サナが尋ねた。
「そうさ。昔話したことがあったっけな」
『ハカセ』と一緒に暮らしていた時、『謎知識』の披露で、光が連続的なものであることと、プリズムで分光できることを説明していた。
ただし、実際にやって見せてはいなかったので、サナもようやく思い出したというわけだ。
適当な紙に細長い穴——『スリット』を空け、プリズムの前に置く。
そして光源として魔導ランプを用意。
最後にスクリーンとして白い壁に映すことにした。
光源——スリット——プリズム——スクリーン の順だ。
「部屋を暗くするぞ」
そして……。
「わあ! 綺麗なのです!!」
「うん、よくわかる」
「さすがです、ご主人様」
「面白いわね」
白い壁に、くっきりと色別れした光が映し出された。
「魔法みたい。でも魔法じゃない」
「ああ。魔法を使っているのは光源とプリズムの氷だ」
ここでゴローは改めて色を指摘する。
「俺としては赤・橙・黄・緑・青・藍・紫なんだが……」
魔導ランプの光はかなり理想に近い色であったので、7色がはっきり見える。
「うん、これを見れば、わかる」
「確かに7色なのです」
サナとティルダも納得してくれた。
「……で、この紫よりもこっち側にある……はずの光を紫外線と言うんだ」
「紫よりも外側にあるからなのですね?」
「そういうこと。ちなみに……」
「赤の外側が『赤外線』。前に聞いた」
「そうそう」
そしてようやく本題に入る。
「フロロやマリーが苦手としている『光』って、紫外線じゃないかと思ったんだが……」
「うーん、この7色を見ている限り、全然気にならないから、そのかしこうせん? じゃなさそうね」
「だろう?」
そもそもピクシーだって淡く発光しているわけだしな、とゴローは言った。
「でも、『紫外線』かなあ? ちょっとわからないわ。マリーはどう?」
「そうですね……わたくしも、『紫外線』ではないような気がします」
フロロとマリーはそう言って首を傾げた。
「……じゃあ、光のことは光の精霊に聞いてみたらどうかしら?」
ここでフロロがそんな提案をしてきた。
「光の精霊?」
「うん。……といっても、大袈裟なものじゃないのよ。どこにでもいる『光の精』を呼び出すの」
「フロロにできるのか?」
「あたし1人じゃちょっと無理。サナちんに手伝ってもらえば」
「うん、手伝う」
即決のサナである。
「ありがと。それじゃやってみよ?」
そういうわけで、『光の精』を喚び出してみることになった。
* * *
「光源はこれでいいかしら」
フロロによると、明るい光源には大抵『光の精』が棲んでいるという。
ただ、そのほとんどは自分の意志を持たないので、呼び出しても意思疎通ができず、単に上位者に従う——使役されるだけの存在らしい。
「今回は『すぺくとる』の実験だから、それでいいわよね」
頷いたサナとゴローはフロロに言われるまま、魔導ランプに『オド』を注いでいくのであった。
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次回更新は3月15日(日)14:00の予定です。